第8話 心の葛藤

 どうしよう……心のどこかで恐れていた事態が、ついに現実となってしまった。

 二人目の運命の人が、ついに彼女のもとに現れたのだ。あまりにも突然すぎて、目の前の事実を受け入れられず思考停止した。

 

 話を聞くかぎり不安かもしれないけれど、彼女が一緒にいて心落ち着く人と出会えたなら喜ぶべきなのだろう。

 いくら親に言われたからといって、気が進まないまま彼女が婚活を続けるのは、見ていて気がかりなところがあった。だから本当にいい人に出会えたのなら、心から祝福したい。それなのに、彼女の喜ばしい報告を心の底から素直に喜べない自分がいることに気づいてしまった。


 もちろん、彼女には幸せになってほしい。だけど、これから彼女の一番近くにいられるのは、自分ではなくなってしまう。とても大切な人がこれから遠くに行ってしまうと思うと、絶望に近い恐怖を覚えた。


 大切なものは失って初めてその存在の大きさに気づくのだと誰かが言っていたが、こんな形で思い知りたくなかった。神様は、なんて残酷なことをしてくれたんだ。

 

 彼女の幸せを望んではいるが、その隣を他の誰かに取られてしまうくらいなら、今回の話がうまくいかなければいいのに……そんな最低な考えすら頭をよぎってしまった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る