第12話 一触即発

「……ふざけんな」

「……それは……」


 一通りの過去当時の経緯が元執事、現庶務官から語られた。

 ほぼ全員が絶句し、次の句が紡げない状況である。

 分家から入った婿が、前当主の没後に妻子が屋敷にいるにも関わらず愛人親子を呼び寄せた後、領地に妻子を送る途中に刺客を送り込んで生死不明にし、どさくさ紛れに捏造書類を貴族管理局に提出。執事を筆頭にメイドから庭師に至るまで全解雇で証拠隠滅──だいぶ端折っはしょって言うとこうなった。ありきたりと言われればそうかもしれないが、見下げ果てた屑の所業である。

 ちなみにソアラというのはグラシア前侯爵元宰相の一人娘であり、セリカの母親であった。庶務官曰く瓜二つだそうである。


「ヴィオス、貴族印章関連の記録簿持ってこい。……貴族管理局の責任問題問われるだろ、これ」


 イストの指摘に王宮側の使者が顔色を変える。

 責任問題だけで済まない可能性もある。

 貴族管理局に提出される書類に押印する印章は神殿で管理している印章を押さなければならない。この印章は管理局の書類にのみ使用するため他の用途に使用を禁じられている。──故に神殿に使用記録がなければ書類が偽造されているわけである。


「……さて殿下、どうしましょうかこれ。侯爵家の一件と第一王子による聖女セリカの殺害未遂。セリカの方は普通の人間なら死んでますが。被害者はどちらもセリカであることには変わりませんがね」


 口調だけは整えたイストからは怒気が陽炎のように揺らめいて立ち上る。


「こちらとしては全面戦争で焼き払っても構わねぇぞ?」






 面食らった。としか言い様がなかった。

 目の前にいるイスト・アルテッツァという人物は本当に大神官なのだろうか?

 仮にも聖職者がなどと公言するものなのか……?

 創世神を奉る大神殿のトップに長らく君臨する──先代の…いや先々代の国王の御代には既に大神官であったと聞いたことがあるが……。

 それに聖女が可憐な美少女……聖女が攻撃魔法撃てるとかっ……聞いていない!というか死んだ元宰相侯爵の血縁者だとっ!?


『あのバカクイントどーすんだこれ……神殿と戦争とか勝ち目無いぞ』


 父王から下心もあって密命を請けたは良いが遂行出来る気はしなかった。出来ることなら時間を遡ってやり直したい──そうラグレイトは思った。


◇◆◇


 この国の王侯は良く解ってはいなかった。

 創世神の神殿の本質を。

 教義にという言葉があることを。

 創造と破壊は表裏一体ということを。

 創世神が何を思い、そして消えたのか。

 そしてそのやるせない意志を継いだのが誰なのかを。


 建国してたかだが二百年の王国には、暗黒時代と呼ばれた五百年前の大陸全土を巻き込んだ宗教戦争神々の代理戦争の記録はなかった。

 至高神の地位を簒奪した神の神殿の勢力をこの大陸から追放したのは傭兵イスト・アルテッツァ率いる創世神殿である。


 

 

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死せる聖女は甦る 風見渉 @Shou_k89

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