最終話 【地中海の孤島でハーレムエンド】小松秀亀のなんか結局こうなりそうな予感がするあったかもしれない未来

 ここは地中海の東か西か、南か北のどこかにある孤島。

 名前はキヌコアイランド。


 一昨日国連に認められた、現在世界で最も若い国家である。


 国王は小松絹子。

 政務も小松絹子。

 司法も小松絹子。


 ばあちゃんの独裁国家以外に表現が見つからなかった。

 俺もまだまだ勉強が足りない。



 グレーなものを「灰色です!!」としか言い換えられないなんて!!



 これから開発を進めていくらしく、島民は約2000人。

 ヨーロッパ圏の人たちが適当に入り混じっているので、公用語をさっさと制定しないと日常会話もままならない。


 そんな絹子の島に送り込まれたのが、マリーの会。


 日本から計算するのも嫌になるくらい離れているのに、何故か全員が二つ返事で「行きまぁす!!」と答えたらしい。

 すごいなぁ。みんな。俺にはとてもできない。


 そう思っていたら、昨日の夕方。

 喜津音女学院で仕事を終えて、愛車のハスラーに乗り込もうとしたらなんか黒服の人たちに囲まれた。


 これはヤバいと大声を出そうとしたところ、口をふさがれる。

 多分、偉い人と思しきおじさんが身分証を見せて「落ち着いてください」と渋い声で俺のメンタルを鎮めにかかり、本当に落ち着きそうなところで脳内に声が響く。


(おっす! おら、オードリー・ヘップバーン!! ヒジキ! そこにいるのは特務機関・KINUKOのエージェントたちさ! 安心しな!!)



 何も安心できる情報がねぇんだが!!



(ばあちゃんも忙しいから、手短に言うよ。ばあちゃん、国作ったのさ。で、そこにあんたみたいな筋肉だけ付けて海綿体には血が通ってないふにゃちん童貞野郎を慕ってくれてる女子を集めといたよ! ……アダムとイブになる時は今だよ。逝きなさい、ヒジキくん!! このバカ孫がぁ!!)


 そして俺はエージェントたちに連行され、プライベートジェットに乗せられなんかリッチな機内食を2回食べて寝て起きたら、地中海の孤島にいた。



◆◇◆◇◆◇◆◇



「おじゃじゃーす! 秀亀さん! ギャリーショップ開店したっす!」

「分かった。レアぴっぴ? すげぇ胸が透けてんだけど。気を付けた方が良いよ?」


「ピーナッツクリーム野郎。透けさせてんすよ。昨日は付け乳首ズレてるよとか言ってきてぃーすけど、ズレてんのは秀亀のヒデキっすよ」


 俺、キヌコアイランドの執政官になったみたい。

 国王が早々に政治放棄する独裁国家ってある!?


 ばあちゃんが言うの。毎晩、寝る前に。


 (あんたみたいなゲロカス童貞野郎のハーレムに志願してくれた女子たちを、まさかヒデキが元気なとこも見せずに解散させるってのかい? みんな仕事や学校辞めて来てんのに? 責任も取らないの? ヒジキくん? 死になさい)とかね、呪詛を呟き気味に囁くの。



 それ、俺の許可取れとは言わんからさ!

 せめて計画が始まった時点で「おめーの逃げ場ねーから!!」くらい言ってよ!!


 覚悟してるのとしてないのじゃ、適応までの時間が変わるんだよ!!



「あ。秀亀さん。あの、お漬物工場を稼働させたいんですけど。村越堂の社員を100人ほど移民として受け入れても良いですか?」

「俺は良いけど、社員の皆さんは良いのかな!? あと小春ちゃん! 胸を透けさせてくれてありがとう!!」


「え゛っ。あ、あはは。すみません。気付かなくて。こんな貧相なものを。そりゃ、指摘したくもなりますよね。……ははっ」


 レアぴっぴの店の服じゃん。

 じゃあさ、みんな意図的に透けさせてるのかなって思うじゃん。


 小春ちゃんが経済を活性化させていく。

 18歳の決断力じゃねぇよ。


「おいっすー! 秀亀、ヒデキ! わたしもTシャツに水ぶっかけて来た方が良かった?」

「全然求めてねぇけど!! あと、秀亀を呼ぶのかヒデキを呼ぶのかどっちかにして!」


「おっけ! ヒデキー!!」

「迷わずそっちに行きおった!! で、なんだよ!?」


「あのさー。ここって男女比が偏ってんじゃん? 女子多めじゃん? 1500人に対して、男子500人じゃん? 治安悪いよねー」

「確かに。それで?」


「昨夜だけで、7件のえってぃー未遂があったのであります! 罪人は皆、10代の女子です!! これは据え膳食わなかった童貞に罪があるとぼっち警察は判断しました!!」

「警察機関が腐敗した国ってすぐ滅亡するんだよ? それさ、日本だったら普通に強制なんちゃら罪だからね?」



「キヌコアイランドは性に奔放な国なので! むしろ、チュッチュされたらチュッチュに応じないのは、挨拶ができないレベルの礼儀知らず! 逮捕するであります!!」

「くそっ! 独裁国家って本当に良くないね!! ばあちゃんが法律だもん!!」


 新菜は当然のように警察庁長官の席に腰を下ろしている。



 俺、ハーレムって言うよりただ忙殺されるために来たんじゃないの?

