第6話

 先輩に焼肉をおごってもらってから、早くも一週間が経過していた。今日は来月のバイトのシフトが発表される。いつもはなんとも思わないが、今日の僕はソワソワしていた。


「来月のシフト、一応みんなにも送ったんだけど紙でもここに貼っとくんで各自確認しといてー」


 バックヤードで制服のエプロンを身に着けていると、店長が声をかけてきた。エプロンのひもはまだ結び終わっていないが、我先にと確認しに行く。


 那須木、那須木、那須木祐理―。


「っしゃ!」


 思わず小さくガッツポーズをする僕。一瞬パートの大久保さんに見られた気もするがそれはたぶん気のせいだろう。


 僕は大学で教職課程をとってしまったせいで、週に四回、五限に必修科目がある。ブロッコリーさんが来店する時間は毎日四時半頃。そして僕が大学から帰ってくるのが大体五時半すぎ。


 僕はいつも六時頃からしかシフトを入れられていないが、来月は一度だけ、僕がブロッコリーさんに会うことを邪魔していた五限が休講の日があった。その日のシフトを四時から入れることができたのだ。これでまた、ブロッコリーさんに会える。


「那須木、なんかお前にやにやしてんぞ。なんかあった?」


 佐久間先輩に声をかけられて我に返る。パートの大久保さんも、やはり僕のことを見ていたらしい。僕が顔をあげると気まずそうに目をそらした。


「いや、別に大したことじゃないんですけど」


「ふーん。そういえば、お前この日四時から出られるんだね、珍しい。またブロッコリーさんに会えちゃうかもね」


「あっ、別に僕はブロッコリーさんに会いたいとか、決してそういう訳じゃないですからね」


「へ?俺別にそんなつもりで言ってないよ。あーもしかして、お前」


「違いますよ!やめてください」


「佐久間!那須木!お前らちょっと騒ぎすぎ。店ん中まで声がきこえるだろ」


「すみません…」


 店長が途中で入ってきてくれたおかげで、僕は佐久間先輩のいじりからなんとか逃れることができた。


 確かに今の僕は、すごくブロッコリーさんの存在が気になっている。僕とブロッコリーさんには、これといった共通点もなければ、会わなければいけない理由もない。でもなぜか、ここ最近の僕の頭の中にはいつもブロッコリーさんがいた。

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ブロッコリーさん 青山海里 @Kairi_18

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