第10話 爆乳な南海先輩は、色々と優れている

 東浩乃あずま/ひろのはイベントに参加していた。


 今、部長と一緒なのである。


 私服の上からでもわかるほどに爆乳な南海果那みなみ/かな先輩と二人っきりとか、最高でしかなかった。


 しかし、付き合っている彼女がいるのに、そんなことを表立って言えるわけもなく。浩乃は平然を装い、テーマパーク内を二人で歩いていた。


「東君は何かわかった?」

「いいえ、まだですね」


 浩乃は手にしていたビンゴカードを見る。

 ビンゴカードには、特にヒントとなるものは記されていない。


 ただ、一から一〇〇までの内、二五種類の数字があるだけ。


 縦と横。

 合わせて、二五種類の数字があり、縦か、横。そして、斜めのいずれかを一直線上に揃える必要性があった。


 今のところ、どこも開いていない。


 普通であれば、真ん中のところは必然的に空いているはず。だが、ここのテーマパークで配布されたビンゴカードには、そういう概念がないのだ。


 真ん中の数字も見つけないといけないらしい。


 相当、鬼設定のゲームイベントである。


 ビンゴカードで必要な数字は、テーマパーク内のどこかに隠れているようだ。


 それを推理して、数字のある場所を見つける。


 先ほど受付のゲーム案内人から聞いたことだが、その場所に数字カードがあるらしい。

 それを最低でも、五枚集めるのだ。


 縦、横、斜め、いずれかが揃えばいい。

 その上で、ペアの人も同時にビンゴさせること。


 浩乃と南海先輩のビンゴカードの数字は違う。


 これは本当に大変だ。

 持ち時間は一時間半と決まっている。


 ゲーム開始の合図があってからすでに五分ほど経過していた。


 早いところ見つけないと。


 でも、急ごうとすればするほどに、精神力がすり減っていくようだった。


「これ、大変ですね」

「……」

「どうしたんですか、南海先輩?」

「ちょっと考える時間が欲しいの」


 部長は真面目な顔を見せ、唸っていた。


 南海先輩は、今まで見せたことのない顔つき。


 ここは自分も頑張らないといけないと思う。


 普段から部長に助けてもらっているのだ。


 今日くらいは、一つか、二つほどは数字カードを見つけたいと志すのだった。






「では、このお店に入りましょうか」


 テーマパークを歩いていた二人。


 そんな中、唸り声を出し、考え込んでいた南海先輩が、ようやく浩乃に話しかけてきた。

 が、目的となる場所は、テーマパーク内にある休憩所的な場所であったのだ。


「え、でも、時間がないんじゃ。そういうのは休憩の時間に利用した方がいいのでは?」

「これでいいの。私には考えがあるというか。今、閃いたの」


 南海先輩の瞳は真面目である。

 冗談とかで話しているセリフでもない。


 いつも部長といる浩乃は、その直感に従うことにした。


 部長と共に、その休憩所敵なお店に入店する。






 店内は綺麗である。


 内装もしっかりとしていて、過ごしやすい空間になっていた。


 現在はイベント開催中なためか、そこまで人が多くはない。


「南海先輩、ここに何があるんですか?」

「そう思うでしょ? でも、これが解決策に繋がると思うの」

「どういうことですか?」

「ちょっと待ってて」


 部長は辺りを見渡していた。


 何かを確認しているようだ。


「ねえ、あそこを見て」


 浩乃は、部長に言われた通り、店内の壁を見やる。


 その壁には数字のような模様があった。


「あれって、数字ですね……もしかして、ビンゴカードと関係が?」

「ええ」


 部長は自信ありげに頷いた。


 どういうことなんだ?


 単なる模様とかではないのか?


 そんなことを思い、再び、部長の立ち振る舞いを見守ることにした。


「このビンゴゲームは数字が重要なの。私、ここのテーマパークに何度か、来たことがあるんだけど。そういえばって思って、ここのテーマパークって、アトラクションとかお店とかに数字があるの」

「数字?」

「そうよ、これを見て」


 部長が見せてきたのは、ここのパンフレット。


 浩乃はそれを見やるのだ。


「ここに数字があるでしょ」

「……確かに」


 今頃になって気づいた。


 パンフレットに記されているアトラクションの所在地ごとに、数字が記されている。それは、アトラクションに限ったことではない。


 お店などにも数字が用意されていたのだ。


「ここのお店の壁に記されている数字と、パンフレットに記載されている、この店の番号って同じじゃない?」

「そうですね。ただの模様とかではなく、意図的に?」

「そうだと思うわ」


 パンフレットに記されている建物すべてを合わせれば、一〇〇種類ある。


 そう考えれば、辻褄が合う。


 まさか、そういったところと繋がりがあったとは驚きである。


 やはり、南海先輩の観察力は凄いものだ。


「でも、数字がわかったとして、どうやって数字のカードを入手すればいいんですかね?」

「それは、建物ごとによって違うはずよ」

「違うとは?」

「それはね。例えば、アトラクションであれば、それに乗ったら数字カードを貰えるとか。多分そういうことだと思うわ。こういうお店の場合は、注文内容とかによって違はずよ」


 部長は淡々と事を進ませていた。


「東君、ここを見て」


 部長はテーブルに広げたメニュー表の、とあるところを指さす。


 注文番号、一二。


 ここのお店と同じ番号。


「多分、このパークコーヒーを注文すれば、一二番のカードを貰えるはずよ」

「そういうことなんですね」

「そうよ、まだ確信に至ったわけじゃないけど。ちょっと待ってね。今から注文するから」


 そう言うと、南海先輩は振り返って、店内にいるスタッフに呼び掛けていた。






「ほら、私の言う通りでしょ」

「すごいですね」

「これくらい簡単よ。常に、色々な事と繋がりを見ていればなんとなくわかるわ」


 部長は単なる推理小説マニアというわけではない。

 学校内での問題も簡単に解決してしまうし、南海先輩の実力は確かなものだと思う。


「一応、東君のコーヒーも注文しておいたから。これを飲んだら、また別の数字を探しに行きましょ」

「はい」


 浩乃は、尊敬の視線を向け、返答した。


 先輩と一緒のペアになってよかったと思う。


 そんな心境のまま、部長から奢ってもらったコーヒーを口にする。


 ちょっとばかし苦く感じたものの、浩乃は極力、それを表情に出さないようにした。


 部長の前では、あまり醜態を見せたくなかったからだ。






「あれ……?」


 店屋から出た時、また、あいつの姿が視界に映る。


 それは、幼馴染の西野奈月にしの/なつきのことだ。


 彼女もこのイベントに参加しているらしい。


 イベント開始前に見かけた彼女は本当に、幼馴染であったようだ。


 誰かと来ているのだろうか?


 けど、浩乃は積極的に彼女の元には近寄ろうとしなかった。


 今は、部長との時間を大切にしたい。

 それに、ちょうど軌道に乗っているのだ。

 浩乃は、幼馴染の方ではなく、ビンゴカードの方を優先した。


 浩乃は、部長と共に別のアトラクションエリアへと向かうのである。

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