第46話 気術陣

「この気術陣を、気術回路に組み込んでいくんだよ。そのためのやり方は色々あって……一番分かりやすいのが、気術回路それ自体で気術陣を描くやり方だね」


 そう言って、夢野先生は革紐のようなものをいくつか手に取り、それで先ほどホワイトボードに描いた気術陣を地面に描く。

 そしてその気術陣に真気を注ぐと、やはり先ほどと同じ現象……燈火の術が起動した。

 

「……ですけど、これだと大変過ぎませんか? いえ、私は小さな……それこそライターと同じ役割をする術具を見たことがありますが、これですとそこまで小型化するのは難しいような……」


 咲耶がそう疑問を口にする。

 それに対して夢野先生は、


「お、いいところに気がついたね。まさにその通りなんだよ。このやり方は凄く単純なんだけど、そうであるがゆえに融通が利かなくてね。小さな道具に組み込むことはとても難しい。だから、通常の術具作りでは、これはあまり使うことが多くないかな」


「では一体どのように……?」


「ここからはちょっと難しいんだけど、気術陣には、他の気術陣を記憶できる気術陣、というのがあってね。それを使って、気術陣を組み込んでいくんだ」


 これは少し難しい気がするが、現代だと例えやすい存在がある。

 パソコンなどの電子機器だ。

 要は、パソコンのハードが素材や形状で、メモリやストレージに当たる部分がその他の気術陣を記憶できる気術陣、そしてアプリケーションやデータが、実際に効果として付与される気術陣、ということになるだろう。

 もちろん、より正確に言えばパソコンとは似て非なるもの、ということになるし、これとは全く違う仕組みで作り上げられている術具というのもある。

 神具とか言われるようなものはそういうものが多い。

 ただ、基本的にはそういう感じ、ということを理解しておけばい、今は足りるだろう。

 

「ええと……」


「これは実際に見てみた方が早いかもね。ほら、こういう感じだよ。まずこれが、記憶用の気術陣」


 そう言って夢野先生は、ホワイトボードに先ほどとは異なる気術陣を描く。

 そしてそれに真気を注ぐと、空中に球体のようなものが出現する。


「ここに、機能として組み込みたい気術陣を描いていく……まぁ、これはあんまり上等な陣じゃないから、一つ二つ描くのが限界だけどね。今回の場合は、燈火の陣を描くけど、重要なのは、どういう風にすればこれがどういう風に発動するのかについても描かなきゃならないんだ。そうしないと発動しないから……そのためには色々な陣を覚えておく必要があって、そこはこれから教えていくけどね。まぁ今はとりあえず、真気を注ぐと、このホワイトボードの前方二十センチのところに発動する、という条件を描いておくよ」


 そう言ってさらさらと気術陣を描いていき、そして記憶用の陣の方に注いだ真気を切ると、球体もまた消えた。

 そして、今度はホワイトボード自体に真気を注ぐと、先ほど言った通りの条件通りに、燈火の術が発動する。

 これを見た龍輝が、


「おおー、すげぇ!」


 と感動する。

 咲耶は、ぶつぶつと、


「なるほど、ああやって条件付けが出来るということは。かなり応用の幅の広い技術なのですね。しかし、それにしても夢野先生の人形にはどれほどの工夫が……? いずれ作れるようになるのでしょうか」


 などと言っている。

 考察がもう子供のそれではないんだが……。

 まぁいいか。

 あぁ、そうそう、多分言い忘れてるか、あとで言おうと思ってるんだろうが、一応俺は尋ねておく。


「……ホワイトボードを術具にしてるみたいな感じだと思いますけど、そのホワイトボードって普通の、どこにでもある品ですよね? 特別な素材でなくても術具に出来ると言うことですか?」


「おっと、そうだったね。このホワイトボードは確かに普通のもの、なんだけど、描いてるこのマジックの方に僅かだけど霊物が使われてるんだ。だから発動するんだよ。ただそれでも、あんまりこのホワイトボードに描いて発動させてると、ホワイトボードの方が崩壊するね。もう二、三回、使うとまずそうだから、ここにはもう描けないかな……本当は、ちゃんとある程度の強度のホワイトボード発注してるんだけど、急に頼んだからまだ来てないんだよね……」


 最後には愚痴になっていた。

 まぁ、そもそも今日の術具作りの授業自体、幼稚園では習わないようなことで、そのための道具を頼んでも中々すぐには来ないのだろう。

 そういう品についての調達は、一門傘下の商店とか、もしくは独立系の霊物屋とか道具屋に頼むわけだが、在庫があればいいが、ない場合は何ヶ月も調達にかかったりする。

 ホワイトボードに関しては在庫切れ状態だったのだろう。

 あまり発注が来そうな品にも思えないしな……気術士から。

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