第11話 群青色の春

 一年が経過した——。

 六年生になった彼女達を待ち受けていたのは、小学生時代最大にして、最後の行事——。

 険しい相貌を携えて入室する小鳥遊先生に、教室内の空気は自然と張り詰めた。

「お、おい……なんか先生機嫌悪くね?」

「誰かなんかしたな? お説教タイム到来じゃね?」

 様々な悪寒が生徒達を震撼させる中、出席簿を置いて教卓に立つ小鳥遊。

 息を呑む——。

「おいおい、なんかしたなら早めに謝っとけよ」

「俺トイレ行って来ようかな……」

 逃亡をはかろうとする者が席を立ち上がった直後——。

 ついに、小鳥遊の口から冷たい息が吹きこぼれた。

「……皆さん」

 揺れるウェーブの髪。

 持ち上がる顔面。

 生徒達は恐る恐るその色を見据える。

 だが、それは思っていたよりも穏やかで——むしろだらしない程に緩み切っていた。

「今年の修学旅行の行き先が鎌倉に決定致しました〜。二泊三日で、一日目の午後に鎌倉に到着予定よ〜。その後皆んなで水族館回って、旅館に帰還。二日目は自由こ〜ど〜‼︎ 三日目のお昼に徳島へ帰ってくる予定よ〜‼︎ いやぁ〜、こんなに色々詰め込んで大丈夫なのか〜と言う懸念が絶えませんよまったく〜」

 懸念が絶えないと言うか、もはや安心感しかない顔だ。

「これから中学受験も控えている方だって居ると言うのに旅行だなんて、先生、あんまり気乗りしませんよ〜」

 いやウキウキじゃねぇ〜か。その弛み切った頬はなんだ。

「そんなわけで! 皆んなで温泉楽しむわよ〜‼︎」

 いや修学は?

 この人、学校行事の旅行を温泉で満喫するつもりか?

「団体割引きで通常よりも一人当たりの値段が安くなっててね〜。いやぁ〜、学校の教員やってて良かった〜」

 そう思っているのはおそらくアンタだけだ。

 普通なら休日潰されて溜まったもんじゃないと愚痴がこぼれるもの。

「よっしゃ! それじゃあ早速班決めするよ! 行動班は男子二人女子二人の計四人組ね? 生活班は組む必要ないわ! 旅館で、それぞれ大部屋だからっ! さぁ、そうと決まればちゃっちゃと決めちゃって〜‼︎」

 先生の合図と共に、室内の男子生徒が一斉にして立ち上がった。

 向かった先は当然——。

「親方‼︎ 是非俺と組んで下さい‼︎」

「いいえ俺と‼︎」

「あなたには、きっと私が相応しい‼︎」

「ふはははっ! 貴様ら、顔面偏差値五の分際で随分とまぁのたまうようになったじゃないか。——だが‼︎ 顔面偏差値五十三万の俺が来たからには、貴様らに勝ち目などありはしないっ‼︎」

「黙れクソイケメン‼︎ お前なんか顔だけのハリボテだろうが‼︎ 俺知ってっかんな‼︎ 体力テスト、学力テスト共に平均以下だという事実‼︎ 更にはなんの特技も無く、趣味がナンパだけの平凡な女たらしだって事もな‼︎ ハリボテはハリボテらしく、舞台俺達彩って引き立ててくれれりゃそれでいいんだよ‼︎」

「引き立てる要素もない端役はやくがホザくな‼︎ お前なんざ女と話した事もねぇ〜だろ‼︎」

「はっ! 残念でしたぁ〜! 俺去年のハロウィンで保育園の餓鬼にお菓子いっぱいあげたもんねぇ〜‼︎ その上家に上げては皆んなでパーティもしたかんな‼︎」

「お前それ犯罪」

 一人の女を求め、争いを繰り広げる猿達。

 遠方から眺めていた小鳥遊は、何やら微笑ましげに——。

「青春だねぇ〜」

 と、呟いていた。

「いや止めてくださいよ」

 苦言を呈す学級委員。

 しかし、これはおそらく美少女としての晴葵を求め争っているのではなく、単に彼女が居れば非常時に安心だからという抑止的なものだろう。

 そんな最中、窓際でそのみにくい光景を傍観していた明依へ、一人の少年が歩み寄った。

 何やらおぼつかない様子で、気恥ずかしそうな様子だった。

「あの! 遠星さん!」

 その名を呼ぶと、真っ赤になった耳で一言——。

「ボクと同じ班になりませんか!」

 そう言った。

 何やら日音が隣であわただしく震えているが——。

「…………………………」

 明依は沈黙した。

 状況が把握出来ない。

 この子の体は明依を向いている。

 晴葵ではないのか?

