第65話 どうして
「どうぞ」
「……ありがとうございます……」
お言葉に甘えて、ココアをいただく。弱った心に染み渡る、優しい味だった。暖かくて、体全体に染み渡るようだった。
ココアをゆっくりと味わってから、私は言う。
「
仕事のやり方がわからなくて右往左往している
そんなアドバイスを、彼女はしっかりと実践してくれた。私の言葉を忠実に守って仕事をしてくれた。だから私も嬉しくて、いろいろなアドバイスをした。
「かわいい後輩でした……優しいし、私なんかの言うことも聞いてくれて……私は
「それで……その
自殺、という言葉にはさすがの
「それで
少し、痩せているように見えた。本人はダイエットだと言っていたけれど、今にして思えばなにか悩みがあって、食事が喉を通らなかったのだろう。あんなに食べることが好きな
「私は……
また感情が高ぶってきて、言葉が紡げなくなる。だけど
「それで……その……自暴自棄になって……もう、私には
「……それで、僕に睡眠薬を?」
「……はい……」どんな手段を使ってでも、
「……」
「ああ……その、私が社長のお金を盗んだって容疑をかけられて……」そういえば、私の容疑はどうなったんだろう。「その途中で
警察からすれば、私が逃げたというように見えるだろう。窃盗の容疑で捕まりたくないから逃走している、と見えるだろう。社長も、きっとそう言っているはずだ。
……これからどうしよう。仕事も、
「……大変でしたね……」
「……やっぱり
「迷惑だったのはたしかですが……まぁ不問にしましょう。事態が事態ですからね」
「不問なんてそんな……警察に突き出してください。当然それを、受け入れます」
悪いのは、私だ。まだ私は
「……前に言いましたよね。僕にはヒーロー願望がある。誰かにとって特別な存在とか……特殊な状況下に置かれることに対して、多少の憧れがある」
……聞いたような気もする。まだ私がお客様として
「2つ言うことがあります」
「……私だってそうしたいですけど……相手は社長ですよ? なにがなんでも私に罪を着せようと……」
「相手が誰であろうが、関係ないですね」見かけによらず、熱血漢な人物らしい。「なにが言いたいのかというと……
「え……?」
なかなか意外な申し出だった。自分のストーカーの冤罪を晴らすために協力? なんでそんなこと……
「それから……もう1つ気になることがあります。
「大丈夫ですよ」これ以上落ちることはない。「なんですか?」
「どうして
「それは……」私が無能だったから……いや、もう自分の弱さに逃げるのはやめよう。「私も……気になります」
真実を、明らかにするんだ。どうして
「よし」
「……はい……」
そうだ。死んでる場合じゃない。最低限、その2つだけはなんとかしないと。それができないと、私は幽霊になってしまう。化けて出てきてしまう。
「……ちなみになんですけど……協力してくれそうな人はいますか? さっき言ってたエマさんとか……」
「エマさんは……」私を冤罪の罠にはめようとしていた張本人である。「……たぶん……完全な味方ではないかと……半分敵みたいな人で……」
エマさんの動機はお金だ。お金さえあればエマさんを味方にすることもできるだろうけど……私にそんな財力はない。
となると……まぁ、1人しかいないよな。
こんなときに頼りになって、荒っぽいことに強そうな人。私が知ってる人間の中じゃ、1人しかいない。
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