4日目_1
明かりを取り戻した洋館から、夕は暗闇へと飛び出した。
深夜の風が、体をすくませる。夕は、嫌な予感を感じた。
あれほど時間をかけて探した剣を放って身を軽くすると、赤い洋館へと死にもの狂いで駆けた。熱い息で喉を乾かせながらも、顔は不安で硬直しきっている。
「謙次! 翔一!」
扉を開けざま声を張り上げるも、返事がない。その代りに、シャワーが流れる音が聴こえる。夕は、胃の腑を掴まれる思いがした。
何度も名前を呼びながら、嫌な予感を払拭できないままに大浴場へと向かった。シャワーの音が近づく中、夕は息を止めて大浴場へと入った。
しかし、そこではすべてのシャワーからとめどなく水が流れているだけで、他には何もおかしな点はなかった。
おそらく、水の音で足音をかき消そうとしたのだろう。少しだけ夕は、胸をなでおろした。
(頭の切れる謙次がいるんだ……あいつらは、きっと生きてる!)
しかし、生きているのならば、なぜ二人は返事をしないのだろうか。走って屋敷内を探索しながら、夕は声の届かない場所を脳内で考えた。
「隠し部屋だ!」
該当する場所を思い浮かべることができてよほどうれしかったのか、思わず大仰に独り言を口にしてしまった。
そんなことは気にもせず、夕は隠し部屋へと直行した。確かに奥まった骨董品のある部屋の地下にある隠し部屋では、入り口が閉まっていれば声は届かないのかもしれない。
謙次のなんらかの作戦によってそこに隠れることを成功させたのだろうと、夕は妄想を膨らませた。
しかし、骨董品のある部屋につくと、隠し部屋への入り口は開いていた。急激に、不安が肩にのしかかった。
呼びかけながら、懐中電灯のライトをつけ、上から薄暗い隠し部屋を照らした。
そこには、翔一がいた。ベッドにもたれながら、健やかな寝顔を、こちらに向けている。
「翔一!」
懐中電灯を放り投げると、喜色にまみれた声をあげながら夕は梯子を駆け下りた。
涙を浮かべながら翔一の体を揺さぶるが、彼は眠ることを止めなかった。初めての鬼との遭遇に疲れたのだろうと思い、夕は安堵の笑みを浮かべる。
翔一の体をゆさぶるのを止めて部屋を見渡すも、謙次の姿が見当たらない。ゆるんだ顔を、強張らせた。
翔一の目を覚まさせようと、手荒に頬を叩いた。しかし、これでも彼は目を覚まさない。
「おい、謙次はどこにいるんだよ! 翔一!」
翔一の体が揺れ、そのまま横に倒れた。慌てて体を起こそうとして、ようやく夕は異変に気が付いた。
翔一の背中が、血でにじんでいる。
服を乱暴にめくり、血の付いた部分を確かめるも、傷はない。そう、翔一は一度死んだのだ。
驚いて飛び退くと、ベッドにいる首から上のない女の子が目に入った。翔一の血だろうか、その女の子とベッドに鮮血が飛び散り、猟奇殺人の現場さながらの状況を作り出していた。
その場に胃にある物をほとんど吐き出すと、翔一を置いてその場から逃げだした。
「謙次! 謙次!」
涙をこらえて何度も謙次の名前を呼びながら、夕は屋敷内を探し回った。寝室、書斎、ダイニングルーム、食物庫に書斎、さらには音楽室にシャワールームまで探そうとも、謙次の影さえもつかめなかった。
もう一度一階から探し始めるとようやく結も赤い洋館に姿を現し、二人で手分けして謙次の姿を手さぐりに探すが、また見つからなかった。
「坂上君は、もう……」
結の言葉に、夕は耳を貸さなかった。血にまみれたベッドから目をそらしつつ翔一を寝室に移して看病を彼女に任せると、夕は再び洋館を駆け回った。
陽が昇るまで探し続けるも、ついに謙次は姿を見せることはなかった。
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