第35話 ヤバい

 太陽が眩しい。


 けど、それよりもっと、眩しい存在が……


「きゃはは、たのち~♪」


 俺の可愛いギャル彼女(巨乳)。


 そのハシャぐ姿を見ているだけで、俺の気持ちまで弾んで来る。


 実際、彼女も弾んでいるし。


 胸が、ぶるるん、ばるるん、って。


 あのおニューの水着、可愛いけど、すぐにはち切れちゃうんじゃないだろうか?


 それくらい、リナちゃんの胸の成長はいちじるしい。


 まあ、俺のせいでもあるんだけど。


 この、我がゴッドハンドが……!(自分で言うな)。


「もう、ショータってばぁ~」


「えっ?」


「ボッ◯させてないで、早くこっちにおいでよ!」


「ちょっ、だから、声が大きいって!」


 俺は膨らむ海パンを押さえながら、リナちゃんの下に向かう。


「それっ♪」


「わぷっ!?」


 両手が使えず、無防備な俺は水かけをモロに食らう。


「ひ、ひどいよ、リナちゃん」


「えへへ、水も滴る良い男だよ♡」


 クソ、可愛いな。


 でも、ここは彼氏として、イタズラな彼女にちょっとお仕置きをしなければならない。


「リナちゃん、ちょっと深いところに行こうか?」


「んっ?」


「ご覧の通り、膨らみがヤバいから」


「もう、仕方ないなぁ~♪」


 変わらずご機嫌な調子でリナちゃんは言う。


 俺は口元でほくそ笑みながら、彼女を少し深めの場所に誘導して行く。


「わぁ、胸まで浸かる……けど、見て見て。おっぱいは浮いているよ♡」


「ホントだ、すげ……」


「ますますボッ◯しちゃう?」


「大丈夫、もう周りからは見えないから」


「確かに。で、これからどうすんの?」


「まあ、何ていうか……ちょっと、リナちゃんにお仕置きがしたくて」


「え、お仕置き? 優しいショータが?」


「俺だって、たまには怒りたくなる時もあるよ」


「やだ、ショータってば。そんなこと言われたら、興奮しちゃう♡」


「そんなこと言っていられるのも、今の内だよ」


「ふふふ♡ さて、どんなお仕置きをしてくれるのかな~?」


「とりあえず……そのイケない巨乳がターゲットです」


「オッケー、カモン」


 どこまでも楽しく余裕なリナちゃん。


 そんな彼女が可愛くも、俺は悔しさも感じて。


 ぎゅむっ、と。


 掴んだ。


「あんっ♡」


「知っているよね、リナちゃん? 俺、握力には自信があるんだ」


「や、やだ。あたちのおっぱい、握りつぶされちゃうの?」


「まさか、大切なこのおっぱいを、そんな風にはしない」


「じゃあ、どうするの?」


「破裂して、潰れない程度に……いじめてあげる」


「や、やだ、ショータ……普段は優しいかれぴのドSな一面にあたち、もう……クラクラしちゃう」


「良いんじゃない? もう補習は終わったことだし。そういえば、夏休みの宿題も同時進行だったんでしょ?」


「うん、マコちゃんが張り切り過ぎてね~。今の時点で、もう半分以上は終わっているの」


「すごいじゃん。俺はほぼ終わっているよ」


「えー、すごーい」


「まあ、芽衣ちゃんのおかげだけど」


「……浮気野郎」


「いや、そんな、浮気なんてことは……ただ、一緒に宿題をしただけだから」


「まあ、あたし公認だから、別に良いけど……」


「そ、それはさておき……今は、リナちゃんをお仕置きする時間だから」


「しょうがないな~。ほれほれ、早くあたちを懲らしめてみなよ?」


「い、言ったね?」


 俺はゴクリと息を呑む。


 間近でぷかぷかと浮かぶ巨乳の破壊力は凄まじい。


 本当にいつも、いつも、このおっぱいは、俺を、周り、困惑させやがって。


 むぎゅううううううぅ……


