第42話 良かったです
部長開催の新人歓迎飲み会。その飲み会を、私が破壊してしまった。
部長がいなくなって、正気に戻る。そして自分がしでかした事の大きさを認識する。
飲み会を楽しみにしていた社員だっているだろう。部長だって楽しみにしていた。その楽しみを奪ったのは誰だ?
本当に会場は静まり返っていた。呆然と立ち尽くす私にすべての視線が送られていた。
「
「……すいません……」
反省はしている。この感じだと、これから残業が増えそうだな。
謝罪のしようもない。だけど謝罪しないといけない。まったく……本当に軽率な行動をしてしまった。
「でも……」そんな中、一人の女性社員が、「ちょっと……スッキリしました」
「え……?」
「ほら……私もお酒が苦手なんですけど……部長に飲まされたことがあって。それでしばらく体調崩したりして、この伝統が嫌だなって思ってたんで……
そうやってフォローしてくれるとありがたい。ありがたいけれど……私の心は沈んだままだ。
そして、さらに他の社員の人がスマホに耳を当てながら、
「部長、戻ってくるってさ」どうやら部長サイドの人と連絡をしているらしい。「どうする?」
「……どうするって……」そんなことを聞かれても……「とりあえず……私はもう帰ります。ご迷惑おかけしました」
「いや、いいよ。
「は、はい……」
そういえば私は部長に殴られたのだった。道理で右の頬がズキズキと痛むはずだ。口の中も血の味が充満してるし、頭もフラフラする。殴られたせいなのか、それともビールを一気飲みしたからか。
「……失礼しました……」私は会社の人達に頭を下げて、店の出口までヨロヨロと歩いて行く。そしてお店の出口で、「……お騒がせして申し訳ありませんでした……」
お店全体に向かって謝罪をしておいた。こんなに静まり返らせてしまって申し訳ない。本当に情けない。私が我慢すれば丸く収まった話なのに。
お店を出て、夜風に当たる。心地よい風のはずだが、心が沈んでいる今、鬱陶しいものにしか感じない。
すでにあたりは暗くなっていた。通りの居酒屋とか……いろんなお店の照明が私を照らす。時折笑い声や怒鳴り声……いろんな声が聞こえてくる。そんな声のすべてが私を責めているようで……
さっさと
なんにせよ急ぎたいが、足元が定まらない。まっすぐ歩いているつもりがフラフラする。あの部長がグーで殴るからだ。せめて平手にしてくれ。
……ビールのせいなのか殴られたせいなのか……どっちでもいいけれど、悪いのは部長だ。いや、私だ。甘んじて受け入れるしかない。
とりあえず駅……
「
後ろから足音ともに声が聞こえた。振り返ると、
「……
「ど、どうしたの、じゃなくて……」それから
「……お礼言われるようなことは……」していない、と言いかけて、「あれ……?」
急に平衡感覚がおかしくなった。いや、すでにおかしくなっていたのだろう。足元が定まらずにフラフラと道をさまよってしまう。
「あ……せ、先輩……」
「大丈夫……」おそらく大丈夫。大丈夫じゃなくても、救急車は嫌だ。「ちょっと休めば良くなるよ……」
「で、でも……」
「……」
たしかに大丈夫じゃないかもしれない。救急車は大げさだけど、このまま
そもそも家に帰りつけるかどうかが怪しい。本当に救急車を読んだほうがいいのではないかというくらい体調が悪い。そりゃそうだろう。苦手なお酒をビールジョッキ一杯飲み干して、さらに殴られたんだから。
「家まで……家までお送りします」
「え……いや、だから大丈夫……」
「送ります……!」ずいっと、
「……
部長が悪い。古き悪しき風習が悪い。私が悪い。
「と、とにかく……絶対に家までお送りします。そうじゃないと……私……」
「……わかったよ……だからそんな泣かないで……」
目の前で女の子に泣かれると寝覚めが悪い。事あるごとにその涙が脳裏に蘇って申し訳なくなってしまう。
そんなこんなで、今日は
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