第25話 は、はいぃ……
ということで、テニスコートに移動。目的はテニスじゃない。
とはいえ、直接聞いても意味はない。彼は個人情報を明らかにしないと明言しているのだから。間接的に、それとなく……
なんてことを思いながら、テニス開始。お互いテニスに関しては素人なので、とりあえず適当に打ち合う。
「……」
おそらく家でのトレーニングの成果だろう。ジムに通う金銭的、時間的余裕があるとは思えない。
ジムに通っているとかなら、事務の周辺を探せばよかったのだけれど……なかなかうまくいかないものだ。
そして……そんなことを考えているうちに、
「あ、あの……」
「は、はいぃ……」フラッフラになりながら、私は何とか答える。「ちょ……ちょっと……休憩、します……」
30分ほどテニスをして、すでに私はフラフラだった。想像以上に体力が落ちていた。もはや途中から観察どころじゃなくなって、ボールを追いかけるので精一杯だった。
これはいけない。もっと体力をつけよう。たった30分でこのザマでは、この先の戦いには不安が残る。
私は震える足でベンチに腰掛けながら、
「の、飲み物……持ってきたんで……よかったら……」
「あ、ありがとうございます……とりあえず息を整えてください……」
「はい……」
お言葉に甘えて、荒い呼吸を繰り返す。こんなに息切れをしたのははじめてだ。鉛のように体が重かった。まったく自分の思う通りに体が動かなかった。
本当に運動不足だ。そうだとは思っていたけれど、ここまでだとは思っていなかった。これは本格的に運動不足解消に動き出さなければならないかもしれない。
今日は日差しが強い日だった。スポーツ日和なのだろうけど、運動不足のこの体にはかなり効いてしまう。
ドリンクを飲んで、少し落ち着いてきた。そこで、聞いてみる。
「
「ジムに通うお金はないので……主に自宅ですね。といっても、軽い体操程度ですけど。運動不足気味なのは間違いないですよ」
軽い体操をしていて運動不足……どうなのだろう。まぁ運動不足の感覚なんて人それぞれか。私なら毎日5分の運動で運動不足は解消されるかもしれないが、アスリートが毎日5分では運動不足だろう。その辺の感覚は、私と
ともあれ、私はさらに情報を引き出そうと躍起になる。
「どんな体操をしてるんですか?」
「……動画投稿サイトで調べて……軽そうなものをやっています。トレーニングの量よりも、継続的に続けることが大事だと思っているので」
継続的に続ける……私ができないことだ。いつも最初のうちはやる気があるのだが、継続することができない。だから習慣にならない。だから、技術が身に着けられない。
「ジムとかで鍛える予定はないんですか?」
「できることならしたいんですが……金銭的にも時間的にも、立地的にも厳しくて」
「立地的?」私の目的に近いワードが出てきて、思わず飛びついてしまった。「近くにジムがないんですか?」
「……」
一瞬
「あ……すいません。個人情報の範囲に入っちゃいますよね。今の質問は忘れてください」
「……ありがとうございます」
危ない危ない。私が個人情報を仕入れようとしていることがバレかけてしまった。こうやって自分から謝っておいたら、いかにも『
しかし
……
……待てよ……私の脳裏に、一つの仮説が浮かび上がる。
ジムに行くのが立地的に厳しいのではなくて……立地的に厳しくなったのだとしたら?
たとえば……今までは近くにジムがあったのに、それが潰れてしまった。だから、立地的に厳しくなった。そしてジムが潰れた場所となると、少しは絞り込める。だから、
……この推測、どうだろう。家に帰って、もっと突き詰める必要があるな。
とにかく、今は情報収集だ。
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