第20話 第一章『BMPヴァンガード』エピローグ

「以上が、第五次首都防衛戦で、澄空悠斗君がBランク幻影獣を破った時の映像です」


ここは、上条博士の研究室の一室。

そこの大型プロジェクターに、澄空悠斗が大型幻影獣を屠った戦闘の映像が映し出されていた。


部屋にいるのは、上条博士に、城守、そして、5人の男女。


「国家維持軍の撮影班が間に合わずに、新月学園の生徒が撮った映像を提供してもらわなければならなくなったのは情けないですが、これはこれでよく撮れてます。スカウトしたいくらいですね」

滔々と話す城守。

一方、5人の男女は、そんな城守を若干白い目で見ていた。


「『クリスタルランス』の皆様方には、この少年の今後について、最強BMPハンターチームとして助言をいただきたいと思い、お越しいただきました」

あくまで淡々としている城守。

その彼に、端に座っている体格のいい男が声をかける。


「いや、蓮よ。これって、どう見ても、あの時のガキじゃ……」

「何を言っているのか分かりませんねハンマーウエポン彼は今回初めて能力覚醒したのです以前にクリスタルランスと会っている訳がありませんなにか勘違いをしているのでは」

「そ、そうだった。すまん、蓮」

大男が、城守に頭を下げる。


「いやー、それにしても、あの子、ほんまにリーダーの呪いを自力で解いたんや。たいしたもんやなー」

大男の隣に座っている活発そうな女性が、声を上げる。

「ユトユト、凛々しい♪ ギューってしたい……」

そのさらに隣の、本人は眠そうだが目の覚めるような美女は、頬を赤らめて夢見るような表情をしている。

「そうですかね……」

そのさらに隣の少年は、なんだか、おもしろくなさそうな顔をしていた。


「な、なあ、城守君。なんだか、彼らは悠斗君の事を知っているように見えるんだが……」

「なにを言っているんですか上条博士前回の戦闘で初めて覚醒した悠斗君とクリスタルランスに接点があるわけないじゃないですか科学者なら冷静な目で見てください来期のプロジェクトで悪徳業者を選定して粗悪品を売りつけられて当局とマスコミに嫌味を言われますよ」

「そ、そうだな、すまん」

勢いに押されて黙り込む、上条博士。


「ま、まあ、いい、とりあえず、悠斗君のこの能力について、クリスタルランスの皆には意見を……」

「『劣化複写(イレギュラーコピー)』」

「へ?」

間抜けな声を出す、上条博士。


「この能力の名前は『劣化複写イレギュラーコピー』。必ず劣化状態で模写する代わりに、どんな能力でも複写できる、最強の複写系能力です博士」

一番端に座っている、剣麗華に負けず劣らずの美しい女性が発言する。

驚いたことに、その瞳は燃えるような赤だった。

劣化複写イレギュラーコピー……。な、なんて、研究意欲を掻き立てられる能力だ!」

そして、年甲斐もなく興奮する上条博士。


「しかし、記憶が戻ったって感じやないなー」

活発そうな女性が言う。

「うん。戻ってたら、キュートさに加えてスタイリッシュ度が30パーセントくらいアップすると思う」

眠そうな眼の美女が、なぞの指標を持ち出して言う。

「能力自体には問題ないみたいだし、いいじゃないか。これで、いつでもストリートバトルができそうだな」

大男が言う。

「いくら幻想剣(イリュージョンソード)を複写できるからって、剣さんとは月とすっぽんです。臥淵さんとじゃ勝負になりませんよ」

少年は、やっぱり面白くなさそうな顔をしている。


「ですからですねぇ!」

そんな5人を見て、焦ったような表情になる城守だが、上条博士が彼らの会話そっちのけでパソコンを叩きだしたのを見て安心した。

どうやら、劣化複写イレギュラーコピーがよほど魅力的な研究材料だったらしい。


(相変わらず、優秀なのに扱いやすくて助ります)


「心配しすぎですよ、蓮。上条博士は、そんなに話の分からない人ではありません」

赤い眼の美しい女性が、上条博士に聞こえないようにして、城守に話しかけてくる。

「というより、ただ単純にどうでもいいと思うタイプの人ですけどね……」

嘆息する城守。

「でも、無理だとは思いますが、もう少し気をつけてもらえないでしょうか?」

「あれでもみんな気をつけているつもりなんですよ」

だから困るんですよ、という感想を持つ城守に、柔らかなほほ笑みを向ける女性。

しかし、その深紅の瞳だけが、場違いな程に異彩を放っている。

眼の前の女性にその気がないとしても、決して気を抜けない。


一旦、この瞳『アイズオブクリムゾン』に支配されれば、『死ねと言われれば死ぬのかお前!』という子供の喧嘩で良く使われる常套句が冗談でなくなる状態になる。

つまり、死ねと言われれば死ぬ。


「むしろ、私は、あなたが一番心配なのですが?」

「それは誤解です」

「そうですか」

あまり信じてはいない顔で、赤い眼の女性が言う。


というか、城守はこの女性が一番心配だった。

自分で気が付いていないのだろうか?


普段は滅多に自分が笑わないことを。

なのに、さきほどから、隠すそぶりもなくニコニコと笑顔を振りまいていることを。



そして、赤い眼の美女は言う。



「ようやく会えますね。澄空悠斗君」




第一章『BMPヴァンガード』完。

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