第74話 夏期講習だ! レアぴっぴ!! ~なお、ライバル襲来の気配~

 受験生にとって夏の過ごし方は大事。

 まあ、秋になったら秋の過ごし方が、年末になると年末で勝負が決まる、年が明けたらここで怠ると画竜点睛を欠く、みたいに1年中「大事やぞ」と言い続けるのが家庭教師の宿命。


 別に絶えずストレスを与えてやるぜ、ひっひっひ、という意図はなく、だけどプレッシャーを適度に与える憎まれ役もお給料の内だわねと、二律背反な苦しみと共に生きている世の家庭教師仲間の諸君とは、一席設けて語り合いたい。


「ちょりっすー!!」

「桃さん、ちょりっすです!!」


「やー! 暑いすねー! これ、お土産のピーチパイっす。キンキンに冷やしといたっす! あとでビーチパーリーしましょ! あと、こっちはお土産のピーチっす。田舎のグランババアが送ってくれたんでおすそ分けてぃーす! そしてここにいるのがレアピーチっす。胸には凡ピーチが2つ付いてるっす。秀亀さん、どれからウーバーイーツするすか?」



 レアぴっぴ、心にゆとり、あり過ぎ問題。



 もう8月になったのに、なんだろうかこの余裕。

 夏になってオシャレも加速している。


「桃さん、桃さん! なんですか! その紐のないブラジャー!! どういう理屈で巻き付いているんですか!? 引っ張ってもいいですか!!」

「これはチューブトップって言うヤツっすねー。夏なんで、やっぱチューブかなって! パパピも言ってたんで!!」


 パパピ、やっぱおっさんだな。

 TUBEとチューブトップ掛けてんじゃん。


「あ! 知ってますよ、それ!! なんかあれでしょ! ハローって言うヤツ!! はじめヒカキンって人が、それってあなたの感想ですよね! って言うヤツです!!」

「おけまるっす、茉莉子さん!! やっぱ夏はチューブっすよ!!」


 YouTubeだった。

 パパピ、時代にコミットしてんじゃん。


「ところで! その桃さんのチューブは引っ張っても良いヤツですか!?」

「構わんてぃーっすけど、レアピーチのピーチがこんにちはするっすね!!」


「おじさん!! いいですか!?」

「いいわけねぇだろ!!」


「ウチは一向に構わんッッ!! てぃーっすよ?」

「構うわい!! 君は何しにうちに来てんだ!!」



「えっ?」

「桃さん! 君、ファーストコンタクトが最高値で! それ以降ちょっとずつワースト更新してんだけど!! あの頃の賢い君はどこ行った!? 経済について語ってくれよ!!」


 ピーチピーチ言いやがって!!



「忘れねーうちに渡しときゃーす! ピーチジョンのカタログっす!!」

「おおー! これがギャルのパンティですかぁ……!!」


「……秀亀さん? 茉莉子さんにナニ教えてんすか?」

「違う! ドラゴンボール貸してあげたの!! そしたらこの子、なんか序盤ではまって動かなくなったの!! 未だにレッドリボン軍と戦ってすらねぇんだよ!! 俺は何も言ってない!! ウーロンが悪い!!」


