第18話 NTR好き?

 パタン、とドアを閉じる。


「男子の部屋、久しぶりに来たかも」


「あれ、昇太の部屋には行ってないのか? 付き合ってんだろ?」


「行ったけど……何か、陰キャのオタ臭い部屋だから、あまり男って感じがしなくて」


「ああ、なるほどねぇ~」


「その点、あんたの部屋は……ちゃんと、男って感じ」


「まあ、オレはあいつよりイケメンで、モテるからな」


「ふぅ~ん、自信たっぷりね。じゃあ、今からあたしのことも、楽しませてくれるのかしら?」


「当たり前だろ。けど、後悔するぜ? オレ様のテクを味わったら、もう昇太のお子様プレイには戻れないぞ?」


「うん……そうなったら、そうなったで、仕方ないかな……ショータ、おち◯ち◯はおっきいけど、所詮はそれしか取り柄がないから」


「キスは?」


「キスも、お子ちゃま……むぐっ?」


 じゅぱっ、じゅぱっ。


「……ぷはっ……何コレ……?」


「どうだ?」


「……もう、ずっと交換したままで良い」


「はは、落ちんのはやっ(笑) でも、オレにはもう、芽衣っていう最高のカノジョがいるからなぁ~」


「あたし、2番目でも良い。何なら、3番目でも、4番目でも……」


「ハッ……まあ、何だかんだ、オレら陽キャ同士がお似合いってことだよな?」


「うん。あたし、大貫と喋っていると、楽しいもん♪」


「隼士って、呼べよ」


「……シュンジ♡」


 ちゅっ、ちゅっ、ちゅっ♡


「あんッ、やんッ、そこッ、上手……あんッ、ショータの100倍キモチいいぃ~!」




      ◇




 童貞って、本当に妄想がすごいと思う。


 主に被害妄想が。


「……はあぁ~」


 決して現実リアルではないのに……まるで、本当に大切な彼女をNTRされたかのような喪失感。


 童貞にとって、妄想は最大の娯楽であると同時に、最大の脅威なのかもしれない。


 己自身を高ぶらせ、同時に傷付ける。


 諸刃の剣か……


 って、カッコつけて言うけど、どちらにせよクソダサすぎる。


「それにしても……」


 思い返す、佐伯さんがその提案をした時のことを。


『……カップル交換、しましょうか』


 当然、その場の空気は静まり返った。


『……カ、カップル交換?』


 リナちゃんが、目をパチクリとさせる。


『ええ、そう』


 佐伯さんは、口元に微笑みを浮かべたまま、頷く。


『それって、あたしがクソの大貫と……オエエエエェ!』


『って、何だよ、そのリアクションは!』


『ちょっ、ごめん、マジ無理。ショータ以外の男とエッチなことするとか、マジで無理だけど。特にあんたは無理。マジでごめんなさい』


『何でオレがフラれたみたいな感じになっているんだよ。オレの方だって、お前みたいな生意気なギャルなんてごめんなんだよ』


『確かに、あたしは生意気よ。このおっぱいとか♪』


『……ちっ』


『はい、見た~。イケメンとか言われているけど、あんたも所詮はエロサルね、キモッ』


『うるせーなぁ。男はみんなそうなんだよ』


『そうね、キモッ♪ でも、ショータは可愛い♡』


『……なぁ、ショータ。お前、よくこんなワガママな女、ここまでメロメロに出来たな』


『いや、まあ……』


『一体、何をどうしたんだ? 悪いけど、お前はそんなイケメンでもないし、勉強やスポーツが出来る訳でもない。体型だって、平均か、ちょいガリくらいだし……』


『だって、ショータは可愛いから』


『はいはい、そうかよ』


『まあ、でも……ある一部分は、あまり可愛くないけど♡』


『ハッ?……おい、それって、まさか』


 瞬間、2人の視線が俺の股間に向く。


『ど、どれくらいの大きさだ?』


『えっと、平常時がこれくらいでぇ~♪』


『ちょっ、リナちゃん!?』


『マックスパワーの時は……これくらいでーす♡』


 リナちゃんが飛び切りのスマイルを浮かべ、俺のアレの大きさを指で表す。


 直後、隼士は絶句した。


『……いや、肝心なのはテクだから』


『ちなみに、大貫くんはどれくらいなのかな~?』


『教える訳ねーだろうが』


『良いもん、佐伯ちゃんに聞くから。ねえ、こいつのチ◯ポ、どれくらい?』


『おい、芽衣。教えないでくれ!』


 ニヤけるリナちゃんと必死な隼士。