 え、なんで?

 御三家なら同じってこと?

 いやしかし、総合的な戦力や抑止力で言えば晴葵の方が断然格上。

 何してわし?

 瞬間、明依の脳内は、わずか零点二秒の超高速稼働を見せた。

 人間の心理。大地のことわりから宇宙の根源に至るまで、あらゆる情景を見据えようとしたが、——無理だった。

 刹那、明依の意識は現実へと回帰する。

 未だ少年の目はこちらを向いていた。

 しかし、断る理由もない。どのみち誰かとは組まなければならないのだ。

「……私はいいけど、日音ちゃんは?」

 振り返る明依。

 ここは同じ班になる日音の意見も訊いて置きたかった。

 しかし——。

「——って日音ちゃんっ⁈」

 彼女は鼻から出血していた。

 ただ悠々と親指だけを立てて、滴る鮮血を抑え込む。

「日音はいいと……思うよっ!」

 いつもは囁き声に近い彼女の声が、今では鮮明に聴き取れる。

 何故だか知らないが、酷く興奮しているようだ。——鼻血が出るほどに。

 するとここで、先生からのちょっと待ったコール。

「あ〜、不足の事態に備えて〜、御三家の子達は各班に散らばって貰えると助かるわ〜。ほら、一つに固まってて、別の場所に禍津が出現したら駆けつけるの大変でしょ〜?」

「…………え、じゃあ………」

 あと一人の女子生徒と、二人の男子生徒を誘わなければならない。

 それを応援してか否か、何故か日音は明依へ再びグッドポーズを贈った。

「頑張って! 明依ちゃん!」

「何が⁈」

 どこか遠くを見据える彼女の瞳には、少々困惑した。

 むしろ日音の方が心配だ。

 内向的な彼女が班を作れるとは思え——。

「月岡さ〜ん! 一緒に組も?」

「え、月岡さんの班なら俺も入りたい!」

「(ええぇぇ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ‼︎)」

 思っていたよりも人気のようだ。

 晴葵も相変わらずの大盛況に呑まれている。

 比べて、明依のもとには——。


 ——————————————————。


 誰一人として寄り付かず。

「(……私ってもしかして、思っていたより友達居ないっ⁈)」

 重大かつ甚大な事実に直面する。

 降りかかる危機感。

 溢れ出る焦燥。

 明依の沽券こけんに過酷な試練が襲いかかった。

(こ、こ、……これは、一大事だわっ‼︎)

