第2話
気が付けばオレは天井を見つめていた。
ぼーっと見つめていると、メイドキャップを被った妙齢の女性が何度もこちらを覗いてくる。しかし、その顔には感情がない。ただ、事務的にこちらを気にしているようだ。
腹が減ったな。
周りを見渡そうと首を動かしたが、上手く動かない。それではと手を動かそうとしてもなかなか持ち上がらない。
何かがおかしい。渾身の力を振り絞って腕を振り上げた。
何だこれは。
振り上げた腕は、あまりにも細く小さくまるで生まれたての赤ちゃんだ。
これは一体?
そこはベッドの中だった。高い木製の柵に囲まれて、その隙間からは周りの様子を伺えた。
なるほど、まだ夢かな?
ベッドの周りでは、使用人であろう人たちがせっせと働いている。その合間にこちらの様子を見に来ているようだ。
夢にしてはリアルだな。
部屋の中は中世ヨーロッパのような雰囲気のある内装だが、現代日本でも考えられないような謎の調度品や道具が見受けられた。
例えば、仕組みのわからない生花のような発光体のランプ。宙を舞い、勝手に棚へと戻る本。誰かが握って書いているかのように自動書記される羽ペン。
何かがおかしい。
夢だとは思いつつも、ぽやぽやする頭で考えてみた。
そういえば、夢?を観ていた気がする。神様に会ったな。確か、次はオレが報いを受ける番だって…
そこでハッと思い出した。
オレ、両脚が無かった。
思い出したことに身震いする。確認するのがコワイ。幸い胸から下は薄い布が掛けられていて自分の体がどうなっているのかわからない。
試しに蹴ってみる。交互に脚を動かすとずりずりと布が下がってゆく。
感覚で何となくはわかっていた。
布が全てずり落ちると、その脚は太ももの中頃から先が無かった。
ああ、そうか。
何も無い脚先を見た瞬間、突如として学校でのことが頭の中に思い出された。
アイツ、校舎の3階から飛んで両脚骨折したんだよな。
アイツが誰なのか、どんな関係なのか全く思い出せない。しかし"学校でアイツが飛んで両脚をダメにした"という事実だけは思い出した。
何なんだよ!オレの脚が無いのと何か関係あんのかよ!!
思いは決して言葉にはならず、泣き声に変換されて部屋中に響き渡った。
それを聞いた使用人がやってきて覗き込み、抱き上げて世話を焼く。やはりその顔に表情は無い。
神と名乗る光の玉、満足に動けない体、無い脚。
こんなこと現実であってはいけないんだ。
▼▽▼▽▼▽
オレの体は12歳になっていた。相変わらず太ももから先はない。
3歳頃まで満足に話せない口と、満足に動かせない体はそれはそれは苦痛の時だった。
今ではこの世界の言語を覚え、会話が成り立つようになったから少しはましになったが、やはり歩けないというハンデは大きい。
神に殺され、無理矢理転生させられたあの時からもう12年。弱小貴族の三男として生まれたオレは、生まれつきの障害でもう人生詰んでいた。
家督を継ぐ健康で屈強な長男。その補佐の次男。三男のオレは役立たずのただ飯食らい。
そんなオレは生まれたときからほとんどいないものとして育てられた。脚がないまま生まれ、それを見た母はショックで抱くこともしなかったという。
すぐに処分も検討されたというが、神のお告げとやらでそのまま育てられた。
12年間ほとんど屋敷の敷地外には出ることなく、教育も最低限しか受けさせてもらえていない。
世話役の使用人も最低限の人数で、しかもここに配属されることは閑職に追いやられることと一緒なので、何とも雑な扱いしか受けたことがない。
いったいオレが何をしたというのか。
無い者として過ごし、満足に動くこともできない。前世の記憶がある分、自由に動かせる脚が無いことは辛くて仕方がなかった。
我慢と憎しみの12年間だったが、この世界には1つ挽回のチャンスがあった。このチャンスに勝てば全てが変わる。使用人すら蔑むこの地位から脱出するたった1つの方法。
洗礼の儀
洗礼の儀とは、この国が信仰する神からギフトを授かる儀式だ。12歳になる年に教会で祈りを捧げ、一人一人特別な能力を授かることができる。
それは念動力であったり、病気を治せたり、筋力を増強させたり様々だ。
今日、オレの運命が決まる。
今日は街の教会で洗礼の儀が行われる。普段は滅多に外には出られないが、この日だけは使用人に連れられての外出の許可が早々に出ている。
浮遊だとか、念動だとか、この際風でもいい。せめて、オレ一人で動けるような力さえ手に入ればこれからの人生が変わる。こんな蔑まれるような事は無くなるはずだ。一番望ましいのは無い脚を生やす能力だが、産まれたときから無いものを創り出す能力は聞いたことがない。とにかく、オレにとって最善が欲しい。
ノックの後、ガチャリと扉が開き使用人が一人部屋に入ってきた。
「坊っちゃん、準備はできていますか?さぁ行きますよ」
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