『岐路』
「や、やったぁ・・・」
ラスティは床の上で大の字になりへばった声を出す。緊張から解放された安堵からか、身体に力が入らない様子のラスティ。
「思ったより、上手く行ったわね・・・」
「リズ、あれなんだったの?」
「ああ、あれね・・・グレープフルーツよ。」
そんなラスティに近づきながら言うリズに、床で大の字のままのラスティが聞くと思いもしなかった答えが返ってきた。
「ウソでしょ?果物の!?」
「本当よ。昆虫の蜘蛛って柑橘系の匂いが苦手なのよ。
もしかしたら、効くかなって思ってね・・・
結果は、あの通りよ。」
「ねぇさん・・・助けて下さいよ・・・」
半ば信じられないと言ったラスティにリズが詳しく説明していると、離れたところから弱々しいダレスの声が聞こえてきた。
『あっ・・・・・・』
リズとラスティは、同時に声を上げる。すっかりダレスの存在を忘れている二人だった。
その後ダレスの身体に幾重にも巻きついた蜘蛛の糸をリズがナイフでなんとか取り除くと、三人で残った子蜘蛛を踏み潰し掃討した。
アラクネが倒れてからしばらくしてダレスは幻覚から覚めていた様子で、その事からアラクネの散布した毒の効果はそれほど長い時間効果が続くものでもないようだった。直接噛まれた場合にはまた違うのだろうが。
「よかったわねダレス。ラスティのおかげで、子蜘蛛達の餌にされなくて。」
「ほんとっすよ・・・それにしても、ラスティやるじゃねぇかよ。お前。」
「そうかなぁ・・・」
子蜘蛛も片付きアラクネの死体を横目にリズが言うと、ダレスは申し訳なさそうな表情で応えるとリズから聞いていたラスティの活躍を褒めた。
それを聞いたラスティは、満更でもない表情で謙遜して見せる。
「で、ねぇさんこの後どうします?」
「まず、手頃な広さの部屋を見つけて、そこで順番に仮眠を取って休憩しましょ。
この位の部屋がちょうどいいんだけど、流石にここはね・・・」
この先の予定を確認するダレスにリズは、部屋に転がるアラクネと無数の潰れた子蜘蛛を見て言う。
「そうと決まれば、こんなとこさっさと抜けるっすよ!」
「あんた、お腹が空いただけでしょ・・・?
まったく、現金なんだから・・・」
ダレスが二人を先導するように、ランタン片手に張り切って言うとリズがダレスの下心を見抜きツッコミを入れる。
ダレスは聞こえていないようなそぶりで歩き出すと、途中何度か振り返りこちらの様子を窺っていた。
こうして三人は一息つける部屋を探し、ダンジョンの奥へと再び歩みを進める。
「あれ?おかしいな・・・」
しばらく進んだところで、先頭を進むダレスが言いながら首を傾げると、踵を返して元きた道を戻り別の道を進む。
「やっぱり・・・」
今度は行き止まりになった通路を見ながら、何かに納得したような口調で言う。
「どうしたの?ダレス。」
「それが、ここもそうっすけどさっき戻った道の先も行き止まりだったんっすよ・・・
残るもう1つの道も道が別れた所から行き止まりだってのが見えたんで・・・」
「他に迂回する道があるんじゃない?」
「蜘蛛のいた部屋を出てあの三叉路までは一直線だったんで、おそらく他の道はないっす・・・」
「どう言う事?ここで終わりなの?ここのダンジョン。」
「まさか、そんな事ありえないわ・・・
とりあえず、三叉路手前の通路に戻るよ。」
リズはダレスの様子を窺いながら言うと、予想もしなかった答えにありきたりな返答をする。
途中ラスティが心配そうに言うのを見て、リズは狐に摘まれたような表情で来た道を戻る事を提案した。
ダレスの言うとおり3つに別れた通路のどの道を選んでも、その先は行き止まりだった。
リズもたかだか中層の十一階層でダンジョンが終わりなんて聞いた事もなかったし、そもそもこのダンジョンには深層がある事ぐらいは事前に把握していた。
そもそも前調べの段階でこんな事があるなら、その対処法だってその時に判明するはずだとリズはそう思いながら来た道を戻る。
問題の場所に戻って来た三人は目の前の三叉路としばらくお見合い状態でいると、リズが突然1本の指を口に含むとその指を目の少し上に掲げ何やら集中しているようだった。
「リズ何してるの?」
「風よ。風・・・」
ラスティが素朴な質問をすると、簡潔に応えるリズ。
しばらくその格好のまま、リズは三叉路を左右に行ったり来たりしている。
「こっちね・・・」
「ねぇさん。だからそっちは行き止まりなんすよ・・・」
何かに気づいた様子のリズは3つに別れた道の1つ、ダレスが途中で戻った道に迷わず入っていくと、ダレスはやれやれと言った口調で言う。
しばらく通路を進むと、すぐに三人の行手を阻む壁が見えて来た。
「ほら、俺の言った通り行き止まりっすよね?」
言うダレスを他所に、リズは通路の奥に見える壁へとスピードを変えずに歩き続ける。
間も無く、三人は行き止まりの壁の前に到着した。
「やっぱり行き止まりっすよ・・・壁以外何にもありゃしないっすよ・・・
・・・って、ねぇさん?何やって・・・」
「ちょっとリズ!手がっ!」
その時ダレスとラスティの二人の目には、おもむろに壁へと手を伸ばすリズの姿が映っていた。
するとリズの手が何の抵抗もなく壁の中へと埋まっていく。
ダレスとラスティの二人が声を掛けるも、リズは黙って壁に飲み込まれた自分の腕をじっと見つめている。
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