第25話 運転手は僕だ乗客は君達だ(地獄行き列車)

実は、連射ができないクレイの魔導銃は、大勢の敵に囲まれると対処できないという弱点がある。


リボルバー式なので、回転弾倉シリンダーに入っている分は連射できるのだが、フルオートではなく都度トリガーを引く必要がある。


いずれはとは思うが、今のところクレイはフルオートの機関銃マシンガンを作る気はない。


そもそもマシンガンの構造メカニズムは純粋に機械的なものになるので、銃を作るのに協力してくれている鍛冶職人のドワーフに丸投げになるのだが、いまのところその依頼はしていない。仮にマシンガンができたとしても、それに使う大量の “弾丸” を量産できないからである。


弾丸は一つ一つクレイが手作りしているのだ。レールガン方式になったため薬莢部分は以前よりもシンプルな構造で良くはなったのだが、それでも大量に作るとなると、これが結構大変なのだ。


もちろん、魔導具職人に頼んで弾丸も大量生産してもらうという方法もあるのだが、それには莫大な金がかかる。そもそもこの国は魔導具の評価が低く、魔導具の職人は非常に少ないのだ。


人手を集めて工場を作るのは、よほど銃が普及して採算が取れるようになるか、あるいは軍事利用等で国から予算が出るという話にでもなれば別だろうが、ただの一人の平民となったクレイには難しい。


だが、クレイも連射できない魔導銃の弱点は理解してる。仮にシリンダーに六発全弾装填されていて、確実に一発で一匹倒せたとしても、七匹以上の魔物が連続して現れたら対応できない事になる。(空になったシリンダーに弾を込め直す時間を魔物が与えてくれるとは考えないほうが良いだろう。)


そもそも、オートローディングにせずにリボルバーにしたのは、地球の銃と違い薬莢を再利用する必要があるからである。火薬を使っていないので、薬莢内部の極小の魔石に魔力を再充填して弾頭を嵌めてやれば、再使用可能なのだ。


実は弾頭部分はレールガン方式になってから、それほど形状にシビアではなくなった。


物体を移動(加速)させる魔法陣は極めて僅かではあるが、通過する物体を “浮かせて” いるのだ。そのため銃身内部の摩擦抵抗はほとんどなく、銃筒バレルの内径にさえ合っていれば何でも発射できてしまう。(重量制限はある。加速用魔法陣ひとつにつき、最大二十五グラム程度。魔法陣を囲むように四つ配置しているので最大で百グラム程度までは発射できる。ただし、重くなるほど加速は鈍くなる。)


もちろん弾頭も形状を工夫したり魔法陣を刻んだりというギミックを盛り込んだ弾も作ってはいるが、銃身を通るサイズであれば、弾頭はその辺の小石でもなんでもよい。魔導銃の弾丸製作は、弾頭よりもその薬莢部分を作るのが大変なのである。


弾丸を製造する工場など存在せず、全て自力で用意しなければならないクレイは、地球の銃のように薬莢部分を使い捨てにする気にはなれなかったわけである。


だが、そうなると、弾切れの際にどうするかを考えて置かなければならない。ギルマスのサイモンが言った通り、仲間をみつけてパーティを組めば、弾を込め直すリロードの時間を稼いでくれるだろう。


ただ、クレイは、係わる人が多くなるほど色々・・と面倒も多くなるのが分かっていたので、あまり積極的に仲間を増やす気になれなかったのだ。


もちろん、弱点を補うための方法もクレイなりに考えている。そのために開発したのが “散弾銃ショットシェル” だったのだ。大量の小さな玉ペレットが大きく広がりながら射出される散弾は、数メートル先の相手を面で制圧する事ができるので、精密な照準も必要ないし、敵が固まって居てくれれば五~六匹まとめて撃ち倒す事もできるのだ。


クレイは前方のゴブリンをショットシェルの二射で掃討すると、そのまま囲みを破って走り出した。


ゴブリン達は一瞬遅れて、慌てて追いかけ始める。


森の中でクレイとゴブリン達の追いかけっこが始まった。


ただ、実はクレイはかなり危険な状況であったと言える。少し森の奥に入りすぎた。


幸い、追ってくるゴブリンに上位種は居なかったが、もし仮に、ゴブリン達が飛び道具を持っていたら……ゴブリンアーチャーやゴブリンメイジなどの上位種が居たら、走って逃げるクレイは背後から撃たれてしまっただろう。


あるいは、現れた魔物が足の遅いゴブリンであったから良かったが、これがクレイよりはるかに足の速い魔物であったら? 魔導具で身体強化しているとは言ってもそれほど強力なものではない。例えば足の速い犬系のコボルトなどに囲まれていたら危うかっただろう。


クレイは囲みを突破する際に起動した身体強化の魔導具を、しばらく走ったところで解除した。魔力を温存しておいて、後で危ないときに起動できるという事もあるが、ゴブリンの足が思ったより遅かったためだ。


クレイの逃げ足が早すぎたら、すぐにゴブリン達は諦めて追うのを止めただろうが、絶妙にクレイの足が遅かったため、走れば追いつけそうな距離を保っており、ゴブリンも追うのを止める判断とならず、追いかけ続けてしまう。


森の中、走りやすいルートは限られており、自然、追うゴブリン達も一列になってしまう。


クレイの期待通りである。


シリンダーには残弾三発、すべてショットシェルであったが、クレイは走りながらシリンダーをスイングアウトし銃を上に向ける。空いた三箇所から落ちた撃ち終わった薬莢はそのままマジックポーチにダイレクト・イン。(残弾は落ちないように指で押さえている。)


そして、先に取り出して手に持っていた通常弾を三発込め直し、シリンダをセットすると、立ち止まって振り返り、一列になって走ってくるゴブリンに向かって撃った。


先程、スコープで狙った場所よりも着弾は上に逸れていた。それを計算に入れ、わずかに下方向を狙い、トリガーを引く。


狙いは的中、貫通力の高い弾丸は、一列になっているゴブリンの体を易々と貫通した。


貫通してしまうと肉体のダメージは意外と少なくなるので、念のためクレイは素早く連続で三度トリガーを引いた。


三連射した弾丸はすべて命中。列ゴブリンは大部分が絶命する。


だが、中程の一匹、そして最後尾近くの二匹が、傷つき膝を尽きながらもギャァギャァ叫んでいた。たまたま列を乱しており急所を外したのだろう。


三匹は緑色の血を流しながらも逃げ始めた。さすがに相手が悪い事を悟ったようだ。


だが、急所を外しているとは言え、傷を負って逃げ足も遅い。


クレイは素早く再び弾丸を込め直リロードし、スコープによる狙撃で三匹の頭を丁寧に撃ち抜いて仕留めたのであった。


クレイ 「うーん、意外と散弾、出番が少ないなぁ、長銃ライフルじゃなくて短銃(拳銃)のほうに詰めておいたほうがいいか……」



― ― ― ― ― ― ―


次回予告


クレイの狩りを見ていた者が居たようです


乞うご期待!



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