第6話 私の女神様
両親の離婚話は思ったより難航して、結局裁判になった。色々悩んだが両親の争いをこれ以上見ていられず、私は引越しを提案して母と弟と三人で暮らすことにした。
その頃運悪く仕事でも忙しさが続き、家のことと仕事のことで頭の中が色んな感情が入り乱れていた。けれど、それがどんなものだったかほとんど覚えていない。というより、そもそも自分がどんな気持ちを抱いていたか、その頃にはわからなくなっていた。
覚えているのは、どうしようもない寂しさと心が押しつぶされそうな孤独感。それらが常にまとわりついて離れない苦しさだけだった。
家のことは、彼女にも話せなかった。どんなふうに伝えたらいいかわからなかったし、彼女と過ごしているときは、できるだけ明るい話をして少しでも長く笑っていたかった。
身も心も限界に近づき、重い足取りで家に帰ろうとしていたある日、偶然にも帰宅途中の彼女とすれ違った。
「みっちゃん!大丈夫?ひどい顔してるよ。何があったの?連絡しても返ってこないし、心配したんだよ!」
久しぶりに聞いた彼女の声は、擦り切れた心に不思議と安らぎを与えてくれた。そういえば、忙しさと疲れでここ数日、ろくにスマホも見ていなかった。
「ごめん。仕事が忙しかったのと、実は……」
ことの全てを打ち明けると、彼女は静かに涙を流した。
「中学のとき、我慢して笑わなくていいって私に言ってくれたのに……そうやって、全部一人で背負い込むところ、みっちゃんの悪い癖だよ!」
真剣な眼差しをこちらに向けながら、彼女はそっと抱きしめてくれた。
結局、心配をかけるどころか傷つけてしまった。ただ、彼女の笑顔を守りたかっただけなのに、行動が全て裏目に出てしまった。
「泣かせてごめん。どう話したらいいかわからなくて……」
「違うよ。みっちゃんは今泣けないくらい辛いんでしょ。だから、私が代わりに泣いてるの。みっちゃんはもう十分頑張ってるから、これ以上自分のことをいじめないで……」
どうして彼女は、こんなにも私の心を見透かすのが上手なんだろう。たしかに、そのときの私には涙を流す気力すら残っていなかった。けれど、そんな優しい彼女を目の前にすると、それまで押し殺してきた気持ちが一気に溢れてきた。
「気づいてくれて、ありがとう。やっぱり真耶には敵わないね」
「当たり前でしょ!何年の付き合いだと思ってんの。私のこと、女神様って呼んでもいいんだからね」
そう言って彼女は調子がいいときの得意げな顔をしてみせた。
一通り話終えると、いつの間にか二人で笑っていた。何か状況が変わったわけではないが、今まで心の中に溜めていたものを吐き出せてとてもスッキリしていた。そうやって彼女は、今まで何度私の心を救ってくれたことか。そしてその度に、私の中で彼女の存在がどれだけ大きくなっていったことか。きっと彼女は、今でも気づいていないだろう。
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