第86話 縮まる距離

 休日をめいいっぱい、ヴァルカン山岳兵団のミッドガル街で過ごし、数日を置いてスケジュールを調整し。本格的に真空装置の魔具の作成にとりかかった。

 午前中はミラー家のお抱え職人と打ち合わせをしながら、魔具の設計図を作成。

 さすが職人集団。カイザルック魔術師団の第二魔術師団の技術者とは違い、別な視点でのかなり高度な知識に、ビビは驚いた。

 魔石や魔術を極力使わないそれらの技術は、どちらかというと前世でいたころの世界の"科学"知識に近い。


 *


 「じゃあ、今日はここまでにしよう」

 

 フィオンの父親であり、今回の真空装置の責任者であるアナクレト・ミラーが声をかける。

 「今日の課題をそれぞれクリアさせて、三日後にまた意見を出し合おう。ご苦労様」

 御意、とテーブルについていた職人たちが頭をさげ、立ち上がる。


 「ビビちゃんも、お疲れ様。フィオンに送らせるよ」

 アナクレトに言われ、同じテーブルについていたビビは首を振る。

 

 「お疲れ様です。大丈夫です。フィオン君とはこの後待ち合わせて、ダンジョンに行く予定なので・・・」

 ビビの言葉にアナクレトは吹き出す。首をかしげるビビに、ごめんごめんと笑いながら手を振ってみせた。

 「息子と打ち解けてもらって、ありがたいんだけど・・・ビビちゃんみたいな若い女の子に、君づけされているのが新鮮というか、おかしくて」

 「あ・・・」

 ビビは赤くなる。


 先日、街を案内してもらった時、ついついGAMEでPLAYしていた頃の癖で、"君"呼びをしてしまったのだ。考えてみれば14歳も年上の男の人に対し、君づけはないだろうと慌てて訂正したが、フィオンは特に気にしたふうでなく、逆に新鮮だから君づけをしてほしいと言われた。


 「あいつ、あまり兵団の女子とも交流しないから・・・気が利かないとこあるでしょ」

 「とんでもない!良くしてもらっています」

 「ふふふ、良かった。オスカー兵団顧問は気が気でないようだけど」

 「??」

 「何でもないよ。フィオンは、多分エセル高炉の鍛冶小屋に籠っていると思うから、行ってみたら?」

 意味深な笑みを浮かべるアナクレトに、首を傾げながらもお礼を言い、ビビは打ち合わせに使ったミラー家の屋敷を出る。


 *


 カン、カン


 ゴオオオオー・・・・


 暗い鍛冶小屋に足を踏み入れると、モアッとした熱気と鉄の臭い。

 奥で職人と向き合い、鎚を振り上げるフィオンの背中が見えた。

 鎚を振り落とすたびに、重い金属音が響き、赤い火花が弾ける。鍛え上げられた腕と上半身の筋肉が収縮し、汗が飛び散って炎に反射してきらめくのが綺麗だった。


 フィオンの属性は"地"


 カンッ!


 響く金属音に乗って、魔力が放出され、鎚を通して刀身へと吸い込まれていく。

 ビリビリと空気が震え、地面が振動するのに、フィオンがかなり強力な魔力保持者であることが伺えた。


 キンッ!


 火花が弾け、背中の筋肉がしなやかに躍動するのに見惚れる。

 ビビは邪魔しないようにそっと壁に突き出た岩へ腰を下ろすと、集中している背中を見つめた。


 ****


 「来ているなら、声をかけてくれればよかったのに・・・」


 フィオンは仕事着を羽織り、タオルでガシガシ髪をふきながら、申し訳なさそうに言った。

 「ううん。仕事しているところ見たかったから。こちらこそ、邪魔してごめんなさい」

 座っていた岩から腰を上げ、ビビは頭をさげる。

 

 「武器の鍛錬なんて、見ていても面白くないでしょ」

 苦笑するフィオン。仕事着の下に着こんでいたインナーは汗で貼りつき、むき出しの腕や顔は煤で汚れている。

 そんな男くささがかえって色っぽく感じるのは、フィオンだから?ビビは首をふり、眩し気に目を細め肩をすくめて見せた。

 「面白かったです。・・・見ていたのはフィオン君の筋肉だけど。目の保養しちゃった」

 「なにそれ」

 フィオンは噴き出し、ビビもつられて笑う。


 「ちょっと汗流してきていい?さすがに汗臭いままデートできない」

 「デート、なんですか?」

 「違うの?ダンジョン、行くんだよね」

 「・・・・うん、まぁ・・・デート、なのか」

 

 そういえば・・・GAMEではフィオンとはほとんどデートしなかったな、と思う。幼馴染だけあって、成人してから恋人になるのはあっという間だったけど。

 でもフィオンはほとんどダンジョンに籠ってレベルあげをしていて、休日にやっと砦を出て城下に降りてきたと思えば、ダンジョン探索に誘ってくるし。


 GAMEで設定されたデートの待ち合わせは、12時の鐘が鳴る王都中心にある街角広場。女神ノルンと従う神獣ユグドラシルが彫刻された巨大な噴水の前が定番で。

 待ち合わせた"普通"の恋人たちは、ラブラブのハートを飛ばしながら、次々とデートスポットへ向かう中。なぜかビビとフィオンは毎度"♪"音符マークを飛ばし、ご機嫌バージョンでダンジョンへ。


 どこかご機嫌なんだよ!久しぶりのデートなのに!何故にダンジョン探索なんだよ!

 フィオン!お前、男としてそれはどうなんだ?!ビビ、女としていいのか、それで!

 

 と"アドミニア"もとい、プレイヤーであった頃、画面に向かって突っ込みを入れることは日常茶飯事。

 それでも検索が終わった後は、笑顔で"好きだよ"とキスをしてくる恋人に、すごく複雑な心境だった、当時ビビとしての記憶がよみがえる。

 歳の差はあれど、ここら辺は設定どおりなんだな、と思った。


※※※※※


とおっても!嬉しいことがあったので(*´▽`*)

調子こいてもう一話アップします。

良い1日になりますように。

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