第70話 イベントを走破しましたが。
運良く――いや、ルル達のおかげだ。
考察が当たったおかげで、隠しアイテムをいくつか見つけることにも成功し、終盤のダンジョンギミックも難なく突破することができた。
隠しアイテムはボス攻略にも有用で、一度目に試しで戦った後、そのまま集めたデータを元に挑んだ二回目でギリギリ倒した。――倒してしまった。
かかった日数は、当初の想定よりずっと早い十三日。二週間切りだ。
考察に力を入れて、ポイント回収での順位上げを目指していたから、攻略までの速さについてはそこまでシビアに考えていなかった。
『鈴見総次郎のパーティーはまだ攻略が終わっていない』
ボスを倒して、みんなが歓喜してからしばしたった頃にアズキが教えてくれた。
「やったっ!! 二重でめでたいねっ」
『あー! それなら、ユズからのご褒美も確定ってこと!?』
いつもより何割か増しに明るく弾んだ声で、ノノがはしゃぐ。
鈴見総次郎に勝ったなら、鈴見総次郎と私が賭けていた一晩の約束がなしになって、パーティーの中にいる誰かのものとなる話にはなっていた。
――これに関しては、もう私が全力でパーティー内の貢献値を稼いで回避することしか考えていなかったので、今更どうこう言うつもりはないけれど。
ただその前に。
「まだ勝ったかはわからないけどね。公式発表までは……一応、あの人達のパーティーが他でポイント稼いで、最終的な順位では負ける可能性もなくはないし」
『ぬえぇーっ! そんなことないって絶対勝ったって!! アタシ達、超頑張ったし!!』
「私もそう思うけど……ぬか喜びは嫌だし、一応ね」
ノノとルルには話していないけれど、鈴見総次郎が直接リアルで接触してきたことを考えると、向こうが順調でなかったのも間違いないだろう。
――もし勝てる見込みが十分あるなら、あそこまで焦った対応もしてこなかっただろうからね。
結局、すぐイベント攻略が終わったこともあって、あれからお店の手伝いは二度だけだった。アズキにもその二回は、お店を手伝ってもらって、家からお店までの移動にも付き添ってもらう。――なんだかボディガードみたいだ。ストーカー予備軍だったはずなのにな。
私の付き添いをしてもらっていることへの申し訳なさと、私に巻き込まれることでアズキの身にも危険が降りかかる可能性だってあるんじゃないかという不安はあった。
だから無事イベントが終わって、とりあえずこちらも一安心だろう。――もちろんイベントが終わっても、会社間の問題があるならまだ鈴見総次郎が接触してくることは考えられる。
鈴見総次郎が二度とこちらに危害を加えられないように、なにか安心できるものがあればいいんだけれど。
――イベント中は大学の講義も限界ギリギリまでサボってたから、これからはちゃんと出席もしないとだしな。
通学までは、アズキにどうこうしてもらうわけにもいかない。ただ大学の話は鈴見総次郎とした覚えもないし、会社の場所と違って調べてわからないと思う。SNS類はやっていたにので、大丈夫だと思うが、どこで情報が繋がるかわからないので絶対安全とは言い切れないだろうけれど。
あとは、自宅の住所もバレていないはず。
あの日や、それ以外の日でも、姫草打鍵工房の店舗からつけられていたらバレる可能性はあった。
それについてはアズキが、『大丈夫、僕以外がユズをつけていた形跡はない』と安心なんだが不安なんだかわからないことを言ってくれた。
――言葉に信憑性があるのも怖いんだよなぁ。アズキが言うなら、多分大丈夫なんだろうと思ってしまう。
ともかく、今はそんな暗いことを考えても仕方ない。せっかくイベントダンジョン攻略を終えたばかりだ。
私はマイクに音が入らないよう、自分の頬を軽く叩いて切り替える。
「みんな、ありがとう。みんなが今日まで頑張ってくれたおかげで、目標達成……ううん、それ以上でイベントが攻略できたと思う」
『ユズさんっ、わたし、ユズさんとイベントができて楽しかったです。……こんな素敵な思い出、わたしっ』
声だけだけれど、ルルの感極まった様子が見えるようだ。
「しばらくいつも以上に集まってヴァヴァやってたから、ちょっと自由期間にしようかぁ。今週と来週はギルドで集まってってのは一旦なしで」
ヴァヴァのイベントダンジョン攻略は、基本的に一回切りだ。
ボスを最初に倒したタイムが記録されて、それ以降は他のアイテム回収やギミック攻略でのポイントも加算されない。
完全にリセットして、最初から攻略するという選択は一応あるけれど、それをやって前より上の順位に入ることは現実的ではない。
そういうわけで、しばらくのリフレッシュ休暇ということになった。
私の場合は、大学の課題をまとめて終わらせる苦行の期間であって、リフレッシュとはほど遠い。
ヴァヴァをやっている間こそが精神の安寧期間なのだから当たり前だ。
そのまま少しだけイベントの感想会をして、その日は解散となる。
貢献値の発表については、ランキング発表のあとでという話になって私もデータだけ保存して、中身は確認しないことにした。
誰が一位かわかったあとで万が一鈴見総次郎達に負けた場合、余計遺恨を残すと思ったのでこういうことにした。――単純に不安を後回しにしただけ……とも言えるけど。
それから学業も大事なんだけど、まだやらなきゃいけないことがあった。
今回のイベントで目標を達成できたのは、間違いなくパーティーのみんなのおかげだ。
ルルやアズキに関しては、いろいろあって多少なりとも個別にお礼ができた気もしていた。
もちろん、ランキング発表後には打ち上げも兼ねてなにかしらしっかりとまたお礼もしたいとは思っている。
ただノノには、合宿場所の提供に、仕事で忙しい中限界ギリギリまでヴァヴァのプレイ時間を捻出してもらうなど、だいぶ助けてもらっていた。
――なにかしら、お礼したいな。なにがいいかな?
そういえば、ノノは前にデートがしたいと言っていた。デートと言っても、一緒に出かけるくらいだし、それならいいかもしれない。
国民的人気アイドルと並んで歩くのはできたら遠慮したいんだけど、ノノがしたいって言ってたことだからね。
お礼にはちょうどいいんじゃないだろうか。
人気アイドル相手に、お礼でデートするというのも、私はいったい何者なのかという気はする。――いや、本当なに? 私、なに?
まあ、エスコートってほどのことはできないけど、軽く調べてノノに楽しんでもらえるよう頑張ってお礼しよう。
スイーツとか奢って、ブラブラしながら見つけた可愛い小物とかプレゼントしてもいいかもしれない。
お金に関してもノノはちっとも困っていないだろうから、正直送る側としては釈然としないのだけれどこういうのは気持ちの問題もあるから。
ということで、ノノにデートの誘いを入れてみた。
デートの話もそこそこ前で、ノノも気持ちが変わって全然乗り気じゃないってこともあり得るし、イベントで無理して多分仕事が忙しい可能性もある。
――断られるってこともあるのか。……まあ、それならそれで他のお礼も考えるかな。
『行くっ!! 絶対行くっ!! 仕事キャンセルしてでも行くっ!!!』
――というのは、杞憂で済んだみたいだけど。ちょっと前のめり過ぎて怖い。私のデートに、そんな期待されても……。ちゃんと喜んでもらえるのかな。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます