二度目の決闘!そして……邂逅する悪役と主人公!
次なる騒動の幕開け
「兄さんって本当にすごいよね。旧型の鎧型魔道具でよくそこまで戦えてるよ。武器型の魔道具の方が出力も強いし、やれることも幅広いっていうのにさ」
「フィーがいい感じに調整してくれたお陰だよ。それに、俺の場合は剣で戦うよりパンチとかキックの方が性にあってるんだと思うぞ」
「性に合ってるって、そんな軽い理由で……」
兄の言葉に苦笑したフィーは、長きに渡って使っていたガランディルを没収されてもへこたれないどころか、むしろ生き生きしているユーゴの姿を思い返してそれ以上は何も言わずに口を閉ざした。
マーミント街道の警備任務の際に遭遇した魔鎧獣との戦いから数日、今のユーゴは以前よりも色々な意味で目覚ましい活躍を見せてくれている。
フィーは決して記憶喪失前と後で兄への好意を変化させたわけではないが、周囲の人たちから見れば今の彼の方が魅力的に思えるんだろうなということは理解していた。
ゼノンという名の同級生に敗れるまで、ユーゴには確かに粗暴な面もあった。
ガランディルの性能にあぐらをかいて訓練をサボっているという話を聞いたこともあったし、フィーもその点を心配していたりもした。
だが、今の兄の活躍を見ていると、どうしてもユーゴが訓練を怠けていたとは思えない。
旧型の魔道具であるブラスタで魔鎧獣を撃破し、見事なまでの魔力操作で遠当ての技術まで披露した兄は、心身共に鍛え上げられている戦士そのものだ。
今の性格に関してもフィーからしてみれば兄は昔からこんな感じであったし、別に意外でも何でもなかった。
(もしかしたら兄さんは実力を隠していたのかもしれない。決闘に敗れたのも、わざとなのかも……)
ユーゴはもしかしたら、煩わしい名門一族の嫡男という座に辟易していたのかもしれない。
家の中にも外にも敵が多い立場の人間だ。そんな人生を送ることに疲れていたのかも……と、兄の立場になって考えるフィー。
考えてみれば、家を勘当されたというのに兄にはそこまで悲壮感はなかった。
食事にありつけなくて空腹で嘆いていたことはあったが、今になって思えば名門の跡継ぎという座を失ったにしては哀しみのスケールが小さ過ぎる気がする。
心のどこかでは、兄は自由になりたかったのだろう。乱暴な性格は家に縛られた苦しみからくる苛立ちが表に出ていたのかもしれない。
煩わしい家のあれこれから解放され、記憶を失った今、ユーゴは心の奥底に眠っていた本来の自分を取り戻すことができた。
訓練をサボっているふりをしていたのも、親から放蕩息子として見てもらうためだったのかもしれないと、フィーは思う。
それだと家を継いだ暁には自分を右腕にするという言葉とは矛盾するが、そんなことはフィーにとってはどうでもよかった。
今、兄であるユーゴが人生を謳歌すると共に目覚ましい活躍を見せている。弟として、それが嬉しくてたまらない。
どうかこのまま、兄にヒーローとして人々から認められるような活躍をし続けてほしいな……という純粋な願いをフィーが抱く中、人が座っているテーブルにぬっと影が差すと共に声が響いた。
「ユーゴ~……ごめん、ちょっといい?」
「おう、メルト……なんか顔色が悪くねえか? どうかしたのか?」
「うん、少し悩みの種を抱えててさ~。ユーゴも無関係じゃないから、今の内に話をしておきたいと思って……」
「俺が? なに? どういうこと?」
自身の数少ない(というより唯一の)友人であるメルトが浮かない表情を浮かべていることを心配したユーゴがどうかしたのかと問いかければ、彼女は予想外の答えを述べてきた。
一体全体なにがあって、どうしてそこに自分が関わっているのか? と疑問に思うユーゴが頭にクエスチョンマークを浮かべていると――?
「見つけたよ、メルト・エペ! しかもユーゴ・クレイも一緒とはな、ちょうどいい!」
「ん? なんだ……?」
ドタドタという物音を耳にしたユーゴがメルトの背後を覗き込むように顔を動かせば、五から十人ほどの生徒たちが群れを成してこちらへと歩いてくる様が目に映った。
その先頭に立つ金髪の男子生徒が険しい表情を浮かべていることに気が付いたユーゴは、またろくでもない出来事が自分の身に降りかかろうとしていることを確信する。
その予想通り、メルトを押し退けてユーゴの真正面に立ったその生徒は、両手をテーブルに叩きつけて大きな音を響かせると、怒りの炎を燃え上がらせた瞳を向けながら吼えるようにして言う。
「ユーゴ・クレイ! 今すぐにメルトを解放しろ!」
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