七
寒い。
三畳へ着物を脱いで、段々を、四つ
すぽりと
秋の霧はひややかに、たなびく
余は湯槽のふちに
湯のなかに浮いたまま、今度は土左衛門の賛を作ってみる。
雨が降ったら濡れるだろ。
霜が下りたら冷たかろ。
土のしたでは暗かろう。
浮かば波の上、
沈まば波の底、
春の水なら苦はなかろ。
と口のうちで小声に
小供の時分、門前に
お倉さんはもう赤い
三本の松はいまだに好い恰好で残っているかしらん。鉄燈籠はもう
三味の音が思わぬパノラマを余の眼前に展開するにつけ、余は
誰か来たなと、身を浮かしたまま、視線だけを入口に注ぐ。湯槽の縁のもっとも入口から、隔たりたるに頭を乗せているから、槽に下る段々は、間二丈を隔てて斜めに余が目に入る。しかし見上げたる余の
やがて階段の上に何物かあらわれた。広い風呂場を照すものは、ただ一つの小さき
黒いものが一歩を下へ移した。踏む石は
注意をしたものか、せぬものかと、浮きながら考えるあいだに、女の影は遺憾なく、余が前に、早くもあらわれた。
古代ギリシアの彫刻はいざ知らず、
放心と無邪気とは余裕を示す。余裕は画において、詩において、もしくは文章において、
今余が面前に
室を
しかもこの姿は普通の裸体のごとく露骨に、余が目の前に突きつけられてはおらぬ。すべてのものを幽玄に化する一種の
輪郭はしだいに白く浮きあがる。いま一歩を踏み出せば、せっかくの嫦娥が、あわれ、俗界に堕落するよと思う
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