第13話 おじさんのはじめてのおつかい

【前話ダイジェスト】

あるんだよ…神様にだって

「話題のチョイス ミスったぁ!?」

って後悔する瞬間


【本編】


 楓さんに連れられてやって来たのは、総合ショッピングセンター。平たく言うとAE○N MALLですね、見た目まで。まさか天界にもあるとは思いませんでした。






 今は専門店街ではなく、総合センター側に来ています。


「今は質より量が必要ですよね? リーズナブルな方でいいと思いますよ。私も、ものによってはコチラで買うことも多いですし」


 正直言うと支度金として既に100万Gゴッドが振り込まれていて、かなり懐はリッチなのです。ただ、専門店街でカッコいい服を選ぶようなセンスは、生憎持ち合わせていないのですよ。

 そんなわけで、楓さんのお気遣いは渡りに船の大感謝祭なのです。お陰さまで時間もかけずに選び終えることができました。


「これで衣類は間に合いそうです」

「えっ、主任!? 本当にこれだけでいいんですか?」

「はははっ。楓さんみたいに若い年頃ならともかく、おじさんの私がプライベートでお洒落することも早々ありませんからね。ローテーションできるだけの衣類があれば事足ります。スーツは役場から支給されるのですから尚更。ありがたいことです」


 そうなんです。まさかのスーツは職場支給でした。さすがにワイシャツは自己負担でしたが、3着もあればローテーションが組めますからね。因みに下着類も3セットです。……えっ、私だけってことは、無いですよね、流石に。


「それよりも、楓さんは衣類で必要なものなど無いのでしょうか? 今日のお礼にプレゼントさせてもらえませんか?」

「えっ、あ、あ、あの、そういう、意味、ですか?」


 ……はて、何故戸惑うので──ハッ!?


「違います!違います!そんなことを狙った訳ではなく、純粋にお礼のつもりで!?」


 場所が悪すぎました……辺りはピンクやオレンジ、ヴァイオレッドに純白にえっ? む、紫!? か、過激ですね!? 心なし透けている気も!?


 ──互いに下を向いたまま、そそくさとエスカレーターで階下に向かいます。今朝のこともあるので、楓さんの顔は真っ赤なはずです。

 ……私も、ですけど。






 ホームセンターでは、ハンガーや洗剤&石鹸、シャンプー&リンス、歯磨き粉&歯ブラシ&カミソリの他に、布団類一式や予備のシーツやカバーなど、かなりの量を買い込みました。


「楓さんが居てくれて助かりました。布団はすっかり忘れていましたし、予備など考えてもみませんでした」

「私も着任初日に布団がなくて困ったんですよ、実は」

「おや、しっかり者だと思っていましたが」

「まだまだ若輩者ですよ!?やめてくださいよベテラン扱いは」

「それは失礼しました。ですが楓さんは若くてもしっかり者──それと他者を思いやれる優しい人って印象が強いのですよね」


 たまたま通りかかった調理器具コーナーで、目を引いたフライパンや鍋を眺めながら答えます。

 実は私、趣味が料理なのですよね。一人暮らしが長かったのもあるのですが……あれ? そうでしたよね? 記憶は曖昧ですが、何となくそう思うんです。こう、WAKWAKが止まらないという感じでしょうか。あっ、この取っ手がとれるセットとか、使ってみたいですねぇ、はい。


「あの、主任? この調理器具に目を輝かせていません?」

「はい、実は多分ですけど私、料理が好きみたいです。年甲斐もなくワクワクしちゃってます」


 ……はて、どうしたのでしょう。楓さんの表情がなんだか浮かばないようですが。何か気に障ることを言ってしまったのでしょうか。多分、素敵な女性ですよ的なことしか話していないと思うんですが。実際楓さんはかなり好ましい女性ですし。

 どうしようか悩みますが、ここは楓さんからのアクションを待つとします。焦らせても困りそうですし、彼女──ほう、魚も返せるフライ返しですか。


「あの、主任?」

「はい、なんでしょうか?」

「調理器具は要りません。ありますから」

「なんと! それはチェックが甘かったですね、私」


 この後、私達は最小限の食材を買い、2人揃って家へと帰りました。購入した物は、布団などの大型のものもあったので、食料品以外は自宅まで配送してくれるそうです。こう、端末をピッとしただけです。天界は便利なんですねぇ。


 ただ、始終笑っていた筈の楓さんの笑顔が、何とはなしに固い気がしたのが気になりました。ひょっとしたら、人生初かもしれない家族以外の異性との買い物で、私がナイーブに捉えすぎているのかもしれません。

 私のほんの斜め後ろをついてくる楓さんの表情が、気になって仕方がない、土曜の夕暮れでした。





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