連射
「では早速言わせてもらいますね」
そう言うやいなやニッコリ笑った顔のまま松野璃音は速射砲の如く辛辣な言葉を吐き出していく。
まるで高橋名人の16連射を口で行うが如く。通常弾と呼ぶには激しすぎるいくつもの弾が軍平に打ち込まれた。
「あのね、ぶっちゃけ動画に華がないというか。もっとこう、ハッキリ言うとやってる事はいいんだけどクオリティがショボい。
まずMCとしてダメ!大きい声で滑舌よく話さなきゃ。基本よ、基本。あと編集のセンスもないわね」
「ツイートとかもなんか所帯じみてるっつうか。華が無い」
「インスタとかもやんなきゃ!使える物はなんでも使うのよ!まぁリア充じゃないのは一目瞭然だからやりたくない気持ちもわかんなくもないけどさ」
「ブログも読んだけど、ダラダラ長いだけ!伝えたいことはもっと簡潔に!わかってる?」
遠慮というよりもまるで容赦のない感想に軍平の
「、、、、、何だよ、それ。ダメ出しかよ」
イラつきを隠そうともしない軍平の口ぶりにカチンときた璃音の
「何ですって?ちょっとアドバイスしただけじゃない。なんで喧嘩腰なの?」
「そっちこそ失礼じゃねえか!初対面でダメ出しなんてよ。こっちは必死でやってんだぞ!」
「必死だろうがなんだろうがダメなもんはダメなの!それが芸術なのよ!」
俺のやってる事って芸術だったのか、、、、軍平は新しい着眼点に感心したものの怒りを抑えようとはしなかった。
すったもんだは続く。2人のやり取りが次第に険悪なものになり周りの客がそれに気づき始めた。
私が人気アイドル松野璃音だという事に気づかれるとまずい。
そう感じた璃音はサングラスをかけるやいなや伝票をパッと手に取るや急ぎ足でレジカウンターへと向かう。
軍平は慌ててその後ろ姿を追いかけた。
「ここは割り勘で!」
そう言おうとした軍平であったが、やめた。相手はバリバリの富裕層だ。気を使うことはない。
喫茶店を後にし、人気のない路地裏に場所を移した2人は第2ラウンドを開始する。
どこかでカーン!というゴングがなったような雰囲気があたりを包んだ。
「いい事?この私、スーパーアイドル松野璃音がヘボなあんたを手伝ってやろうって言ってんのよ!普通、土下座して喜ぶもんでしょう?なのにその態度は何なの?」
「、、、、うるせえ!何がスーパーアイドルだ!いい気になるな!てめえなんぞに頼らなくても委員会はやっていける」
この言葉を受け、松野璃音は遂に最終手段を敢行した。コロニー落としに匹敵する荒業だった。
据え置きゲーム推進委員会の残酷な現状を突き付けたのだ。主に動画配信についてだった。
「登録者数58人」
「うっ!」
「平均再生回数35回」
「うぬぅっ!」
「ゲームは一日24時間」
「、、、、、(それ関係ないんじゃ。しかも明らかにやり過ぎだろ)」
瞬く間に劣勢に陥った軍平はあっさりと白旗を挙げた。
「すみませんでした!」
過酷な現実にあっさりと無条件降伏することに対し屈辱感を覚える。
あっという間の手のひら返しに半ばあきれ顔の璃音。
だがその眼はギラギラと輝いている。どうやらまんざらでもなさそうだ。
もしかすると彼女は男を屈服させるのが好きな女王様気質なのかもしれなかった。
「それにしても、、、、なんでこんな弱小チャンネルとコラボしようと思ったんだ?」
軍平にとって当然の疑問ではあった。
「、、、、私も据え置きゲームがないがしろにされている今の日本の現状を憂いているからよ。だってさ、日本は世界一のゲーム大国なのよ!なのに!」
その言葉にはゲームに対しての深い愛情が感じられた。
「だったら啓蒙活動は自分でやればいいじゃないか」
「、、、、言ったでしょ。私はゲーム業界とも繋がりが深いの。スマホゲーのCMにも出てるしね。従ってあまり目立つ活動は出来ないのよ。おわかり?」
何がおわかり?だ。時折りお嬢様のようなノリを挟み込んでくる璃音に軍平は苛立った。
殺意の波動がムラムラと湧いてくる。思わずキツめの言葉を投げかけてしまう。
「責任はこっちが全部取れってか?いいように利用するつもりかよ。アイドルだと?いい気になんな!ちっとも可愛げがねえじゃねえか!」
だが璃音も一歩も引かず開き直った感で言い返してくる。
「利用出来るものは何でも利用する。芸能人なんて所詮そんな生き物よ。でもそっちにもメリットはあるでしょ。
私のチャンネル登録者数知ってる?とにかくまずは名前を売らなきゃどうしようもないでしょうが」
「うぬぅ、、、、」
しっかり大人な正論なので軍平は反論できない。更に追撃を続ける人気アイドル。
「あとさ、アイドルについて何か勘違いなされているようだけど、そもそもアイドルになろうっていう人間ってどんな連中かわかってる?
みんなにチヤホヤされたい!お金も一杯欲しい!そんな不純な動機を持って入ってくる連中ばかりよ。ハッキリ言って最低な人間!おわかり?」
「てめえもそんな最低な人間の一人だろうが!」
そう叫びたかったがやめた。これ以上泥沼にはまるわけにはいかない。出逢ったばかりの女との不毛な争いはもう御免だ。
少し大人になった軍平。修羅場を収めるのも責任者の務めだ。
「わかったよ。ついかっとなった。スマン、、、、失礼な言い方をして」
「わかればいいのよ、わかれば」
てっきりそういった素っ気ないリアクションが帰ってくるものとばかり思っていたのだが、実際は違った。
「、、、、、まぁ、、、、私の言い方もキツかったかもしれない。わりぃ!」
最後の言い方が気になったが恐らく照れ隠しなのだろう。その証拠に璃音の頬が薄っすらと赤らんでいた。感情が顔に出やすいタイプなのか?
よくこれで芸能人なんてやってられるなとつい口をついて出そうになった軍平であるが、そこはなんとか死守した。
今までの流れからすると、そういった言葉が更なる闘争の火種になるであろうことはしっかり学習していたからだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます