君に、伝えたいこと
今日俺はこの街の外へ行く。これは昨日エヴァが街に出るか決めきれない俺に提案してくれたものだ。・・・そしてもう一つ俺には目的がある。
それは、エヴァに告白することだ。昨日、エヴァと別れる時の寂しさや、また明日会えると思った時の胸の高鳴り。それを昨日ベットに入りながら考えた結果、俺はエヴァが好きだと分かったからだ。
振られる可能性は大いにあるが、それはそうなったで仕方がない。それまでの関係だということだろう。
何て考えながら駅でエヴァを待っていると遠くから声が聞こえた。
「おーい!新也さーん!」
エヴァだ。俺はその声に手を振り、笑顔で答える。
「エヴァー!こっちだぞー!」
エヴァは、駆け足で俺のところまで来ると僅かに息を切らしながら話し始める。
「新也さん早いですね。まだ集合の30分前ですよ?」
「そんなエヴァだってこんな時間に来てるじゃないか」
その言葉にエヴァはどこか顔を赤くしながら言った。
「えっと、それは・・・新也さんと会うのが楽しみで」
俺はそのエヴァの言葉に思わず顔を真っ赤にしてしまった。
「そ、そうか・・・」
「新也さんは何でこんなに早い時間からここに?」
「お、俺・・・?」
正直言って引かれないだろうか?いや、流石に大丈夫だろう。そう思い俺は正直に答える。
「実は俺もエヴァに会えるのが楽しみで、ついな」
するとエヴァは、
「わー!本当ですか!?だとしたら私たち、お揃いですね♪」
そう言いながら俺の手をギュッと握る。突然のエヴァの手の温もりに俺はあふれる胸の高鳴りを抑えられなかった。
「そ、そんなことより!これだけ早く集まれたんだからその分電車も1本早められるんじゃないか?」
その言葉にエヴァは手を叩いて言った。
「そうですね!流石新也君です!えっと次の電車は・・・」
「あともう、5分もしたら来るよ」
「そうなんですね!それならそれに乗っていきましょう!」
そう、エヴァが無邪気に言った。俺はそんなエヴァの笑顔に釘付けにされていた。
・・・・・・
「やっと外に出られました〜」
そうエヴァがヘロヘロになりながら言う。確かに都会の駅はダンジョンって言われるくらい複雑だ。初めて来たであろうエヴァには難解なはずだ。
「大丈夫かエヴァ?手、貸すぞ」
俺がそうして手を差し出すと、エヴァは顔をどこか赤らめながらその手を握った。
しばらく歩いていると、エヴァが俺にとあることを尋ねて来た。
「新也さんは、どこか行きたいところはあるんですか?」
行きたいところ・・・決めては無かったが聞かれて無いと答えるのは無粋だろう。うーん、だとしたら・・・
「水族館なんてどうかな?」
「水族館ですか?」
「うん、この辺りの水族館はかなり凝ってるらしくてスゴイ綺麗らしいんだ」
俺の言葉とは裏腹に、エヴァは何やら浮かない表情だった。
「エヴァ?水族館きらいだった?」
するとエヴァはハッとしていつも通りの声色で言った。
「えっ?いえいえ、それでは水族館行きましょうか」
・・・・・・
そして俺たちは、水族館のメインである水槽の前にやってきた。
「わーっ!綺麗だな、エヴァ」
「えっ・・・うん、そうだね」
やはり俺が水族館と提案してからというもの、エヴァの表情が暗い。俺は思い切ってエヴァに聞いてみることにした。
「エヴァ、何だか浮かない表情してるけど、どうかしたの?」
「えっ・・・いえ、何でも無いんです」
「そんなこと言っても、俺はエヴァに楽しんで欲しいんだ。だから、思うことがあったら言って欲しい」
するとエヴァは、しばらく沈黙していたがやがてゆっくりと口を開き始めた。
「ここの・・・」
「え?」
「ここの魚たちは、本来住むべき海ではないここに閉じ込められて、どんな気持ちだと思いますか?」
「えっと、それは・・・」
「新也さん、私はあなたの考えが聞きたいです」
俺は少しの間あたまが真っ白になっていたが、少しずつ自分の意見を話し始める。
「それは、きっと妥協だと思うよ。本当は海に行きたくても、もう全てがそれを許さない。それならここで生きるしか無いっていう・・・そんな気持ち、じゃないかな」
エヴァは目を瞑りながらそれを聞いていたが、やがて目を開けて言った。
「私は、そうは思いません」
「えっ・・・」
「きっとここのお魚たちは、ここを出たいと熱望していると思います」
「いつかこの狭い水槽から出て、広い世界を泳ぐって。そう思っているはずです」
その言葉に、俺は何も言い返すことが出来なかった。
・・・・・・
結局、最後まで水族館の時の気まずさを引きずったまま、俺たちは最後の観覧車に乗った。
するとエヴァが俺に言った。
「新也さん、あの時はごめんなさい!」
「えっ・・・」
「水族館のとき、新也さんが私を楽しませようとしているのに、それを踏みにじるようなことを・・・」
まさか向こうから謝ってくると思わなかったので一瞬反応が遅れたが、俺もすぐに謝る。
「い、いやいや!俺の方こそごめん。エヴァを楽しませるつもりが、かえって気を使わせちゃって」
俺がそう言って頭を下げると、エヴァは口に手を当て笑いながら言った。
「フフッ、やっぱり新也さんは優しい人です」
「私は、そんな新也さんが・・・大好きです」
その言葉を聞いた瞬間、俺の中から躊躇いが吹き飛んだ。そして、エヴァの手を握って言った。
「エヴァ!!」
「えっ!?はい!」
「俺、エヴァに伝えたいことがある!」
「え・・・」
「愛してる!!出会った時からずっと!だからこれから・・・も・・・」
そこまで言って、エヴァの目から大粒の涙が流れているのに気づいた。俺は咄嗟に手を離してエヴァに謝る。
「ご、こめんエヴァ!嫌だったら断ってもいいから」
するとエヴァは涙を流しながらポツポツと話し始める。
「違うの、ただ・・・嬉しくて・・・」
そして、そこまで言うとまた泣きじゃくり始めた。俺はただ、エヴァの隣に居てやる事しかできなかった。
エヴァはひとしきり涙を流し終えるとゆっくりと喋り始めた。
「ありがとう新也さん、今の言葉、とっても嬉しかったです」
「でも、だとしたら私からも言わないといけないことがあるんです」
「それっていった・・・」
そこまで言いかけた俺の唇にエヴァが人差し指を置いて言った。
「それは、ここでは言えません」
「なので、明日の夕暮れ、初めて会った岩場でお待ちしてます」
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