第11話 これはもう、神の悪戯かもしれない…

 東浩乃あずま/ひろのはテーマパーク内にいた。


 今、手にしているビンゴカードは、リーチ状態。


 あと一か所だけ、数字を埋めることができれば条件を満たせるのだ。


「南海先輩は見つかりそうですか? 最後の数字」

「まだよ。でも、何とか目星はついているわ。多分、あの場所に行けば、何とかね」


 部長は自信ありげな態度で言う。


 確信に基づいた立ち振る舞いを見せていた。


「東君の最後の数字は何?」

「五十七です」

「私とは違うのね。でも、東君の場合、あっちの奥の方のアトラクション近くにあると思うわ」

「そうなんですか?」

「ええ。これを見て」


 近くへと歩み寄ってくる南海果那みなみ/かな先輩は、パンフレットを広げて見せてくれた。


 テーマパークの地図。

 そこに小さく数字が書かれている。

 普通であれば見逃してしまうほどの大きさだった。


 テーマパーク内には、他種多少なアトラクションやお店が存在しているのだ。

 建物番号が小さく記載されてしまうのは、しょうがないことだろう。


 でも、小さく記されているのは、そういう理由なのだろうか?

 少し疑問を抱いてしまう。


「多分、わかりづらいと思うから、私も一緒に現地まで行ってあげるわ」

「いいんですか?」

「別に問題ないわ。私の方は簡単だから」


 部長はクールな佇まいで言い、大人びた対応を見せていた。


 何から何まで部長の世話になってばかりだ。


 今のイベントで、部長にやってあげられたこと。それは、テーマパーク内にある自販機で飲み物を購入してあげたことくらいである。


 できれば実績になるようなことをしたい。

 そう思うものの、優秀な部長の先手先を行くのは難しいもの。


「こっちに来て」

「はい」


 浩乃は、部長の指示に従うまま、あとを追うことになった。






「ここよ」


 部長から連れてこられた場所。

 そこは少々光の割合が少ない。


 まだ昼にもなっていないのに、夕方のように薄暗いエリア。

 何かが出てきてもおかしくない雰囲気が、そこら中に漂っていたのだ。


「どういう場所なんですかね?」

「えっとね、ここは、ゴーストエリアよ」

「ゴースト?」

「お化け屋敷とか、刺激的な経験をできる場所らしいの」

「そうなんですね」


 お化けとかのポスターも、チラホラと近くの建物にも張り付けられていた。


 なんで、最後の番号が、こういう場所にあるのかな。


 気乗りはしなかったが、浩乃は自主的に行動してみることにした。




「私、もう行くね。あとは一人でも大丈夫でしょ?」

「はい、ありがとうございました」

「ビンゴになったら、私の方からも連絡するから」

「わかりました」

「では、そういうことで」


 部長は先早にそこから立ち去っていく。


 浩乃は一人になった。


 一人であってもやるしかない。


 そう思い、一歩ずつ、ゴーストエリアを見渡しながら進んでいく。


 本当に何かが出てきそうなんだよな……。


 浩乃はある程度、お化けとかの態勢はあるが、長時間いたいとは思えなかった。


 トボトボと歩いていると――

 刹那、バイブ音が鳴り響いた。


 浩乃はドキッとし、体をビクつかせたのだ。


 冷静になって思う。

 そのバイブ音の正体は、スマホから聞こえているのだと。


 私服のポケットから取り出したスマホ。

 その画面上を確認すると、後輩の朱莉あかりからのメールだということに気づいた。


 薄暗い場所にいるからこそ、余計に些細な音でも驚いてしまうものだ。


「……二人の方は意外と苦戦してるのか」


 浩乃は簡単なメールの返事を、朱莉に返す。


「それより、先を急がないと」


 スマホをポケットにしまい、浩乃は先を急ぐように歩いていると、曲がり角でバッタリと、あいつと出会う。




「って、あんたなの?」

「奈月……?」


 正面にいる幼馴染の姿を見、やはり、彼女もこのゲームに参加していたのだとわかり、表情には出さずとも、げんなりしていた。


「そうよ。何か悪い?」

「そうじゃないけど。でも、どうして、ここにいるんだよ」

「別にいいじゃない。私から自主的に来たわけじゃないし、連れられてきたの」

「そうなのか。誰にだよ」

「たまたま、家に来ていた親戚の子。私よりも結構年下っていうか、中学生ぐらいの子だけどね」

「へえ、親戚ねえ……」


 というか、なんで、奈月と一緒に会話してんだよ、俺……。


 奈月と関わるよりも、先にやることがあるだろ。

 と、内心思い、彼女の横を素通りして行こうとする。




「……なんでついてくるんだよ」

「それは私の意見だし」


 隣を歩いている西野奈月にしの/なつきは、ムスッとした顔を見せていた。


「俺はこっちに用事があるんだよ」

「私だって」

「奈月の最後の番号は?」

「五十七よ」

「……俺と同じか」

「あんたと同じ? なんか……嫌なんだけど」

「それは俺もさ」


 浩乃はボソッと言った。


 どうして、こんな時になっても、奈月と一緒にならないといけないんだよ。


 神からの悪戯かと思うほどの現状に、溜息を吐いてしまう。






「結構、暗いんじゃない?」

「そうだな」


 二人がいる場所。

 そこは薄暗いゴーストエリアの中心地らへんであり、何が起きるのかわからないとされる、最も危ういところ。


 何が起こるか、しっかりと明記されていないのも怖かった。


 そういったことをコンセプトにしているからなのか、パンフレットにも大大的に表記しないのかもしれない。




 気分が落ち込んでくるほどに、薄暗い環境下。


 何か出てくるのか、どういうことに巻き込まれるのか。歩いている最中、浩乃は辺りを見渡し、そんなことばかりを思考してしまう。


 そんな中、なぜか、彼女が近づいてきた。


「なに?」

「別になんでもないし」

「そうかよ」


 浩乃は不満そうに返答した。


「じゃあ、離れればいいだろ」

「わかってるし。というか、あんたは怖くないの?」

「怖い? なんで?」

「あんた、怖いのが苦手そうな気がしたから」

「そういうことを言うってことは、奈月の方が怖がってるんじゃない?」

「別に、違うし、うっさいし」


 奈月は頑なに反発した口調になる。


 素直になればいいのにと思う。


 そんなことを思いながら先を進んでいく。






「ここの建物とかは? 何かありそう……」


 奈月は震え声なのに、その怪しげな建物へと近づいていく。


「ちょっと、勝手に行動するなって」

「別にいいじゃない……私、あんたとずっと一緒にいたくないし」


 つれない発言をする彼女は迷うことなく、お化けのポスターが張られた建物へと入って行こうとする。


 でも、ここに最後の番号があることは確かだ。


 何もしないというのは、何も始まらないということの裏返しである。


 浩乃は彼女の後を追うように、建物に入った。


 室内は少しだけランプのようなもので照らされており、完璧に真っ暗というわけではなかったのだ。


「もしかして、あれって」


 奈月は少々嬉し気に甲高い声を出し、室内に設置されたテーブルへと近づいて行った。


「何かあったのか?」


 浩乃が建物の扉を閉めた後。


 ガチャ――


 嫌な音がその場に響いた。


「え……」

「どうしたの?」


 ただ、扉を閉めただけ。

 本当にそれだけだった。


「……もしかしたら、鍵がかかってしまったかも……」

「どういうこと……?」


 衝撃的な展開に、二人の真相の鼓動は高まっていく。


 ここからが真のゲームかもしれない。

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