第165話 お宝さがし




「キサマが只人のガキかっ。覚悟は出来ているナ?」




……あー、いや……これが、例のオジキなんだろう。


「そうだが……。なぁ、先に一つ聞きたい。見ての通り、俺はイリモを倒してきた。態々、力比べをしなくてもよくないか?」


アシュバルですら断念した相手なんだぞ?

それを倒してきたんだから、俺と直接戦わなくたって力の差は判りそうなもんだがなぁ。


「関係無い!ジョイモンスギはワシがブッ倒そうと思ってたんジャい!それを……お前の様な小童が倒せる訳があるカ!」


「……オヤジもアシュバルも、俺を疑ってないだろ?あんた……俺の事はともかく、オジキは二人の言葉を信じられないのか?」


「ゴタゴタと!只人族は相変わらず小賢しい!いくゾっ!!!」


──ブフォワッ!!!


はぁ、やれやれ……始まっちまったか。

アシュバルもオヤジも気にしてないんだし、ジョイモンスギを倒してしまったのは問題無い筈ではあるが……。


まぁでも、あれだけ立派な御神木だもんな。

ずっと、長い間、この里のシンボルでもあったんだろうし。

思い入れがある鬼人だって、そりゃ居る筈だ。


ここは甘んじて受け入れるとしよう。


そうと決まれば、だ。

ジョイモンスギをブッ倒した張本人である俺が、しっかりと気持ちを受け止めてやらなきゃいけないよな。


(舞、小細工は無しだ)


『了解しました』




──グゴガッ!グドンッ!ドゴガッ!ガガスッ!……ッ!!!




もう、何発殴り合った?


『い■の■■■■で、ご■■うさ■■■■で■』


はははっ、ヤバい……かも、な……。

……舞は何て…………、聞き取れなくなってきた。


「ヤ、ヤるれねぇカ!だ、だガまら……!ふんっヌ!!!!」


「いい加減、倒れろっ!ウラァ!!!!」


──ブゴッッッッッッ!!!!!!!


『■■り、け■■ゃ■■■■■■■。か■■■まほ■■■■ど■■ます』


……んん…………おお、回復魔法は覿面てきめんだな。

一気に頭がスッキリしてきた。


「──カハッ」


──ドチャリッ。


ふぃ~~~。

やっと倒れてくれたか。

何回殴り合ったんだか記憶が曖昧だが……。

アシュバルの言った通りだったな。

オヤジなんてもんじゃなく、とんでもなくタフな相手だった。


俺がオヤジを殺しかけた時の様に、技の一つでも使えばさっさと決着は付いたんだろうけど……何となく、な。

原因となったビアンとの事は色んな事情が重なった結果だとは言え、お互い納得の上……かは微妙だが、たった二人の個人間での出来事が原因だったからな。


でも、今回はそうじゃ無い。


鬼人族の里、そのシンボルの御神木が原因だからな。

俺なりの誠意ってヤツだ。

それと、自責による戒めの為。


「はぁ~、しんどっ。……これで、納得して貰えるんだよな?」


「はは、安心しろ。オジキも目を覚ませば、もう文句は言わない筈だ。それにしてもフジミヤ。お前、賢しいのかと思いきや、案外、妙な拘りも有るんだな?別に、馬鹿正直に真正面から付き合わなくたって良かったんだぞ?」


「まぁ、ほんの気紛れみたいなもんさ。それより、コレ、皆で食うのはパコリマスにしたいんだが……どうしたら良い?」


30mもある巨体だからな。

解体もしなくちゃならないし。


「ああ、それなら任せとけ。パコリマスまでには解体を済ませておくように手配しておいてやるよ。皆、コイツを食えるとなりゃ喜んでやってくれるだろうさ」


それなら良かった。

この里じゃイリモは有名なんだろうし、興味津々なんだろうな。

今でも遠目に、チラチラと注目を集めているし……ってか、家よりデカいものを運んできたらイリモでなくともそうもなるか。


さて、オジキの面倒は鬼人族の方で見てくれそうだし、俺はひとっ風呂浴びに行ってきますかねぇ。


「ありがとう、アシュバル。そうして貰えると助かる。んじゃ、俺は温泉に入らせて貰うとするよ」


「ギハハッ、温泉カ!なら俺も──


──スブッ!


「フジミヤお前……そんなに嫌なのか?」


──ドダァァァアアアン!


「……オヤジは駄目だ。このオッサン、どう見てもスケベそうだし、滅茶苦茶オンナ好きだろ?あんたと違い過ぎるっての」


「まぁ、な……。鬼人族の男は二極化しがちなんだ。すまんな」


……二極化?


「はぁ……。だがまぁ、あんたが謝る事じゃ無いさ」


「それはそうなんだが。……来週、気を付けろよ?」


気を付けろ?


