『決意』
「・・・私の顔に何かついているのかしら?
そんなに見つめられると、困っちゃうわ・・・」
そういうと女はわざとらしく、体をくねらせて見せる。
女は腰まではある銀髪の超ロングの髪に翡翠の様な緑の瞳をし、妖艶な雰囲気をまとっていた。
その姿は長い両足の付け根までスリットが入ったもはやスカートの用をなしていない布に、豊満な胸が妙に強調された胸元が大きく開いた露出度の高い格好をしている。
加えて、女の周辺には香水と思われる甘い香りが漂っていた。
「な、なんて格好してんの・・・この女は・・・」
リズはつい口をついて出た言葉を飲み込み、場違いにも程がある格好の女へ好奇の視線送る。
ダレスは、その開かれた胸元を食い入るように見つめていた。
突然の女の乱入にラスティは、初めて見るモンスターを見るように目を丸くしている。
しばらくして、ダレスはリズの胸元に視線を移すと、ラスティもつられてそこへ視線を移した。
「あなたたち、ドコ見てんのよ・・・?」
二人に冷たい目線を送りながらリズが言うと、ダレスは反射的に目線を改め思いついた事をとりあえず口にする。
「ね、ね、ね、ねぇさんの、し、し、知り合いっすか?」
「失礼ねっ!こんなバカみたいな格好してる知り合いなんか、私にはいないわよっ!」
「バカみたいって・・・いきなりのお言葉ね・・・
これでも、その筋じゃ結構有名だったりするのよ、わたし。
ご存じないのかしらそこの、お・嬢・ちゃん。」
ダレスとラスティは、女性同士の静かなバトルに肩身を狭くして二人の間で交わされる言葉の
明らかに歳は上ではあったが、女の言葉がそのままの意味に捉えることが出来ないリズは頭に血が昇るのをグッとこらえ冷静を装い口を開く。
「で、その有名人とやらが私たちに何の用?」
「別に取って食おうって訳じゃないんだから、そんなに警戒しないでもらえるかしら?
その子のお父様を探してるんですってね、わたしが手伝ってあげましょうか?
聞いたところ、記憶喪失なのかしら君?」
「なんで、それを知ってるのよ・・・
あんた、何者なの・・・?」
言いながらラスティへと視線を移す女の言葉を聞いて、リズは訝しげな顔して女を睨みつけて言った。
この満員の店内で三人の話が聞こえていたというのが、不自然だった。
この店内の喧騒、隣の席に座っていたとしてもこちらの話が聞こえるかどうかという状況だ。
しかも、ラスティが記憶を失っている事まで理解していた。
「なんでって、あなた達さっきからここで話をしていたじゃない?
あなたこそ、そんな当たり前の事なんで聞くのかしら?」
「せっかくだけど、今のところ間に合っているから遠慮しておくわ。」
さも当たり前の様に淡々と話す女に恐怖を感じたリズは、この場はやり過ごすのが最適解だと感じ、女へ丁寧に断りを入れる。
「あら、そう?
それは、残念・・・
どこかで会うことがあったら、またその時にでも・・・」
そう言うと、女は一べつしてターンをするようにくるりときびすを返し店内の奥へと消えていく。
リズは内心、肩透かしを食らった様だった。
こんなにあっさり、相手が下がると思っていなかったのだ。
リズはそれほどまでに、あの女から異様な雰囲気を感じていた。
「なんだったんすかね、あれ・・・」
「わからない・・・
けど、用心した方がいいわね・・・」
女がテーブルから離れてしばらくしてダレスが、リズにお伺いを立てるように話しかける。
返答しながら、リズは頭の中のモヤで見えない向こう側を凝視する様な感覚でいた。
「リズ、ダレス。ちょっと、いいかな・・・」
しばらくの沈黙の後、ラスティはそう言うと意を決した様に一度大きく息を吸いゆっくりと口を開く。
「思い出した事があるんだ・・・
ダンジョンに入った時、お父さんが僕に言ったんだ・・・
何があったとしても、『お前はダンジョンの最下層を目指せ』って・・・」
ラスティは、もともと覚えていた事をさも思い出したかのように淡々と話す。
嘘をつく事に負い目がないと言えば嘘だが、本人にはこれが今出来る最善の処世術と理解していた。
リズは、突然のラスティの言葉をやっと掴んだ手掛かりの如く慎重に話を促す。
「話してくれてありがとう、ラスティ。
お父さんは、ダンジョンの最下層に何かがあるって・・・?」
「それは、わからないけど・・・」
事実だった。
ラスティは、父親と共にこのダンジョンに足を踏み入れる際に確かにそう言われた。
そこに何があるのか、そこまでは聞かなかったがとにかく最下層を目指すようにとだけ伝えられていた。
「最下層・・・ね。
同業者かしら・・・?」
「おぉ、お前も最下層目指してたのか!?