 果たして逆転なるか——。

 とりあえず、男子生徒一人は確保済み。

 手分けして残り人数を集めて行こう。

「あなた、名前は?」

「え、同じクラスなのに覚えてくれてなかったんですか⁈」

 そういうとこだぞ明依。

 早速、嫌われる要因の一つを見せつけた所で、お次は班員の確保。

「——それじゃあ行くわよ! 伊予いよのくん!」

 とりあえず、明依は片っ端から声を掛けた。

 人の好き嫌いがない彼女にとって、もはや誰を班に入れるかではなく、誰が班に入ってくれるかの方が重要であった。

「遠星班! 入って下さいませんか〜?」

「わるい」

「ん〜、ムリっ!」

「ンだとコラアァ——ッ‼︎」

 二手目——。

「と、遠星班〜! まだ余裕はありますよ〜‼︎」

「堅苦しそうでヤダ」

「遠星さん怖いし」

「それで僕に何の得があるの?」

 三手目——。

「さぁ〜さぁ〜寄ってらっしゃい入ってらっしゃいっ‼︎ 神子さんと一緒なら、悪鬼調伏、無謬息災、安心立命‼︎ 備えあれば憂い無しっ‼︎」

 とうとう血迷ったか。

 胡散臭い詐欺師のような営業を掛け始めた。

「それじゃあ誰も寄って来ないですよ……」

 伊予も呆れる始末。

 半ばヤケクソになり始めた明依をいさめ、辺りを見回す伊予。

「…………………」

 月岡日音は既に四人を集め、朝陽晴葵もあの盛況の中から三人を選び抜いたようだ。

 更にそこから、省かれた者たちによる班も出来上がり、残り人数は僅かとなった。

「……あの、遠星さん——」

「な、なんてことっ⁈ 私ってここまで嫌われていたのね……っ!」

 膝をつき、愕然とショックを受ける明依。

 床に散らばる埃が、何故だか今の彼女と近い物を感じる。

「あ——ははは——はははは——。き〜らき〜らひ〜か〜る〜♪ ほ〜こ〜り〜も〜ゆ〜らりとひ〜か〜る〜♪」

「遠星さんが壊れたぁ‼︎」

「いいわよもう。私を嫌う貴方達なんか、旅先で源氏の怨霊に呪われてしまえばいいのよ……」

 次第に低くなる明依の声色。

 ゆらりと、柳の木のように立ち上がり、真っ青な——しかし何処か血走った眼球を携え、周囲の者達へ無作為に怨念を放った。

「…………ワタシ…………タチノ、……血ヲ……………返セエエエエェェェェ——ッッ‼︎ ホウジョウトキマサアアアァァァッ——‼︎」

『キャアアアアアアアアアアアアアアアアアァァァァァァァァァ————ッッ‼︎』

 それは、死霊にして怨霊の代行者に相応しい怒号。

 耳をつんざくような悲鳴が室内にけたたましく反響した。

「フ……フフ……ッ……フフフフフ………ッ!」

 未だ続く不気味な嗤い声。

 役に入り込んでしまったか——。

 薄暗く陰る美貌が、戯れに微笑む。

 ——振り下ろされる手刀。

 薄気味悪く嗤う悪魔の頭に、軽い一撃が降る。

「アダッ……!」

「たく、何やってんだよ明依」

「はるき……」

 恐怖に空気が凍る中、晴葵はただ一人、平然としていた。

 彼女の呆れ果てた相貌に、今の空気を自覚する明依。

 火に油を注いでしまい、もはや手遅れとなったことを悟る。

 尚更、班員など集まらないだろう。

 友人家族の現状に情け深くなったのか——。

 あるいは、そのみっともない姿に口を挟まずには居られなかったのか——。

 しばし頭の後ろを掻いてから、晴葵は未だ震撼する同朋達へと振り返る。

「お〜い‼︎ この中で明依の班に入ってくれる人は挙手!」

「ダメよ……みんな私の事があまり好きではないみたいだから」

 彼女の言う通り、晴葵の声に手を挙げるものはただの一人として居なかった。

 しかし晴葵は、そこへもう一言、言葉を重ねる。

「じゃあ、ここで明依の班に入り、明依の良さに気付けたものが居たのなら——」

 晴葵の呼吸が止まる。

 深く吸った空気が肺の中を循環する。

 そして、偽りのない真なる瞳で、蓄えた酸素を一息に吐き出した。

「頭を撫でてやる!」

 言い放たれたのは、何ともちっぽけな報酬。

 しかし、彼らにとって彼女は『親方』。それがどう言う意味を持つかなど、はじめてのおつかいを果たした園児と同義だった。

