始動!ブラスタ強化計画!
「……なるほど、紫の鎧はそういう経緯で発現した代物だったんだね。再現性がない奇跡の形態、しかしユーゴはそれを自在に発動できるんだから驚きだ」
ブラスタを解析する間、紫の鎧が発現するまでの経緯を三人の口から聞いていたアンヘルが色々な意味で常識はずれなその話に驚きを露わにする。
複数人分の魔力を吸収してより堅固な鎧へと形を変えるだなんて現象は見たことも聞いたこともないが、実際に今、目の前にそれを成した鎧があるのだから信じるしかない。
ただ、それを再現しようとしてもそう容易くはできないことを知っている彼女は、腕を組みながらふんふんと頷くと共にユーゴたちへと言う。
「紫の鎧の発現は全てが嚙み合った上で起きた奇跡だ。今後、同じ形でブラスタが強化されることを期待するのはやめておいた方がいいだろう」
「まあ、そうだよな。逆にこんな形で強化されたとしても、パワータイプの鎧以外の発現は見込めないしな」
アンヘルの意見に同意しつつ、難しい表情を浮かべるユーゴ。
これから先、同じように鎧を強化しようとしても、大量の魔力を吸った鎧が硬く重くなる以外の道はないだろうなと考えていた彼は、別のアプローチからブラスタを強化しようという彼女の提案を尤もだと考えていた。
「さて、問題はここからどうブラスタを強化するかって部分だ。とりあえず、使ってる本人の意見を聞かせてくれよ」
本題はここから、ブラスタをどう強くしていくか?
アンヘルから問いかけられたユーゴは、腕を組むと唸りを上げながらその方向性を決めるべく考えを深めていく。
紫の鎧は強固であり堅牢であるために防御力と攻撃力が増しているが、移動速度が落ちるという明確な弱点も存在している。
ならばその弱点を補えるようなスピード重視の形態がほしいところではあるが、それだったら鎧を脱げと言われるような気がしてならない。
それに関してはもう少ししたら提案するとして、今、どんな機能が必要かという部分を考えていったユーゴは、自分に足りないと思う部分について話していった。
「やっぱ遠距離攻撃の手段かな……? 接近戦に関しては不満はないけど、遠くの相手に差し込むための手段が足りないっていうかさ」
「ふむ、なるほど。確かにそこは弱点の一つだね」
一応は圧縮した魔力を放つという遠距離攻撃の手段は持っているものの、あれは発動までに時間がかかる技だ。
もっと気軽に牽制も兼ねて繰り出せるような飛び道具がほしいというユーゴの要望に対して、アンヘルが意見を述べる。
「その辺に関しては鎧に搭載した方がいい機能だとはアタシも思う。メルトの魔道具みたいなものを装備しても鎧の下からだと発動が面倒だし、魔力のコントロールにも影響が出かねない。かといって手持ち武器だとそこに魔力を注ぐのにも一苦労だ。だったら鎧自体に遠距離攻撃の手段を付けた方がいいが……問題は、その方法が難しいことかな」
「一番簡単なのは魔力結晶を属性付きのものに変えることですよね。そうすれば、魔力をその属性に応じた攻撃へと変換できる。でも、属性付きの魔法結晶は希少だからなあ……」
「おっと、物知りな弟くんじゃあないか。気に入ったよ、お姉さんがハグしてあげようか?」
「おい、止めろ! フィーの教育に悪いだろうが!」
「そうカッカするなよ。何だったら兄弟仲良くアタシの谷間に埋もれてみるかい?」
「「結構です!!」」
つなぎのジッパーを降ろしながらのアンヘルのからかいに対して、兄弟そろって拒絶の意を示すユーゴとフィー。
息ぴったりの兄弟の仲良し加減に楽しそうに笑みを浮かべた彼女は、気を取り直すとブラスタの強化についての話を再開した。
「ユーゴの意見は尊重しつつ、まずはやれそうな強化からやっていこうか。具体的には、鎧の魔力循環の見直しと形状の調整。前者は両手首足首に配置されている結晶に流れる魔力を調整することによって、全体的なスペックの上昇が見込める。後者は主に関節部の形状を変更したり全体をスマートにすることで動きを滑らかにできる。まずはこの辺からだね」
やりたいことはわかるが、それを実現するには手間もかかるし材料も必要だ。
まずは今現在の時点でできそうな強化案に着手しようというアンヘルの意見に、ユーゴたちが同意するかのように頷く。
その際、ふとあることを思い出したメルトが手を挙げると、思い切った様子でこんな提案をしてみせた。
「あのさ、前にユーゴがやってたと思うんだけど、微粒子金属を手とか足とかに集中させて攻撃の威力を上げてたじゃない? あれ、何かに応用できるんじゃないかな?」
「何だって!? おいおい、どうしてそんな楽しいことを黙ってたんだ!?」
「あ~……確かにそんなことやってたな。あの時は必死だったから直感的にやってたし、今まで忘れてたわ」
以前、ラッシュと戦った際に行った戦法をメルトに言われて思い出したユーゴがぽりぽりと頭を掻く。
対して、その話を聞いたアンヘルの方は瞳を輝かせており、興奮した様子で部屋の中をぐるぐると歩き回りながら独り言を呟き始めた。
「微粒子金属を四肢のいずれかに集中させて瞬間火力を上昇させるだって? 面白いじゃあないか! これを応用すれば、四肢の形状を変化させて武器状にすることもできる! 武器変化の機能を基本にインプットしてみるか……!」
「えっ、マジ? そんなことできるの!?」
「できる。というより、やる。どこまでが実現可能でどこから先が不可能なのか、それを確かめるためにも一つ一つ試していくしかない。紫の鎧という奇跡の形態を発現させたお前なら、大体のことはやってのけてくれそうだしな」
「うっひょ~! すっげぇ! え、じゃあ、右腕にロケット付けて、左脚にドリルとかもできるのか!?」
「ロケット……は難しいかもしれないが、ドリルならいけるぞ。脚よりも腕の方が絶対にいいと思うけどな。こう、形状を変化させた後で微粒子金属を魔力で回転させることによって、疑似的なドリルとしての運用をだな――」
「すっげぇ! すっげぇ! ってことはドリルアームじゃん! そっちはそっちでいいじゃんいいじゃんスゲーじゃん!?」
「あ、あははははは……なんか私たち、蚊帳の外だね」
「やっぱりアンヘルさんと兄さんって似た者同士みたいだ……」
何かに熱中すると周りが見えなくなるというか、そこに向けて一直線になるユーゴとアンヘルが盛り上がる様子を見つめるメルトとフィーが苦笑を浮かべながらそんなことを話す。
ただ、この変わった技師がお人好しな彼の友人として加わったことを喜ぶ気持ちは、二人とも一緒だった。
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