「……パコリマスをか。おい、俺にならともかく、イグニスの安全は大丈夫なんだろうな?」


どうにも嫌な予感がする。

オヤジの好色ぷりと、それと真逆なアシュバルのオンナに対する興味の無さ……そして、パコリマスを気を付けろとか言う理由。


「大丈夫だと言ってやりたいところだが……まぁ、何とかなるだろうさ。お前が頑張ればな」


……益々、嫌な予感しかしないんだが?


「ったく……。とんでもないイベントだな」


「はは、察したのか?やはりお前は……ああいや、今話す事でも無いな。ほら、此処は俺に任せて行ってこいよ」


ん……?

何か含みの有る言い方をしてくれるねぇ。

だがまぁ。


「頼んだ。それじゃ、よろしくな」


今日は疲れたし、ゆっくり休ませて貰うとしよう。




そして翌日。




「ゲハハハハ──ッ!フジミヤ!こんな愉快な事は無い!」


オジキの変わりっぷりよ。

……オヤジもそうだったが、それ以上だな。


今日も、イグニスの大冒険の続きの筈だったんだが……ってか、実際そうなんだが、今日はオジキと、アシュバルとビアンも俺達に同行している。

昨日と変わらず、鬼娘達5人も一緒だ。


で。


朝、オヤジの家を出る前、イグニスが行き先を考え始めた時。

オジキが現れてこう言ったんだ。

『宝探しに行くぞ』ってな。


そしたらもう、イグニス大興奮。


ほんっと、ピュアって言うか何と言うか……可愛いもんだ。

だがイグニスに限った話じゃ無いよな。

『宝探し』このワードを嫌いな子供なんていないだろう。


それで、結局今日もジョイモンスギの下へ……いや、元ジョイモンスギが立っていた場所へとやってきた。


昨日チラッとだけアシュバルとは話したが、メルデシナのヤツらが探そうとしてた魔法具ってヤツを、皆で探してみようって事なんだろう。


現代の技術では作れない魔道具。


俺の中ではアーティファクトと呼んでる代物だ。

それがどんな物なのか見当も付かないが……魔法具って呼ぶくらいだから『宝探し』ってのもあながち間違いじゃ無いよな。

オジキやアシュバルとしては、事情を知らない皆を動かす為の方便みたいなものなんだろうけど。


何にせよ、イグニスの興奮は暫く収まりそうにも無い。

ついでにオジキもやたらと上機嫌。

縦真っ二つに割れて左右に倒れるとか、どうやったらそうなるんだとか色々聞かれて大変だったぜ。

鋼体術を──とか軽く教えてやったら、今度教えろとか言い出すし……どうしたもんだか。


あ、そうか。


修行中に使えば、アシュバルなら簡単に習得するだろう。

それをオジキに教えてやれって言えばいいな。


まぁ、それはともかくだ。


「良し、手分けして探してみようか。セインスはイグニスが変な事を仕出かさないように見てやっててくれ」


「分りました。でも、庵も危ない事はしないで下さいよ?」

「変な事なんてしないよ!」


はは、逆に心配されてしまったか。

まぁ調子に乗ってジョイモンスギをブッ倒したのは俺だしな。

釘を刺されるのはしゃあないだろう。


でもこれで、俺は一人で動く事が出来る。


そう。

俺だって、何気にちょっと楽しみにしてたからな。

御伽噺に出てくるアーティファクトが見付かるかもしれないし。

態々メルデシナから間諜がやって来るくらいだ。

本当に見付かる可能性だって十分に有るだろう。


どうやらイグニスは、縦真っ二つになったジョイモンスギのテッペンの方を見に行ってみるらしい。

昨日シイコから聞いた言い伝えによれば、天から天女の祝福だか何かが降り注ぐってな感じだったからだろうな。

これだけ馬鹿デカい……ってか、樹高凡そ178mともなると、イグニスからしてみたら、天にも等しい程の高さなんだと思う。


……そう言や、子供の頃に思った事がある。

どこからが『空』なんだろうか、と。


イグニスを含め、世の多くの人々は、身近にある一番背の高い何かを漠然に基準としているんじゃないだろうか。

あくまで感覚的な話であって、言葉にして『空とは何か』と問われたら違う答えを述べたりはするかもしれない。

でも実際、幼少期の俺にとっては、家の屋根よりも高いところが空だった。


実際だと……浪漫の無い事を言ってしまえば、1mmだろうがほんの僅かでも地面や海面よりも上なら空って事になる。


面白いよな。

誰もが言葉としては知っていて常識とも言える『空』というものを、言語化して説明するとなると出来る者は少ないだろうし。

自分の足元の周囲空間、そんな低い位置を『空』と認識している者もそうそういないだろうし。


そう考えると、案外低い位置……幹のそう高くは無い所に埋め込まれてるって可能性もあるんじゃないか?