「入りますっ‼︎」

「遠星さん! 是非‼︎」

「親方からの御命令とあらば仕方ない!」

「その任務、卒なくこなして進ぜよう‼︎」

 起死回生。

 表裏反転。

 はぶかれた者達により構成された班が、瞬く間に崩壊して行き、明依に詰め寄る。

 あまりの数に収拾がつかなくなったので、無難にジャンケンで決着をつけることに——。

 だがそれも、ただのジャンケンではない。

 晴葵が指定したものは——。

「じゃあ、男気ジャンケンで決めよう。この中で敗北した一名のみが明依の班に入る」

 そう、男子の定員は一名しか空いていない。

 女子はもう仕方がないので、最後に残った子を入れるとして——。

「いいか、俺はパーを出すぞ!」

「なら俺はチョキを出そう‼︎」

「敗北もまた新たな境地だな」

 男気ジャンケンで、皆が心理戦を繰り広げる中、一際異彩を放つ人物がいた。

「スゥ〜〜〜〜っ‼︎」

 茶髪の男子生徒。

 ゆっくりと呼吸し、貯蔵した酸素をそっと静かに吐き出す。

「おれ、ジャンケンで負けたことないんだよねぇ。こりゃ、おれは明依ちゃんと一緒にはなれないかもなぁ〜」

 無論、皮肉である。今までの勝利を武勇伝とするための——。

 しかし、彼の自信に満ちた瞳孔。

 何か秘策でもあるのだろうか。

 彼は右拳を差し出し、宣告した。

「おれはグーを出す」

 ここに来て、パー、チョキ、グーが宣告される。

 全員で勝負をすれば互いにあいことなり、二回戦目へと突入することになるが——。

 しかし、それはあくまで彼らの発言通りに出揃えばの話。

 果たして結果は——。

『最初はグー! ジャンケンポイっ‼︎』

 予言通りに、三つの型全てが出揃った。

 ——あいこだ。

 全員、束の間の安堵に胸を撫で下ろす。

 一呼吸分の休息。

 最中、再び茶髪の男が呟いた。

「次はパーを出そう」

 それが真実ならばグーを出せば負け——男気では勝利となる。

 しかし、明依も含め、この場に居る全員が初手がブラフである事を悟っている。

 あえて信頼させ、その後も同じ物を出すと思い込ませる為の——。

 ならば総員の答えは必然——。

『あいこでショッ‼︎』

 茶髪の男を除いたほとんどがパーを出し、また男も言葉通りにパーを出した。

「————⁈」

 痺れが走る。

 先刻の物は信頼を得る為のハッタリ。此処に来て騙し討ちをすると踏んでいた他全員は、相手がパーに変わりチョキを出すと予想し、その勝機となるパーを出した。

 だが、男は此処に来ても宣言通りにパーを出し、結果、全員があいことなる。

 次第に疑心暗鬼になっていく総員。

 男の行動が全く読めない。

 高鳴る緊張感と焦燥感。

 最中、またもや茶髪の男が切り出す。

「じゃあ次は、チョキを出そう」

 無邪気な笑みを浮かべて拳を握る。

「あいこで——」

 まともな思考を断つためか——。

 詮索する余地を与えず響く掛け声。

 冷静さを失った群衆は状況反射で対応。無意識的に、そして本能的な結末へと行進してしまった。

 チョキならばパー。その考えが、この絶え間ない状況下に於いて、全員の脳を侵蝕した。

 疑う余地も、信頼する心さえおろそかにし、ただその思考だけで、反射的行動を成した。

 結果、茶髪の男はグーを出し、他全てがパーを出した。

 男の圧勝である。

「なっ——⁈」

 動揺する群衆。

 彼の勝利、己の敗北にではない。

 無意識的に、彼の宣言と対となる型を出してしまった自身に驚愕していたのだ。

 差し出した手を呆然と見つめては、愕然と後悔を同時に感じた。

 反面、男は心底嬉しそうに、同時に敗者を嘲笑するように、くちばしを直角に吊り上げる。

 比喩ではない。

 彼の頬は、あり得ないと思えるほど垂直に湾曲していた。

「いやいやすいませんねぇ〜‼︎ 一人勝ちしてしまって〜」

 瞬間、罵詈雑言が飛び交う。

「ズリィぞ‼︎ 勝手にあいこの音頭取りやがって‼︎」

「けどそれに反応したのは君たちじゃないか。負けた後で吠えられても負け犬の遠吠えにしか聞こえませんなぁ〜」

