第3話 ねえ、東君、私にそんなに興味ある感じ?
昼休みは何かと大変であった。
今は昼休みが終わり、午後の授業に移り変わっていたのだ。
「これで、授業は終わり」
教室内。
壇上前に立つ女性教師は、チャイムが鳴る前に生徒よりも早くに後片付けを始めていた。
「挨拶とかはいいから」
その女性教師は勝手に話を進めると、必要なモノだけを手にして、すぐさま教室から立ち去って行ったのである。
何もかもが早かった。
でも、授業が早めに終わったと思えば、別に問題はないだろう。
「今日は暇だし、どっかに遊びに行こうぜ」
「そうだね」
「じゃあ、カラオケとかは?」
「OK、そこで」
クラスメイトらは仲間内で楽し気にやり取りをしている。
が、浩乃は一人であった。
なんせ、今日の昼休み。
現在進行形で付き合っている美少女――
周りから距離を置かれている。
陰キャ寄りの部類なのに、美少女と関われているのが気に食わないのだろう。
でも、それが普通。
陰キャみたいな奴が、美少女と付き合うに至った代償なのだと考えることにした。
「……」
「ん?」
どこからか視線を感じる。
ふと、視線の先へ顔を向けると、そこには帰り準備を終わらせた幼馴染が佇んでいた。
「……あんたはもう帰るの?」
「なんでそんなことを聞いてくるの?」
「別に、あんたの事情なんて知りたくもないけど」
奈月は強気な態度を見せてはいるが、どこか、おどおどした口ぶりだった。
「どうせ、あの子と帰るんでしょ?」
「今日の放課後は用事があって。桐野さんとは帰らないけど」
「そうなの?」
「どうして、そんなに聞いてくるんだよ」
「別に……。というか、まあ、いいし。私には関係ないから」
「え? 勝手に話をふっておいて⁉」
何を言ってんだと、浩乃は内心思う。
「というか、あいつ、付き合っている子がいるのに、奈月と会話しているし」
「俺らへの当てつけか?」
「あいつ、やっぱり、心の中では俺らのことを馬鹿にしてんだよ」
そんな声が辺りから聞こえてくる。
そんなつもりはない。
今は奈月から話しかけられたから対応していただけである。
それ以上の思いを幼馴染に抱いていることもなく、むしろ、幼馴染のことは好きじゃないのだ。
なんで、好きでもない人と関わっているのに、そんな言われ方をされないとならないのだろうか?
浩乃は言い返そうとしたが、教室全土が四面楚歌状態。
浩乃は陰キャであり、そもそものところ、他人に意見できるほど勇敢な人ではないのだ。
周りからの視線に圧倒されるように大人しくなった。
「私帰るから」
「……帰ればいいよ……」
「ふん……」
奈月とは、そんなに関係が良好じゃない。
なのに、運命の悪戯により、学校も同じで、教室の同じ。住んでいる地域も同じ。その上、家も近所なのだ。
どこに行っても、幼馴染とは顔合わせしてしまう現状に頭を抱えたくなってくる。
気づけば、奈月は教室からいなくなっていたものの、浩乃は背後から突き刺さる男子らからの嫉妬染みた視線を感じながら、帰宅準備をさっさと済ませ、部室へと向かうことにしたのだ。
「今日はちゃんと来てくれたのね」
「はい、そういう約束だったので」
学校の敷地内。
本校舎の隣にある部室棟――部室に浩乃はいる。
部長である
黒髪のロングヘアスタイルの年上の先輩。
落ち着いた立ち振る舞いでかつ、部長らしく的確なアドバイスをしてくれる優秀な人なのである。
浩乃の存在に気づいてからは、パソコンの作業を一旦止め、体の正面を浩乃の方へと向けていたのだ。
「ではひとまず、今日の段取りから始めましょうか」
部長が話しかけてくる。
それにしてもデカい。
それは、部長のおっぱいであり、女子高生とは思えないほどの大きなのである。
実際のところ、どれほどのものかは未知数であった。
浩乃は部長の近くまで行き、向き合うように席に座る。
付き合っている女の子がいるのに、こうして、女の部長と二人っきりで過ごすのは、色々と疚しさが加速するようだった。
「今日は少しだけ依頼が入っていてね」
「はい」
浩乃は頷く。
浩乃が在籍している部活は、捜査部というものだった。
いわゆる、落とし物を見つけたり、他人のためになることをするという活動である。
実際のところ、そんなに大きな活動とかはない。
そもそも、普段から落とし物をしたり、大げさに困っている人なんていないからだ。
ほぼ先輩と一緒に会話したり、通販サイトで購入した推理小説について会話しているだけ。
部長は推理小説が好きらしく、その都合上、捜査部といった大げさな名前の部活を設立したらしい。
浩乃は昔、学校内で落とし物をした時、果那先輩から探してもらったことがある。
そういった過去があり、その恩を返すために所属しているのだ。
決して疚しい感情などはない……。
と、思いつつ部長のおっぱいばかりを見てしまう。
制服に隠れたおっぱいが気になってしょうがないのだ。
むしろ、おっぱいについて調査したいと思ってしまう。
「――ということなの」
「……」
「ねえ、東君?」
「……え、あ、はい、な、なんでしょうか?」
「なんでしょうかって、さっきの話、聞いてた?」
「え、はい……」
「じゃあ、何を言っていたか、言ってみてくれない?」
「そ、それは……」
「というか、私の胸ばかり見てなかった?」
「そ、それはないです……」
「本当?」
「はい……」
浩乃は押し黙るように、何とか現状を乗り越えるかのような姿勢で必死に言う。
「でも、そんなに気になる感じ?」
「……」
「東君って、付き合ってる子、いるんでしょ?」
浩乃は頷いた。
「でも、見てたんでしょ?」
「……はい」
こればかりは素直に頷くことしかできなかった。
「じゃあ……私に興味があるってこと?」
部長からそんなことを言われ、浩乃はどうしたものかと思う。
視界にいる部長の表情は本気そのもの。このまま告白してくるんじゃないかといった状況。
その考えは的中する。
「そんなに興味があるなら、私と付き合ってくれない?」
――と、果那先輩はとんでもない口にするのだった。
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