「ふあああああああぁん! ショ、ショータ、強い! そんな握力でされたら、リナのおっぱい破裂しちゃう!」


「だから、言ったでしょ? そうならないように、加減するって。何ていうかな、生かさず、殺さず、みたいな」


「ショ、ショータ……いつの間に、そんなあくどいことを言うようになったの?」


「いや、まあ……」


「……あの女の影響かな?」


「あの女って……」


「はぁ~、全く、油断も隙もないというか、やっぱりメイちゃんは侮れないわぁ」


 俺におっぱいを掴まれたまま、リナちゃんはため息まじりに言う。


「あの、俺ほんとうに、浮気してないからね?」


「うん、分かった。信じてあげる」


「あ、ありがとう」


「その代わり、今度は後ろから抱き締めるようにして、優しくおっぱいモミモミして?」


「う、うん」


 リクエスト通り、俺はリナちゃんの背後に回り、優しく抱き締めつつ、優しく巨乳を揉み始める。


「あんっ、やんっ、はんっ♡」


「ど、どうかな?」


「すごく気持ち良い……激しいのも好きだけど、やっぱりショータは優しいのが1番だよ♡」


「そ、そっか。ごめんね、お仕置きなんて、柄にもないことしちゃって」


「良いんだよ。たまになら、刺激にもなるし。けど、いつもは嫌だよ?」


「わ、分かった」


「ほら、もっといっぱい揉んで?」


「りょ、了解」


 もみもみもみもみ……


「はぁ~、この安心感、やばいわ~。実家のこたつに入ったくらい」


「こたつって……季節感が……」


「そうだ、冬になったら、おこたの中で隠れてエッチしようよ♡」


「何か、マンガとかで読んだことはあるけど……その時まで、リナちゃんと恋人でいられるかな?」


「は? 浮気すんの?」


「い、いや、違くて……俺が、愛想つかされないかなって」


「もう、そんな心配は無用だよ。あたちはもう、ショータのチ◯ポなしじゃ、生きていけないから」


「って、それだけ?」


「うーそ。もう、ショータの全部が好きだから♡」


「お、俺も、リナちゃんの全部が好きだよ」


「とか言って、本当はおっぱいだけなんじゃないの~?」


「ま、まあ、確かに。ぶっちゃけ、リナちゃんはおっぱいがあまりにもデカいから、こっちが本体なんじゃないかなって……」


「こらっ」


 ポカッ。


「ごめん」


「もう、バカ。うふふふふ♡」




      ◇




「ありゃ~、あのお2人さん。絶対に海の中で乳繰り合っているよね~」


 七野が遠くのその光景を見つめて言う。


「良いなぁ~、あたしも彼氏が欲しい。そろそろ、処女卒業したいし」


「えっ、七野って、処女なん? こんな可愛くて巨乳なのに」


「大貫ぃ、お世辞は良いよ。あたしなんて所詮、顔は佐伯ちゃんに及ばないし、乳もリナぱいに及ばないし」


「でも、お前その2人と並んで、三大美女って呼ばれているぞ」


「え、そうなの? 荷が重いわ~」


「お前、自己評価が低いな。お前には、あの2人にはない魅力があるだろ。スポーツ系美少女って、需要あると思うぞ~?」


「なに、大貫。あんた、もしかして、あたしを口説いているの?」


「そりゃあ、まあ。オレもいま、フリーだし」


「ていうか、あんたチャラ男だから、彼女いても同時進行するでしょ?」


「いやいや、オレってこう見えて、一途だから」


「怪しいな~」


 七野はジト目を向けて来る。


「え、ゆかちんって、まだ処女なん?」


「は、はい」


「可愛いのに、もったいなぁ~」


「マジで? その処女、オレにくれ」


「大貫、ウッザ(笑)」


「汚れた男がぴゅあぴゅあちゃんに近づくなし~」


「あーしらが相手してやっから」


「おお、良いぜ。パーティーしちゃうかぁ?」


