20、月夜と涙

 夜、21:23頃……俺は何故か寝付けず屋上にある展望てんぼうデッキに行った。

 其処には既に先客が居た。ユキだ。ユキは夜空に浮かぶ月を物憂ものうげに眺め、涙を流していた。その姿に、俺は思わずドキリと心臓がねる。

 月をながめ、泣いている姿があまりにもうつくしかったからだ。きっと、この感想は不謹慎なのだろうけど。それでも美しいと思い、見惚みほれてしまった。昔、両親に寝物語で聞かせて貰った絵本に似た話が無かったっけ?そんな事を、逃避気味に考える。

「……えっと、ユキ?」

「っ、えっと……何かな?何時から其処そこに?」

「えっと、ついさっきだけど。どうしたんだ?月を眺めながら泣いているなんて」

 その言葉に、たははと頬をきながら苦笑をらす。

 そして、一転して少し悲しげな笑みで俺を手招てまねきする。俺は、黙ってユキの隣へ行きそのまま腰を下ろした。ぽつぽつと、ユキは話し始める。

「私ね、昔大切だった筈のものをこわしちゃた時があったんだ。本当に大切だった筈なのに、それに気付きづかずに壊しちゃった」

「……大切だったのに、気付かなかったのか?」

「うん、それに気付いたのはすべてが壊れた後だった。皆からはうらまれた。本当に心から恨まれたよ……苦しかった。つらかった。けど、私がやったから仕方がなかった」

 それは、きっと以前ユキが言っていたつみにあたる部分なのだろう。大切なもの、或いは大切だった全てはきっと、ユキ自身気付けないままに壊してしまった。

 それこそがユキの罪悪感の源流げんりゅうなのだろう。気付けていたなら、もっと違う未来があったかもしれないのに。もっと違う選択せんたくがあったかもしれないのに。なのに、無知なまま壊してしまった事が。

 だからこそ、ユキは罪悪を感じているんだ。そう思い、そっとユキの頭に手を乗せ撫でる。驚いたように、ユキは俺の方を見た。

「確かに、ユキがやった事はとても罪深つみぶかいかもしれない。壊してしまったものは二度と戻ってはこないかもしれない。けど、それでもユキはつぐなう気があるんだろう?」

「う、ん……」

「それに、だ。何だ……今は皆が居るじゃないか。俺だって手伝てつだう。だから、少しづつだけど償っていこう。償ってきていこう」

「…………とても、人間ヒトの一生で償いきれない罪でも?」

 若干、ユキはきそうな表情になっている。けど、俺はあえてそれに気付かない素振りで言う。

 きっと、ユキは悲しい想いや辛い想いを一人でかかえすぎなんだろう。だから、きっと自分自身心がパンクしそうになっているんだ。

「だからこそ、さ。皆が一緒いっしょに居るって言っただろ?知っているか?ユキが必死にがんばる姿を見ているからこそ皆がふるい立っている事を」

「それはっ……それ、は……」

 何かを言おうとして、言えずにユキはだまり込む。

 俺は、ユキの頭を撫でて言った。出来る限り、やさしく言った。

「償っていこう。俺達も一緒に手伝うから、きっと皆も手伝ってくれるさ」

「そう、だね。そうだと良いね…………」

 それでも、ユキの表情がれる事は無かった。けど、俺の事をすこしは信じてくれたのか少しだけ俺の肩にり掛かって笑みを向けてくれた。


 ・・・ ・・・ ・・・


 とある洞窟の奥、暗い暗い地底ちていの奥深くにそれはうごめいていた。

 其処には怪蛇のおうを中心に数多の怪物がひしめいていた。巨躯の大蛇や甲殻の蜥蜴に猿の軍隊も居る。まさしく、怪物どもの混成軍団こんせいぐんだんだ。それは、まさにおぞましいの一言に尽きる怪物どもの群れだった。

 その怪物の群れに、怪蛇の王は一言だけげる。

「行くぞ、今度こそ人類どもを根絶ねだやしにする為に……」

 大嵐たいらんはついにその牙をく……

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