第21話 家系の謎
「……拒否など。そうしていただければありがたく存じますが……」
父上がそう言う。
これに美智は、よくよく確認するように尋ねる。
「本当に? 後見役は、やはり家族が務めたいと、そう考える者が多いと思うのだけど……?」
「確かに、そういう思いもあります。ですが、私たちと武尊の絆は、すでに血の繋がりという者がありますゆえ……。それに不思議なことなのですが、美智さまに、武尊は大分なついている様子ですし……」
父上はそんなことを言った。
なるほど、俺はそんな風に見えているのか、と意外に思う。
確かに美智に対しては俺は気安いものを感じているが、それは懐いているというより、前世の肉親の情ゆえだ。
しかしそんなことを知らなければ、まさにそのように見えるのだろうというのは納得だった。
美智は父上の言葉が少し意外だったようで、目を見開いて少し微笑む。
俺の方にも目配せしているのは、お兄様、こう言われてますよ、とでも言いたげだったが。
それから、美智は言う。
「確かに、肉親の情というのは何よりも強いもの。《気置きの儀》の後見役とは比べものになりませんものね」
「そこまでは申しませんが……特に惜しいとは思いません。それに、実際問題として、武尊の力は強い。私が果たして、後見役として務めきれるのかどうか、分からぬのです……」
「そうですか? 圭吾殿は、かなりの力をお持ちのように思いますが……なぜ今まで、下位の立場にあったのか、不思議なほどに」
美智の言葉に俺も思った。
父上の気術士としての能力は、実際かなり高いように思う。
真気の大きさだけからも、それが見て取れるのだ。
まぁ実際に戦ってどの程度かは見たことがないので断言しかねるが、少なくとも真気の扱いは流れる真気のなめらかさからも察せられる。
美智も同じようなことを思っているのだろう。
いや、彼女は父の戦いも見たことがあってのこともあるのかな?
これに父上は答える。
「我が家は古くから本家からは遠くあり……あまり顧みられることがなかったものですから」
「それは……どういう?」
「調べていただければ分かりますが、高森家は罪人の家系なので。おそらくその時から変わらぬ扱いなのだと……」
これは知らなかったな。
といっても……いつの話だ?
五十年前でもそんな話を聞いていれば覚えているだろうが……。
「罪人ですか? 聞いた覚えがないのですが……」
「それもそのはず。数百年前のことらしいので、私も詳しくは知らないのです。ただ本家の資料などには残っているのではないかと」
「あぁ、なるほど。そういうことなら、理解できます。しかし、それなら今はもうあまり気にする必要がない事ね。これからは働き通りの評価をするように伝えておきますので、安心してね」
「……! ありがとうございます!」
「さて、話はずれたけれど、後見役は、そういうことでお願いね」
「はい」
「後は……そうそう、いきなり《気置きの儀》を行うと、正直、何が起こるか分からないのよ。だから、予行演習をさせてもらえないかしら? そのために来て貰ったのもあるの」
「予行演習……ですか?」
「ええ。術具に力を注ぐ練習ね」
「しかし《気置きの儀》は、初めてそこで真気を術具に注ぐ建前の儀式ですが……」
「貴方もいま言ったけれど、建前、でしょう? 大体の家は、その前に練習しているものだからね。武尊ちゃんについてはさせてなかったようだけれど」
「武尊については……させようかと検討しましたが、やはり力が大きいですから。悩んでいるうちに、今日を迎えてしまいまして……」
「なるほど、だとしたらこうして呼びつけたのは良かったわね。危なかったかもしれないわ」
「やはり、そうですか……」
「まぁ、気にしすぎかもしれないけど……修練場に参りましょう。私たち以外には入らないように言ってあるから。あそこなら、結界も張ってあるし、何かあっても問題ないはずよ」
「承知しました」
*****
そして、俺たちは再度、車に乗って修練場まで向かう。
今度は北御門家の車だな。
かなりの高級車で、おそらくは特注品だろう。
車の内部のそこかしこに術具の気配がする。
こんなものは、車メーカーと気術士が協力して設計しなければ作れない。
重火器の類はまず、一切通用しないだろう。
妖魔の攻撃もある程度までは耐えるはずだ。
俺が北御門にいたときは流石にこんなものなかったな……。
「……到着いたしました」
運転手がそう言って車を止める。
そこには大きな建物があり、これが修練場なのは明らかだった。
というか、俺は知ってるからな。
かつてもこれはここにあった。
古いが、丈夫というか、それこそ術具でもってかなり強化されているため、よほどのことがないかぎりは壊れない。
構造的にはロの字型になっており、中の空間の部分は、中庭のようになっている。
その部分で修練を行うのだな。
衝撃は上に流されるようになっているから、建物部分はさらに安心というわけだ。
そして、
「さぁ、参りましょう」
美智がそう言ったので俺たちもその背中についていく。
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