 依然として、憎たらしく嗤う男。そのあまりに腹立たしい様は、敗者達の憤怒を余計に高めるだけだった。

「正々堂々勝負してねぇお前も本物の勝者とは呼べねぇだろうが‼︎」

「そうだそうだ‼︎ 皆んなのこと考えろ‼︎」

 鳴り止まぬ喧騒。

 加熱していき、揉み合いの喧嘩にまで発展する。

 流石の明依も戸惑いを見せ始めた。

 だが此処に来て、勝者に組みつく敗者の手を、穏やかな木漏れ日が包み込んだ。

 傷をいたわるような暖かい手を添えて、仲裁を促す晴葵。

 その小さな手の抱擁は、いったいどれほど心地良いのだろうか——。

 激昂していた男は脱力し、晴葵の手に引き寄せられるように落ちていく。

「男なら、どんな勝敗になっても文句を言っちゃダメだぞ?」

 ついでに漂う甘い香り。

 小さな手に純潔な肌。しなやかな曲線を描く腰は、さながら地平線を霞む丘陵きゅうりょうのように美しく、洗練された脚線美は細く長い。容姿端麗とはまさにこの事を指すのだろう。

 そして漂う芳醇ほうじゅんな香気。

 性格は正に男のそれなのに、身体の方はしっかりと女の子している所が少しズルい。

 だからこそ、そう言い寄られると意識してしまう。

 『親方』だったのが、いつの間にか『綺麗な女の子』へと認識を根刮ねこそぎ転覆させられる。

 鼓動が早鐘を打つ中、熱くなっていた男は、借りてきた猫のように静まり返った。

「そ、そうだよな……ハハハ」

 ——可愛い。

 思わずそんな言葉が、上昇する脈拍の中で密かに呼応する。

 しかし、それほどまで完璧な美少女に、ただ一人の男が鼻の下を伸ばしていると、大衆はどう思うだろうか。

 同朋ならばなおさら——。

 同時に『皆んなの親方』にただ一人が親密な対応を織りなしている光景は、他の者達の眼にどう映るだろうか——。

 答えは明白である。

「ふっざけんなよっテメェーッ‼︎ 羨ましいやいッ‼︎」

「はぁ⁈ 何の話だよ‼︎」

 嫉妬が飛び交う——。

 先程まで、余裕に満ちていた勝者がこの変貌ぶりである。

 かつての余力は失なわれ、今はただ、自分では叶わなかった事への劣等感と、それを、最も容易く成してしまった相手へのそねみが暴発する。

 つまり、半分は八つ当たりである。

「ちょ、ちょっと‼︎ せっかく収まったのになんでまた喧嘩するんだよ‼︎」

 突然の暴挙に困惑する晴葵。

 しかし、発端は彼女自身である。

「晴葵が余計なことするからよ……」

「え、オレなんかした⁈」

「うん……晴葵はもう少し、自分の容姿に自覚を持つべきだと思う。そんなんじゃ将来が不安だよ」

 晴葵は正直者で、どこか天然でもある。

 故に、いつしか成長し、発育に恵まれた時、いつ不埒ふらちやからが言い寄ってくるか——。

 それに晴葵の事だ。なんの疑念も懐かずに、そんな彼らを容易く信頼してしまいそう。

 ——それにしても、将来の晴葵か。

 今でも、様々な面に於いて恵まれた彼女がこの先どんな風に成長するのか、明依自信も少々気になっている。

 おつむはきっと相変わらずだろう。

 つくづく『女の子らしさ』とは無縁であり、ガサツで無鉄砲な彼女だが、それでもなお、外見はまさしく美少女そのもの。

 蒼天に輝く太陽のように純粋で清楚な容姿。

 鍛え抜かれた肉体はどこか扇情的。

 抜群のスタイルも、きっと鍛錬の中で得てしまった副産物だろう。

 懸命に男達の喧嘩を諌める晴葵の背中に、明依は遠い未来を空想した。

「……きっと、すっごい美人さんになるんだろうなあ」

 そんな言葉が口からこぼれた。

 既に同年代の男を魅了出来ているのだ。

 思い立ったらすぐに行動してしまう衝動的な性格も相まって、そう遠くない未来では、はなはたくましい女性になっている事だろう。

 それを近くで観られる時が楽しみだ。

「おい明依! 眺めてないで、お前も何とかしてくれ‼︎」

「はいは〜い!」

 これからの彼女の成長をずっと傍で見守って居たいと、この時心から願った。

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