 まりっぺがピーチジョンに夢中になったので、授業を始めようか。

 なお、茉莉子が定期的にやる「下着、オシャレ着全滅の儀」によって昨日、多数の戦死者が出た。


 俺のボクサーパンツまで巻き込まれた。

 まあ、俺はその辺の安いトランクス買ってくりゃ済むんだが、茉莉子はそういう訳にもいかない。


 ぼっち警察によると、ピーチジョンってヤツのクーポンがあるんだって。

 俺、茉莉子と同居始めてから女子の下着のメーカーすげぇ覚えたよ。


 今回も茉莉子の衣服担当大臣を兼務している新菜にすべて任せてある。



◆◇◆◇◆◇◆◇



「さて、模試の結果を拝見しようか。桃さん」

「うへぇー。覚えられてぃーっすか? あの、それはレアピーチのピーチでどうにかなりませんか?」


「ならん!! 結果、良くなかったの?」

「ご覧あそばせピーチ」


「ピーチがついに語尾に……。B判定じゃん!! 悪くないよ!! なんだよ、俺もっと悪いのかと思ったじゃない!! 驚かせてからに!!」

「やー。さーせん!! C狙いだったんすけど。うっかり逃しチーカマっす」


「なんで? B判定の方が良いんだよ? そこから説明しないとダメだった?」

「やっ。Cだと、ウチの凡パイと同じランクなんで。おそろって良くないっすか? レアピーチのピーチはCという秀亀さんへのアプローティも兼ねてるんすけど!!」


 桃さんには適当に喋らせといて、俺は詳しい成績を確認。

 やっぱり社会科が良くないな。


 英語、ほとんど満点なんだけど。

 リスニングだけ異常に悪いのは、レアピーチ脳が暗記できてないからか。


 国語と数学も焦る必要はない水準をキープしてる。

 やっぱりデキる子だよ、レアぴっぴ。


「だいたい分かった。桃さん、とりあえず地歴公民に注力して、いねぇ!!」


 気配消しての移動もデキるようになれとは言ってない!!


「茉莉子さん! これがチューブトップっすよ! サイズあります?」

「うぅー。ないですぅー。あたしはチューブキメられないんですか!? おじさぁん!!」

「さらしでも巻いといたら?」


 4つのジト目が俺を見つめる。



「そーゆーとこあるモンティーっすよね。秀亀さん。メンズのダメなとこはしっかり踏襲してくるっつーか、ピーナッツクリーム野郎っす」

「おじさんはですね、女の子の見えない部分にかけるオシャレよりも、中身にしか興味ない! と見せかけて、中身にすら興味ないんです。ヒジキブッダなんです」


 なに? 俺はついに悟りを開いたの?

 俺の知らねぇところで。



 まあ、成績も安定してきたからね。

 あんまりせっついて気持ちを焦らせるよりも、心穏やかに心身を整える方が今は大事かもしれないね。


 とか思っていたら、レアぴっぴのピーチが激しく乱れる事案が発生した。

 玄関の呼び鈴が鳴る。


 嫌な予感しかしない。



◆◇◆◇◆◇◆◇



「ごきげんよう! もえもえです! 地中海に行ってきたので、お土産をお持ちしました」

「マリーさん。故郷に萌乃さんが行ったってさ。ジモティートークしておいで」


「あばばばばばば。おじさん、時々ヒジキビースト出してくるのヤメませんか? マリーさんは地中海のことを頭を打って忘れたことにしてください」

「あ。まだ頑張ってぃーんすね」


 マリーさんのメッキが剥がれ始めて、主にぼっち警察とレアぴっぴにはほとんどナニがバレているが、どっちも優しいので口に出さず付き合ってくれている。


「こちら、マリーさんも馴染みがありますね? カルトゥージアの香水です!」


(おじさぁん! なんか変なの出てきましたよぉ!!)


 地中海のカプリ島で作られてる香水で、ローマ法皇も使ってるらしいよ。

 それはちゃんとジャズっとかないとボロが出るヤツだな。


 がんば!!


 茉莉子が謎の香水の蓋を開けて、直に匂いを嗅いで「ふぎゅえ!!」と侯爵令嬢とは思えない声を上げた瞬間、萌乃さんが爆弾を投げて来た。


「ところで小松さん! もえもえ、進学先を決めました!!」

「おお。ハーバード大学? オックスフォード大学? よく知らんけど、その辺?」


「喜津音大学です!」

「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」



 レアぴっぴが「うっせぇわ」の溜めの部分みたいな声出した!!



「な、なんでお嬢が!! ウチと同じとこ志望するんすかぁ!? 脂肪は乳だけにしとけっすよ!!」

「あ。ヤマモリレアピーチちゃんもですか? 知りませんでした。と言うことで、今日から家庭教師をお願いします! 小松さん!!」


 レアぴっぴがもう一度「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」と唸った。

 茉莉子や。俺にもそのオシャンティーな香水を嗅がせておくれ。

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