第72話 デートが始まりました。

 まさかと思うが前日の夜に試してみてサイズ的に着られれないとか、まして当日になんてダメだったときにどうしょうもない。


 制服がデートすることが決まって直ぐ、私は一度着てみることにした。


 ――うん、思ってたより全然違和感はない。まあ、最後に制服着てからまだ一年もたっていないから当たり前といえば当たり前かな。


 体重の増減もないし、顔だって別に変化ない。もう少し化粧くらい力を入れればいいんだろうけれど、いまいちやる気が出てこなかったから、良くも悪くも女子高生だったことと大差ない私だ。


 だけどなんだろう。卒業して、もう高校生でもないのに制服を着るというのは、やっぱり気恥ずかしさを感じる。


 コスプレだ。いや、コスプレ用の制服じゃなくて、ちゃんと実際に高校で通っていたときに着ていた制服なんだけど。どこかまがい物を装っている気持ちになってしまう。


 そんなわけで当日も、制服にいつものコートを羽織ったのだけれど、なんだか落ち着かないままだった。


 制服に合わせるという言い訳で、化粧もいつもの薄めのままだったのも失敗した気がしてきた。今からでも普通の服に着替えてきたいけれど、もう待ち合わせ場所に着いてしまっている。


 ノノは約束の時間ちょうどに来るだろうと、駅近くのコンビニでぼーっと新作のお菓子とか眺めた。そろそろかなっと、適当にお茶を買って出ると、集合場所にノノっぽい人影を見つける。


 ――あれ、まだ時間まで数分あるけど。


「ノノさん、ごめん。コンビニ寄ってた」


「ユズーっ! あーもうっ! 制服だっ!!」


「約束だったからね」


「可愛いーっ! 似合うっ! えーもうっ、ユズと一緒に高校通いたかったなぁー」


 のっけかハイテンションに声を弾ませているノノだったが、彼女も制服を着ている。


 デザインは多少違うけれど、彼女も私と同じブレザータイプだった。身バレ対策だろうマスクと伊達眼鏡をしているけれど、それでも十分美少女なのがわかる。


 ――そもそも頭身からしておかしいもんな。脚長いし、顔小さいし。目元がすごいキラキラしている。いつにも増して輝きが強いような……気のせいかな。こんな綺麗な瞳で、カラコンでもなんでもないんだから、なんか不平等だなと思わなくもない。合宿中にスッピン見たけど、ほとんど変わらなかったからな顔。


 化粧は詐欺ってたまに言うけどね、世の大半の人達が騙されているのは生まれながらの大詐欺師達だから。


 後から頑張っている努力家達は、騙そうとしているんじゃなくて、そういう最初からズルしている人達に追いつこうと必死なんです。


 などと恵まれた容姿への不平不満を思い浮かべたはさておいて。


「……ノノさんは、制服、恥ずかしくない?」


「ぬえっ!? なんで、第一声がそれなの!? アタシの制服姿だよっ!? ファンにもそうじゃない人にもめっちゃ可愛いって好評だったよ!?」


「え、可愛いとは思うけど」


「あっ、マスクと伊達眼鏡のせい!? 人いないところだったら、外すよ!? キメ顔とかしちゃうよ!?」


 目に見えてノノが動揺している。その不安げな顔は確かに可愛らしく、SNSにあげたらまた一話題かっさらいそうではある。


「えっと、だから可愛いんだけどさ……ほら、高校卒業してからまた着るのって変な感じしない?」


「全っ然! だってまだ似合うもん! ……似合うよね? ね? 全然まだ女子高生で通用するよね!?」


「ええ? ……うーん、通用とか言われても、別に高校には何歳でも通えるから、外見とか年齢的な問題って言うより気持ちの話なんだけど」


「いいのっ!! 言ったでしょ、今日は高校生に戻った気持ちで青春を取り戻すための制服デートなんだからっ!! ユズも細かいこと気にしないで、ほら行くよっ」


 そう言って、ノノに手を引かれて二人で水族館へ向かった。


 ――まあ、そうだよね。制服のことが気になって、お礼代わりのデートを楽しませられなかったら私の責任だ。


 気持ちを切り替えて、ノノを楽しませようと頑張るのだけれど。


 ――そういえば、お礼でデート誘ったって、ノノに言ったっけ?



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