想 像 能 力 者
『いいかい、カナン。君のように、脳内で思い描いた『心像』を実態化し、現実世界に
どんなに才に恵まれても、自分一人では伸ばせない。正しい導き手が必要だ。少なくとも、私はそうだった。
十代に入る頃――〈想像能力者〉は、与えられた『力』を自覚する。『想像』を得た私が迷わないよう、手を引いてくれたのは、スルファさんたちだ。
幼い私のために、スルファさんは言葉を噛み砕く。
『君のように、思いついたものを、頭の外へ持ち出して、形にすることができるのが〈想像師〉だ。そして――実体のある……形のあるものを読み取り、情報に置き換える〈解読師〉、それを元にして、形を写して増やしていく〈複写師〉、必要がなくなった時に消してしまう〈失効師〉――それらを総じて――〈想像能力者〉と呼んでいる――』
学びの始まり。私に向けられた言葉は、今も心に刻まれている。
『これはね、私たち〈想像能力者〉が『力』に目覚めた時、一番最初に教わることだ――私たちは一人にひとつずつ、神様から『力』を与えられている。だけど――どの『力』も、一人だけでは使えない。役立たずだ。君が持ってる『想像』もね。――その『力』を使って〈想像物〉……新しいものを生み出すには――〈解読師〉、〈複写師〉、〈失効師〉――他の三師から『力』を分けてもらう……いや、手伝ってもらう、が正しいね。逆の時は、君が手伝ってあげるんだ。これはね、君にとって――〈想像能力者〉にとって、とても大切で、破ることすらできない、神様との約束なんだ――」
忘れてはいけない――肝に銘ずる。神との、大切な約束を。
「カナン、君は一人じゃない。私たちは〈
仲間――この言葉に、私の心は軽くなっていく。
『〈想像能力者〉は脳内に、特別な記憶領域……ええと……そう――頭のなかに『箱』があるんだ。〈解読師〉、〈複写師〉、〈失効師〉は、必要な情報を『箱』に収めてから『力』を使う。『箱』のなかの情報は一回きり。その都度空にして、また入れ替えるんだ。でも――〈想像師〉の『箱』は、ちょっと違う。――そうだな、それは、『箱』というより……『引出し』だね。そこには思い出と分けた知識だけが、消えることなく、どんどん収められていく。たくさんの『引出し』から、その時に必要な分の知識を取り出して、練り合わせて、『辻褄合わせ』をして――何もないところから『心像』は描けないからね。君はこれから、たくさん学び、経験しなくちゃいけない。『引出し』の数も、成長に応じて増えていくだろう。〈想像師〉までの道のりは長いかもしれない。でも、君なら、辿り着けるはずだ――』
スルファさんの励ましは、ぼんやりとも見えなかった自分の未来を、明るく照らし出した。
『そうは言っても、〈想像師〉になれたとして、なんでもかんでも、思いついたものを好き勝手に……という訳にはいかないんだ。よく考えて、四師で話し合って、神様に認めてもらって、そして、王族からその証をもらって初めて、君の〈想像物〉は本物になるんだ。――『想像』、『解読』、『複写』、『失効』――『力』は一人にひとつだけ――これにはちゃんと意味がある。――昔ね、人は大きな過ちを犯した。神様が与え過ぎてしまったから――』
スルファさんの若葉のような瞳が、私の〈瞳〉を、じっと見ている。
『――神様……リトイス・エスキはね、人の欲に限りがないことを、よくご存知なんだよ』――
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