オジキやアシュバルビアン達は根っこの辺りを調べている。


ふふふ、楽しくなってきたぞ?

イグニスには悪いが、俺が一番乗りで見付けてやろう。


「──ハーモニッシュキリング!」


──ヒィィィィィイイイイッッッ……ズバン!!!!!


ふははははっ!切れ味抜群だぜ。

今回のこそ、本来の使い方だろう。

超振動剣として振るい、ジョイモンスギをぶった斬る。

これを繰り返して輪切りにしていけば、そのうち見付かる気がするんだよな。


さぁて、地道に50cm間隔くらいでやったりますか。




──ズバンッ………………コロン。




おっ!?

……ビンゴか?


どれどれ……ん~……何だ?コレ。


『データベースに似た物が在ります。AR表示します』──ヴン。


(ほう?……確かに似てるな。ええと……スマートキー?なるほど、IDが普及する前にはこんな物を鍵として使ってたのか)


鍵は32世紀にだって存在する。

だが電子制御で何らかの機械や機構を動かすのならIDで事足りるから、こんな潰れたドングリみたいな物は存在しない。

だが逆に、形状的にはもっと古臭い金属製のシンプルなものなら存在するが。

あと、ゲームにも鍵は頻繁に登場するから、そういう形なら直ぐに鍵だと判ったんだけどな。


スマホもだが……昔の地球人は、こんなものがスマートな洗練された物だと思っていたのか?

携帯するには邪魔になるし全然スマートじゃ無いと思うが……。

まぁ、そこらへんは時代と技術力の違いってヤツか。


ともかく。


「お~い!アシュバル!ちょっと来てくれ!」


これがアーティファクトだとして……現代では作れない魔道具、つまりこれって、過去、この異世界へと訪れた転移者が作って遺した物なんじゃないのか?


恐らくはそうなんだろうな。

だから、こんなにも地球の物と形状が似てるんだろう。

鍵として時代遅れなのも、俺より前の転移者が作ったんなら時代遅れで当然な訳で。


そう思って改めて見てみると……凄い違和感漂う代物だな。

俺が作ったスマホなんかもそうだが、この異世界の雰囲気にまるでマッチしてないって言うか、異物感が凄いって言うか。


あ~そう、ファンタジーってよりSF的ガジェット感が強い。


「どうした?見付かったのか?」


「ああ、ちょっとコレを見てくれ」


俺はスマートキーらしきものをアシュバルへと手渡した。


「何だ……?こんな物が魔法具なのか?確かに、何やら異質な感じはするが……魔力的なものは一切感じないな」


ほう?


「アシュバルですら感じないなら、逆にビンゴかもな?」


アシュバルはスマートキーらしきものを軽く弄っただけで、もう満足したのか、直ぐに俺へと返してきた。


魔道具、ってか魔法陣は、魔石から作った顔料を使っている関係上、微弱な魔力を放っている筈なんだ。

俺を含め普通の人類種では感じ取れない程の、だが。


でも恐らくは鬼神であるアシュバルなら話は別だ。

魔覚を有する者でも魔力を感じないなら、コイツは魔道具じゃ無いって事になるんだが……地球の科学技術を知ってる俺からすると、だからこそ魔法具なんじゃないかとも思える。


電子制御のスマートキー。


下手に魔法的なものに頼って魔道具を制作すると、魔法を使える者なら模倣したりコピーしたり、或いはハックしたりが可能かもしれないからな。


態々伝承だの御伽噺だの作ってまで隠した、秘密の魔法具。


何らかの理由で、後世には遺したかったが簡単に悪用されたくも無かったんじゃないだろうか?

そう考えると電子制御のガジェットなら、この異世界でそう簡単に解析されたりはしないだろうからな。


と、ここから更に妄想に近い予想をするなら……。


後世に、いずれ現れるであろう地球人に託した物だったり?

そこまでいくと妄想に過ぎるかもだが……可能性は有る。


「ビンゴ?」


「あ、ええと、当たりって意味だ。ともかく……そうだな、丁度良い機会なのかもしれない。コレが当たりだと思う根拠、それを説明する為に俺の身の上話をしてやるよ」


そのうちアシュバルには話そうかと思ってたしな。


と、他の皆はお宝探しを継続する中。

俺はアシュバルへと、遠い地球の事を話し始めた──。




-------------------------------------------------------------------------------------

少しでも面白いと思って頂けましたら、表紙ページ

https://kakuyomu.jp/works/16817330651728026810

から、青色の★をクリックすることで応援お願いします!

執筆活動の励みになりますので是非!!! ぺこり。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る