第138話 気術士、外見年齢
「……少し、ですか?」
俺は父上にそう尋ねる。
父上が子供の頃、というとそれこそ二十年以上前になる。
それなのに全く姿が変わらないというのは、少しどころではないような。
そう思ってしまったからこその質問だった。
しかし父上は言う。
「少しだ。といっても、私の頭がおかしいとは言ってくれるなよ。お前だって分かるだろう? 気術士と言うのは寿命が長い。さらに言うなら、体内の真気を操るが故に、老化も遅い者ばかりだ。十七、八から数えて二十……いや、三十年以上経っても見た目が変わらん奴は結構いる」
言われてみると、確かにそうか。
この辺の実感は、俺にはあまりなかった。
と言うのは、俺は前世、十五で死んでいるからな。
物心ついてから十年ほどしか経っていないわけで、十年くらいだとそこまで大きく見た目の変わる人間というのはいなかった。
代わりに百歳近くても六十くらいにしか見えない人間は結構いたわけだが。
ただそれについても誰がいくつかなんて詳しくは覚えてないからあまり気にも留めなかったというか……。
ただ、今世で言うと、西園寺景子なんかは、いまだに二十代で通じる見た目をしている。
中身は七十代なのにだ。
それを考えると、二十年三十年、見た目が変わらないくらい、気術士界ではありがちな話と言えた。
「……なるほど」
俺が頷くと、父上はさらに続ける。
「そもそも、光枝は歳を聞いてもまず教えてくれないからな……睨むなよ、もう聞かんから」
歳に触れた父上に、光枝さんの恐ろしい眼光が襲いかかったようだ。
それを見て俺はつい、
「……何十どころか何百歳だろうに、今更気にすることか……?」
と言ってしまう。
そんな俺にも光枝さんの視線は飛び、そしてガッ、と頭を掴まれる。
万力のように痛む握力……。
「……痛いです、光枝さん……」
「でしたら、年齢のことには今後触れないでください。幾つになろうと女性は気にするものなんですよ……?」
地の底から響くような声に俺は怯える。
これは、殺される。
そう思った俺は静かに、
「……わ、わかりました……」
そう言った。
するとふっと頭の力が緩み、
「ならいいでしょう」
と言われる。
そんなやりとりを見ていた母上が微笑み、
「武尊がそこまで慌てる姿は珍しいわ」
と言ってくる。
「母上……息子の危機ですよ。助けてくださっても良かったのに」
「いくら息子でも、女性に対して気軽に年齢を尋ねる男にはなってほしくはないからね。それに比べて、圭吾さんは……」
母上はそう言って隣の父上に冷たい視線を向ける。
これには父上も慌てて、
「い、いや。私もそんなことはもうせんぞ!? 光枝についても、昔何度か尋ねたと言うだけで……昔の話だ」
「でしたらいいのですけど。気をつけてくださいね?」
「あ、あぁ……そ、それよりだ。仙界の方の話だ」
無理やり話を戻した父上だが、本題はこれだったので母上も光枝さんも素直に受け入れる。
「はい。何かご心配ごとでも?」
俺はそう尋ねた。
というか冷静に考えて心配事しかないと思うが、今更の話なのでそれは気にしないことにする。
「危険とかそう言うのはもう、お前が気術士としていっぱしの働きをしている時点で私が口出しをするようなことではないと理解しているが……そもそも、仙界と言うのはどう言うところなのか気になってな。単純な興味だが」
「なるほど。それはそうですよね……光枝さん」
俺がそう水を向けると、彼女は話し出す。
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