幕間:ライバルとして

~アーガイル騎士団入団後~



 長く伸びる足で一歩踏み込むと、クラウスは練習用の剣を思いきり横にいだ。ひょいと飛び上がったアーガイルがそれを回避すると、爪先つまさきを伸ばした足を空中でクラウスの鼻っ面に叩き込む。


 苦悶の声がして、クラウスがたまらずに地面に転がった。


「卑怯だぞ、お前! 剣技で戦え!」


 鼻血を流しながらクラウスが立ち上がる。金髪碧眼へきがんの端正な顔立ちが怒りで崩れている。


「俺たちが戦うのは剣なんか持ってない連中だぞ。実戦でも魔物相手にそんなこと言うのか?」


 アーガイルがニヤリと笑う。


「今は剣術鍛錬の時間だろ!」


 クラウスが両手を広げて周囲を見回す。二人一組で剣を交える騎士見習いたちが汗を流していた。


「そこまでだ、二人とも」


 剣術指南役のブロスが声を上げると、クラウスは不満を胸の中に押し込めて直立不動になった。

 ブロスが笑う。


「アーガイル、俺はお前を曲芸師にしたいわけじゃない。真面目に剣を使え」


「すんません」


 それを見て、今度はクラウスがニヤリとする。しかし、ブロスの声が飛んだ。


「だが、アーガイルの言うことももっともだぞ、クラウス。戦場で卑怯だなんだなんては通じない。今のが魔物の爪だったら、お前は死んでいたかもしれないんだ」


「ですが師匠……!」


 ブロスは軽く手を挙げてクラウスを制した。


「議論をするつもりはない。顔を拭いて手当てをして来い」


 ブロスの背中が遠ざかると、アーガイルが汗を拭くための襤褸切ぼろきれをクラウスに投げて寄越よこした。


「悪かったな」


「ふん」クラウスは血を拭って不敵な笑みを浮かべた。「お前に成績で抜かれるわけにはいかないからな」


 そう言って、転がっていた練習用の剣を拾い上げて構えた。


「なんだ? まだやるのかよ?」


「無論だ!」


 叫ぶように気合を入れて地面を蹴るクラウスの眼は輝いていた。

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