第11話 レアアイテムはもらいましたけど。
アズキと解散した後、私はお昼ご飯を済ませてまたヴァヴァに戻っていた。
食事を済ませてまたすぐゲーム。最強ギルドを目指す身の上であれば、正しい姿だろう。
休日の女子大生としては、どう思われるか少し心配だけれど。
ゲーム画面を開いてすぐ、メッセージが何件も貯まっているのに気づいた。
確認すると、差出人はすべて『ノノんがノノ』である。――また嫌な予感が、いや、そうだレア星の最強
「ギルドメンバーからのメッセージは読まないとね……」
文面を完全に飛ばし読みして、アイテムが添付されていないかだけを次々に確認していく。すべてを確認し終えても、アイテムは一つもなかった。
見間違えか? 私は並んだ大量のメッセージから、一番古いものと最新のもののだけ選んでを読み返すことにする。
ようやくすると、今日の昼間なら少し時間が取れるから通話したい、ということだった。
気が乗らないけれど杖が、あれだからな。
「……はぁ。とりあえず、通話かけてみるか」
最新のメッセージは数分前で、すぐに通話して、とあるのでメッセージも返していない。相手がアイドルだとわかった今だと、これが無礼なんじゃないかと心配になってくる。
『あーっユズ遅い! もうっ、待ってたのに』
「ごめん、ノノさん。お昼ご飯で、ナポリタン食べてた」
『誰よナポたんって!? アタシのこともノノたんって呼んで食べてくれていいんだよっ!?』
「……あのお腹いっぱいなんで、本題いいです?」
ひどい! 冷たい! と怒っているノノには悪いが、ナポリタンを人名と聞き間違える
流行のイケメン洋食屋シェフが作った冷凍ナポリタンのCMで、『もうもうっ、乃々花がいるでしょ!!』と可愛く怒る乃々花に、多くのファンが魅了されたという。
『本題もなにもー、アタシは時間作れたからユズとお話ししたかっただけなんだけどなー』
「……今まで全然ボイスチャットしなかったのに、わざわざ通話しなくても」
『それはほら! 通話の段階で大人気アイドルの九条乃々花だって気づかれたら、遠慮して距離取られるかもでしょ!? 一回オフ会して、もう後には引けない状況になればーアタシがアイドルでも接し方を変えずにしてくれるかなって』
「それは、そうかもしれないけど」
たしかにリアルで会う前だったら、アイドルをギルドに入れることは考え直していたかもしれない。
――というか、本当に国民的人気アイドルがこんなにオンラインゲームしてていいのか? オンライン率がそこまで高くないとは言っても、もっとやるべきことがあるんじゃないの?
「そういえば、あれだよね。あれ……えっと、なんだっけ? 杖?」
『あははっ、もうっユズのそういうとこアタシ好きだよ。星屑成層ノ杖、ちゃんとあげるから心配しないで』
「うっ……いや、その……ありがと」
『でもなー、ほっぺにチューだけでこのアイテムあげちゃうのかー』
もしこれが逆で、アイドルとオフ会して頬へのキスをできる権利――と考えるとレア星のアイテムが一個でも釣り合いそうだ。
ただ私のようなただの女子が、ちょっとオフ会しただけで数千万価値のアイテムをもらっていいのか。
今さっき
「……あーやっぱりあの、全然アイテムとかなくても……私もアイドルの九条乃々花に生で会えるなんて貴重な経験できたわけだし」
『違う違う! そーいうんじゃなくて、もっといろいろしたかったってこと! 本当だったら直接会ったらもっといろいろ勢いでできると思ったんだけどなー』
「もっといろいろってなに!?」
『指チュパチュパしあったり、お腹なめなめしたり?』
これ、通報したほうがいいの? ヴァヴァの運営と九条乃々花の所属事務所どっちに連絡したほうがいいのか迷うところである。
「オフ会ってやっぱりそれぐらい
人気アイドルの闇、聞いてはいけない裏側を知ってしまったのかもしれない。
『ないない! ちょっとユズ! アタシのこと裏で遊びまくってるヤバいアイドルだと思って疑ってるでしょ!?』
「疑いのタイミングは終わって確信に入っているけど……」
『誤解だからね!! 全然遊んでないし、オフ会だって昨日のが初めてで!! 普段は仕事で忙しいし!!』
「……まあ、ノノさんが遊んでても遊んでなくてもどっちでもいいんだけど」
そもそも世間の一般人よりもやや低いくらいの関心しかないくらいだ。
悪いけれど、特段ファンというわけでもない。もしファンだったらオフ会で事実を知ったタイミングで気絶とかしていただろう。
私も昨日は国民的有名人が、それも純粋にあれだけ可愛い子が目の前に居るということに動揺していた。けれどオンラインゲーム越しでの通話ならだいぶ冷静になれている。
『やだやだ! ユズに遊んでる子だと思われたくないから!!』
「ええ―? 別に私、SNSとかやってないし、どっかで言いふらしたりしないよ?」
『そうじゃないの!! ネットに書かれるのも困るけど!! ユズには、アタシがちゃんとした子だって思ってもらいたいから』
「ちゃんとした子って……なに? だいたいノノさん、会う前からヤバい人だったし……」
ノノはアイテムを貢ぐ代わりに、変な要求ばかりしてくる人だ。
おっさんではなかったから若干危険レベルは下がっているものの、同性相手にあんなことしていたと思うとまた話が変わってくる。
「……えっと、聞いていいのかわかんないけど、ノノさんって女の子が好きなの? 男とは遊んでないって意味?」
『ぬえっ!? ち、違うからね!? 男とも女とも遊んでないよ!! ……女の子のが好きなのはあるかもしれないけど』
なるほど、あんまり考えたこともなかったけれどやっぱりそういうこともあるのか。
――私、昨日女の子相手にキスされたばっかだもんな。
『さっきからユズ、全然つれないし! 昨日はアイドルのアタシに緊張しちゃったのかなーって思ったけど、なんでそんな塩対応なの!?』
「塩って……そんなことないと思うけど」
塩対応、つまり素っ気ない対応ってことだ。
私もおっさん相手だと、無意識に塩対応してしまいそうになるので頑張って愛想よく振る舞っていた。
『ほら、これ。あげるね』
ノノんがノノからアイテムが送られてきたと、ポップメッセージが表示される。約束の杖だった。
「ありがとう。えっと、これってやっぱすごい課金とかしてるの?」
『課金も結構してるし、他にもいろいろかなー。あんま他に趣味ないから課金できるタイミングは毎回できるだけしてるし』
「すごいなぁ」
同年代の相手が世間に認められお金を稼いでいて、そのお金を好きにゲームへ課金できている。
プレイ時間が減るという面ももちろんあるのだが、純粋にうらやましいし、尊敬もする。
『むふふっ、そうだ、次は二人で会おうよ』
「えぇ? 二人きりって、別にいいけど……」
『あっ、アタシこれから仕事だから切るね! レアアイテムあげるから、次はベロチューしようね』
「えええぇ!?」
とんでもないことを言って、ノノからの通話が切れた。
どうやらノノは、私にこれからも貢いでくれるらしい。だが、要求も相変わらずエスカレートしている。
――私はどうすればいいんだ。美少女相手に姫プレイを続けていいんだろうか。
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