第56話 何度言わせるの?
全身の血液が、すべてなくなったかと思った。急激に体温が奪われて、脳に酸素が足りなくなる。
「サクラサンハジタクデクビヲツッテナクナッテイタソウデス」
漫画的な表現だと思っていた。思考が追いつかなくて、信じたくなくて、言葉を理解するのに時間がかかる。すべてカタカナで書かれた文章のように、その言葉を処理するのにかなりの時間を要した。
「な……」声が思うように出ない。ブルブルと震えている。それでも、「な、なに……え……さ、
「……?」警察官は私の挙動に首を傾げながら、「だから……
「……」
まだ理解できない。いや、本当はしている。言葉の意味はわかっている。それでも、理解したくない。その言葉を聞きたくない、信じたくない。
なんだこれは……夢か? 視界が異常に狭い。なにも見えない。眼の前が真っ白になっている。脳に酸素がいっていない。
「だから……」まだ理解が追いつかない私を見て、警察官は少しイライラしたように、「
「やめなさい!」そう一喝したのは、なんとエマさんだった。「軽々しく口にすることじゃないわ。もっと……相手の心を考えなさい!」
エマさんは真剣な表情で警察官に怒鳴る。
それから、エマさんは私に視線を向ける。今までのエマさんとは違う。優しい表情だった。
「大丈夫? 落ち着いて……」
……エマさんに心配されるくらい、今の私はひどい顔をしているらしい。その自覚はある。呼吸もうまくできない。肺に酸素を取り込むのが精一杯で、気がつけば地面に座り込んでいた。自分でも気が付かないうちに足の力が抜けて、地面に座っていた。
エマさんの配慮はありがたい。だけれど……落ち着く? この状況で、落ち着いてなんかいられない。
「さ……
「ち、近くの病院に運ばれたそうです……」エマさんの一喝でかなり萎縮している様子の警察官が、「ですが……発見時にすでに息はなかったようで……」
「何度言わせるの?」エマさんは警察官を睨みつけて、「余計なことは言わなくていいの。
それから、エマさんは警察官を問い詰める。そして病院の名前と住所を聞き出して、私に向き直る。
「
「え……?」
「え、じゃない。
「あ……」
とにかく、
震える足に力を込めて、なんとか立ち上がる。壁に手をついて、呼吸を見出しながら、ゆっくりと立ち上がった。本当は急いで駆け出したいけど、足の力も入らない。さらに視界が歪んで、まともに歩けそうもない。
なにもかもグニャグニャだった。それでも歩いていく。どこに歩けばいいのかもわからないけど、とりあえず階段を降りる。途中で転びそうになって、エマさんに肩を貸してもらったことは覚えている。
そのまま、なんとか車に乗り込む。エマさんが運転席に乗ったところを見ると、彼女の車らしい。
まだ頭が混乱している。まったく状況が整理できていない。だけど、病院にいかなければならないことだけはわかる。
……
……
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