第35話 桜
それから……さらに数週間が経過してしまった。私が
さすがに、焦ってきた。このまま
そんな時期だ。私はいつものように出社して、いつもと違う光景を目の当たりにしていた。
「さ……さ、……」さ……どうした。「
出社して、珍しく社長が営業部にいた。そしてその傍らには背の低い女の子。その女の子――
なんだか小動物みたいな人だった。オロオロしてて、視線が常にキョロキョロしている。小さくて痩せていて、童顔。本当に社会人かと疑いたくなるような人物だ。お酒を買ったら、間違いなく年齢確認されるだろう。
隣の社長が咳払いをしてから、
「
「は、はい……!」声が裏返っている。そんなに緊張しなくてもいいのに。「
やる気だけは感じる。そのやる気は完全に空回りしているけれど、その空回りさえ解消できれば、戦力になるかもしれない。
まぁ、この会社に新人教育をする人なんていないけれど。放置して、使い物になれば会社に残る。使い物にならなければクビにする。ただそれだけ。
そんなこんなで新人さんのあいさつが終わって、通常業務が開始される。私も新人のことなんて興味が無いので、さっさと自分の仕事に取り掛かる。
早く仕事を終わらせて、
興味はない……興味はない……そう自分に言い聞かせられていた時間は、5分ほどだった。
好奇心に負けて、私は自分のパソコンから目を離す。そしてオフィスの中を見回すと、
「……」
それもそのはず。誰も
……こうしてみると、このオフィスの雰囲気最悪だな。どんよりしてるし、なんだか暗い。物理的にも精神的にも暗い。暗さの原因は私も担っているけれど……まさかここまで暗い空気だったとは。
そんな中に放り込まれた新人さん。さぞや不安だろう。手にはなにやら分厚い書類が握られている。その状態で、彼女は立ち尽くしていた。
なんで立っているのだろう。座ればいいのに……と思った瞬間、
「あ……まさか……」
思わずつぶやいてしまった。
まさかこの会社……新人に席を案内していない? 新人用の席を用意していない? 今までの新人は……どうやって自分の席を手に入れていたの? 早いもの勝ちのサバイバルなの? イス取りゲームなの?
いや……たしかに空席は存在する。そこまで人気の会社じゃないので、人手不足。空席があるのは確かだ。
だが……その席が空席かどうかなど、新人に判断できるはずもない。もしかしたらトイレに行っているだけかもしれないし、今日はたまたまお休みなだけかもしれない。そんな状態で、新人が席に座れるはずもない。
この会社……本当に新人教育する気がないんだな。席くらい案内してやれよ……さっきまで社長がいてその状態なのか……部長も先輩も、誰も新人に声をかけない。
……私もその1人だろうが。なにを自分を棚に上げて他人を批判しているんだ。
どうせ私も、新人を助けない。このまま彼女が不安に押しつぶされても関係がない。新人になんて関わっている暇はない。さっさと仕事を終わらせて
……
……
ああ……もう……わかったよ。
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