 その2人を、相変わらずの微笑みで見つめる佐伯さんは、


『それこそ、カップル交換で確かめたら?』


 微笑んで言う。


『だから、こんなクソ野郎とエッチなことしたくないですぅ~!』


『それはこっちのセリフだよ、クソ女が!』


『……なーんて、冗談よ』


『『へっ?』』


『でも、カップル交換の提案は、割と本気というか、建設的だと思うの』


『どこら辺がよ?』


 リナちゃんは眉をひそめて聞く。


『まず、カップル交換と言っても、そんなエッチなことはしないわ』


『あ、そうなの?』


『ええ。あくまでも、デートというか、ちょっと一緒に過ごすだけ。普段とは違うパートナーとね』


『けど、そんな時間ムダじゃない? あたちは1分1秒でも長く、愛しのショータと一緒にいたいのに♡』


『まあ、あなた達はまだ付き合いたてでラブラブだから、そんな問題はないかもしれないけど。やがて、倦怠期けんたいきが訪れるでしょ?』


『ああ、まあ……あたしとショータにも、あるのかな?』


『今すぐ訪れないにしても、今からラブラブし過ぎると、その訪れが早くなってしまうかもしれないし』


 佐伯さんはきれいな黒髪を耳にかける。


『だから、あえて距離を置く意味でも、他人のパートナーと一緒に過ごす。その中で、改めて自分のパートナーの魅力に気付くことが出来て、より絆が深まると思うの』


『あー、なるほど……佐伯ちゃん、よくそんなことまで考えるね。やっぱり、頭が良いんだ』


『いえ、そんなことはないわよ』


『てか、そんな風に考えるのは……大貫が実は粗チ◯であまり好きになれないから……もう、すでに倦怠期ってこと?』


『おい、舞浜、テメェ……』


『おや? 図星ですかぁ?』


『……隼士くんのことは、好きよ』


『えっ?……そ、そうか』


『ぷぷっ、安心した顔ウケんだけど』


『うるせーよ』


『だからこそ、もっと彼のことが知りたくて……だから、その友人である加瀬くんとお話したら、また新しい魅力に気付けるかなって』


『な、なるほど……佐伯さんって、本当に頭が良いというか……思慮深いね』


『ふふ、ありがとう』


『うん、あたしも納得したけど……でもやっぱり、いきなり受け入れるのは……ちょっと』


『もちろん、分かっているわ。これは、あくまでも1つの提案。今すぐ、それを実行しようだなんて言わないわ』


 佐伯さんは言う。


『まあ、考えておいてはあげる。とは言え、エッチ行為をしないとしても、クソ大貫と2人きりとか、ゴメンだけど』


『それはこっちのセリフだ。男をチ◯ポでしか評価できない、クソビッチなんてな』


『はぁ~? あたしは仮にショータがあんたみたいに粗チ◯でも、愛せるから』


『だから、人を粗チ◯って言うな!』


『リ、リナちゃん。俺も恥ずかしいから、あまりシモの話は……』


『あん、ショータごめんね♡』


『ちっ、メスビッチが……』


『うふふふふ』




      ◇




 結局、そのカップル交換とやらはしないけど。


 でも、そんな話題が出たものだから、さっきみたいなヤバい妄想がはかどっちゃって。


 めっちゃ、最悪な気持ちだけど……股間はビンビンになっていた。


 まさか、俺ってNTR好きの気があるのか……!?


 ダメだ、そんな性癖、捨て去らないと。


 リナちゃんが他の男に抱かれるなんて、絶対に嫌だ。


 でも、リナちゃんがもし、俺に満足出来なくて、他の男を選ぶなら、その時は……


「……って、本当に負け犬だな、俺は」


 幸いなことに、リナちゃんというギャル天使に救われて、幸せな今があるけど。


 でも、俺自身の中身は、何も変わっていないのかもしれない。


 結局は、弱い男のまま。


 いざとなった時、果たして大切な彼女を守れるのか……


「……筋トレ、しようかな」


 隼士が言った通り、どちらかと言えば、ガリ体型だし。


 リナちゃんはきっと、マッチョなヤンキーに街でナンパされるかもしれないから。


 そうなった時、俺は少しでも対抗したい。


 何なら、ぶっ飛ばしてやりたい。


「よし、やるぞぉ」


 自室のベッドの上にて、俺は密かに決意をした。




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