「はぁ~、やっぱりクソチャラ男じゃん。あたしはパスだから」


「七野、頼む。せめて、キスをしてから判断してくれ」


「やだ、キモい。キスこそ、本当に好きになった人としたいし」


「お前、可愛いな」


「キモ♪」


 と、色々言われつつ、オレはちらと、ある女を見た。


 そいつは、長くきれいな黒髪をなびかせながら、あの2人を見つめている。


 オレは、他の女子みたいに、この女をイジることは出来ない。


 それは、こいつが元カノで、気まずいからではない。


 今までも、元カノと余裕で話して、余裕でセッ◯スしまくって来た。


 みんなが言うように、オレはチャラ男だから。


 そこら辺の観念がゆるゆるなんだ。


 じゃあ、何でそんなオレが、声をかけるのに躊躇ちゅうちょするのかと言うと……


「……良いな」


 きれいな口から、ボソッと漏れるのは、嫉妬、いや純粋に近い羨望せんぼうの気持ち。


 そんなうれいを帯びた彼女もまた、きれいだと思ってしまう。


 そう、今まで、女と付き合って別れても、さして何とも思わない。


 気が向いた時にまた、セッ◯ス出来るし。


 この女も、きれいな見た目の割に、感覚がぶっ飛んでいるというか、ネジが外れているところがあるから。


 頼めば、セッ◯スくらいはしてくれるかもしれない。


 けど、オレはそれじゃ、嫌なんだ。


 だって、悔しいけど……


「……昇太くん、好き」


 オレはこの女に、ガチ惚れしている。


 ちょっと冴えない友人に対して、NTRムーブをかまして優越感に浸っていたけど。


 ふたを開けて見れば、この女は、ずっとあいつのことが好きで。


 今こうして、巡り巡って、NTR的な敗北感を味わっているのは……オレの方だ。


「……なあ、芽衣」


 ようやく、オレが声をかけると、彼女はスッと振り向く。


「隼士くん、どうしたの?」


「あ、いや……あのバカップル、しばらく戻って来そうにないからさ。こっちはこっちで、適当に遊んでおくか?」


「……ええ、そうね」


「ビーチバレーでもするか? もしくは、スイカ割りとか」


「スイカ……」


 その言葉に反応した芽衣が、サッとまたあのバカップルの、もっと言うとギャル女の方を見た。


「……あれ、叩き潰したい」


「おい、芽衣?」


「ハッ……ごめんなさい、聞こえた?」


「いや、まあ……大丈夫、お前のイカれ具合、オレはちゃんと理解しているから」


 って、余計なお世話だったか……


「……ありがとう」


「えっ?」


 意外にも、芽衣は優しい微笑みをオレに向けてくれる。


 それはこいつが得意とする、貼り付けたようなそれではない。


 何だか、心の底から、溢れ出て来るような……


「別れた女なんて、面倒だし、興味ないだろうけど……でも、隼士くんは何だかんだ、頼りになると思っているから」


「マ、マジで?」


「うん。だから、その……友人として、これからも私を助けてくれる?」


 今まで、オレにこんなことを言って来る女なんて、いなかった。


 普通の女にこんなこと言われたら、まっぴらごめんだ。


 けど、やっぱり、こいつは特別だから……


「……分かった」


 あっさりと、オレは受け入れる。


「ありがとう、隼士くん」


 瞬間、オレは悟った。


 どんな女とセッ◯スするよりも。


 この女の笑顔を見ることが、何よりも心地が良いって。


 あれ、これって、ちょっとヤバくね?


 オレみたいなチャラ男は、ノーテンキに、ちゃらんぽらんで生きていけるはずなのに。


 何だか、メッチャ苦しみコースに入っていない?


 大丈夫か、オレ?




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