それじゃぁ、俺たちと一緒だなっ!」
リズは手で口を覆い考える様に独り言を言うと、その隣でダレスが同郷のよしみよろしく、意気投合した様な口ぶりで話し出した。
そんなダレスの手をパシリとはたき、少し考えた後リズは真剣な目でラスティに向かって言う。
「ラスティ、ダンジョンが危険なのは分かるわよね?
ダンジョンで死ぬ人もいる。
それは、二度と戻ってこれない事も当然あるって事。
知りたくもない事、見たくもない物を、知る事も見なくてはならない事もあるの。
わかる?ラスティ。」
「・・・・・・」
ダレスはラスティに向けられたリズの真剣な眼差しに何かを察し、ラスティの方へ静かに顔を向けやりとりを黙って見ている。
リズは正直この後ラスティをどうしようかと、思いあぐねていた。
このまま連れて行くにしろ、どこかへ保護してもらうにしろ、ラスティ自身に決めさせる必要があると感じ、追々ラスティの口から聞いておきたいと考えていたのだった。
一方、ラスティは真剣なリズの目を黙って見つめながら、放たれる厳しい言葉が自分に対するエールの様にも聞こえていた。
頭の中で、死んだ父親、途中で途切れた自分の記憶の事が頭の中を駆け巡る。
自然とテーブルの下で拳が力強く握られるのを感じるラスティ。
「私とダレスは、これからもダンジョンに行くわ。
どうするの?ラスティ。
あなたはこれから、どうしたいの!?」
「僕も行きたい・・・
二人と一緒に行きたい!!
お願いします!一緒に連れて行ってください!!!」
リズが身を乗り出す様にラスティに向かって迫ると、ラスティは一言静かに言った後それで何かが吹っ切れたか、テーブルに両手を叩きつけるとこれまで出したことのない大声で、力一杯懇願するのだった。
ラスティは大声を出したせいか、とても気分がよかった。
同時に父親ハートランドの顔が脳裏をよぎり、その死の真相を明らかにする事を決心する。
「よく言ったわ!
これから、よろしくっ!!」
「お前、そんな声出せたのかよぉ!!
ホント、ぶったまげたぜっ!」
力強い声を聴いたリズはラスティに向かって、ホッと胸を撫で下ろすような安堵の表情で激励を飛ばす。
リズの眼鏡にかなったと判断したダレスは言いながら、ラスティの髪をグシャグシャと荒く撫で回しながら感心している様子だった。
「そうと決まれば、早速明日から準備するわよ!
まず初めにあなたね・・・
それじゃ、危なっかしくて連れて歩けないわ。」
そう言うとラスティの着ている服をホークで指す。
ラスティは、医者で診察を受けた時に血まみれの装備は全て処分されたが、全身布製の服を着た『一般人A』と言わんばかりの格好をしていた。
「ダレス、明日一緒にラスティの防具を揃えてきてちょうだい。
私がラスティの分の食糧、常備薬、諸々買い揃えておくから。」
「了解。
ラスティ、お前どんな防具がいい?
遠慮せずに好きなの選ぼうぜ!
なんせ、ねぇさんが金出してくれるってんだから、選り取り見取りだぜ?」
「あんた、ちょっとは師匠の懐の心配しなさいよね・・・」
いつもの様にダレスに指示を出すリズは、弟が出来たみたいに若干はしゃぎ気味のダレスを軽く嗜めると、グラスのワインを一気に飲み干す。
二人のやりとりを眺めながらリズは、新しい家族が出来たようでなんだか胸の奥が温かくなるのを感じていた。
「あんたたち、ラスティのお父さんを探す為にダンジョンへ潜るわよっ!!」
リズは二人にグラスを持つように促すと、グラスを持った手を掲げて高らかに宣言した。
ダレスとラスティの二人は、グラスを掲げ立ち上がったリズを見て互いに肩をすくめまわりの目を気にしながら恥ずかしそうにしていたのだった。
この時ラスティは、内心二人には申し訳ないという思いはあったが、今は父親の死の真相を明らかにする事を優先すべきだと自分にいい聞かせていた。
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