 だって、マリーの会の女子どもはみんな知ってるし、ズッ友だし、今さら胸の1つや2つ透けさせられたところで、ヒデキは動かんよ。


「もえもえです!!」

「ぐあああ! マジかよ!! もえもえがそれすると、さすがに俺も目ぇ逸らすわ!! と言うか、袋どうした! バレーボール袋!!」


「ヤマモリレアピーチちゃんが、これなら小松さんがテイクオフすると言うので!!」

「レアぴっぴ、後でお説教だな。それで、萌乃さんは何のご用かな?」


「まずはスパイクをお願いします!!」

「挨拶みたいに乳しばけるか!!」


「あぅぅ。バレーボールはスパイクしないのに、ツッコミのキレだけ増していきます。ああ、ご報告です。ローマから偉そうな司祭の方がいらっしゃったので、我が国にはヒジキ教があるからとお帰り頂きました」

「ええ……。あとでばあちゃんに謝りに行ってもらおう」


 もえもえは外交担当。

 この子、バカなのに何か国語も喋れるの。


 「もえもえはバウリンガルですので!!」と大変立派なバレーボールを2つ張っていたけど、それね、犬の気持ちが分かるヤツ!!


 なんでバカなのにヨーロッパ圏の言語、全部扱えるんだろうね!!


 さてと、だいたい捌いたな。

 じゃあ昼飯にしよう。


「おじさん!! あたしのご飯はどこですか!!」

「出たな、マリーさん。ねぇよ!?」


「うぇぇぇ!? なんでですかぁー!? あたしのご飯は地球のどこに行ってもおじさんが作ってくれるって1万年と2千年前から決まってるんじゃないんですかぁー!!」

「まりっぺ、この国の皇女様じゃん。地位としてはババア、失礼。ばあちゃんよりも高貴な身分じゃん。市井に出てくんなよ! 暴れん坊将軍か!!」


「やーでーすぅー!! 暇なんですもん!」

「そんな時のテレパシーだろ!! テレパシー使えよ! 話し相手になってやるから!!」



「おじさぁん……。マリーさんはおじさんの顔を見て、温もりを感じてコミュニケーションを取りたいんですよぉ?」

「すまんが、何故だろう。この世界ではヒデキが微動だにせんのだよ! 多分ね、違う世界だったらもう茉莉子は妊娠してると思うんだけど!!」



 夕方になると行政官邸に引き上げる。


 何故かデカい家が一軒だけ建ってて、そこでマリーの会と共同生活させられてるんだけどね!!

 俺、行政のトップよ!?


 良くないと思うな、こういうの!

 不正の温床になると思う!!


「よーし! ヒデキがご飯作ってくれてる間に、みんなで薄着になろうぜー!!」

「うぃっす! 今日はどこまで行くっすか? もう胸出しちゃいましぃーすか!!」

「ダメですよー。おじさん、ダルダルのブラトップ着てるあたしが目の前で屈んでも無反応なんですからー」


「ならば! もえもえが挑みます!! マリーさんよりもボリューム感があります!!」

「……ははっ。……私、もう全裸になっても良いですよ?」


 ガールズトークと呼ぶにはあまりにも凶悪な会合が毎晩のように行われる。

 これは行政に必要な事なのだろうか。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 それから8年の時が過ぎ、キヌコアイランドは大きくなった。

 そして今日は国葬が行われる。


 ばあちゃん、ついに逝っちまうんだな。



 俺が!! 30歳で!! 毎日あんだけストレスかけまくるから!!

 童貞のままご逝去したよ!! 来世は魔法使い確定じゃん!!



 小松秀亀が静かに息を引き取った。

 だけど、哀しくはない。


 俺の魂は、きっと数多の可能性の世界を巡り続けるのだから。


 もうここには戻って来たくないな!!


(秀亀がいたから楽しかった。ドジで明るくて優しくて、童貞で。そんなクソチキン童貞野郎がみんな大好きだったから。……これで、小松秀亀のお話はおしまい。あばよ!!)



 ————ifエピソード、完。

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