第162話 わかってた




──ヒュゴバッッッ!!!




さぁ、どうなるか。


初撃の時とは訳が違う。

固有振動数で揺らし続け、ダメージを蓄積させた上での攻撃。

疲労破壊がいつ起こてもおかしくない状態なんだ。


──ドパッ!!!ッッッッッン。


「グギャァァァァァアアアアアッッッ!!!!!」


これまでよりも一際大きい、イリモの慟哭。

二射目は結果を確認してからだ。


──ボブヒュッ!!!


反撃してきたか。

だが爆炎で視界が通って無いんじゃな。

俺の魔力を感知出来ていても、そんな攻撃が当たる訳も無い。


「──スタークウィンデ!」


ほら、爆炎を晴らしてやったぞ?

これで良く見える。


(おお、やったな!狙い通りだ!)


『これだけして無理ならば、それこそ毒物の類を使用するしかありませんでした。では2射目、いきます』


──ヒュゴバッッッ!!!


おう、どんどんやったれ!

この感じなら、上手くすれば哭球無しでもイケるかも……。


「グギャガッ!!!!ギシャーーーーーッ!!!!!」


ふふっ、痛いか?

まともな痛みなんて、長年感じてなかったんだろう?

敵の存在しないこの大池で、安穏と暮らしていたんだろうし。


なんて言うと、俺の方が悪者みたいだよな。


いやまぁ実際、イリモにとっちゃ悪者以外の何者でも無いが。

でも受け入れて貰うしか無い。


弱肉強食。


自然の摂理ってヤツだ。

お前の血肉は無駄にはしない。

有り難く食ってやるからな。


──ブシュワッッッ!!!!!


ん……?

いくら放っても当たらないと学習したか。

そりゃ、そのくらいの知能は有るわな。

だけどそんな拡散させてシャワー状に放ったところで……。


って、まさか!?


(舞!)


『はい。回避します』


……………………やっぱ、そうだったか。


回避したから俺自身はどうとも無いが……俺いた場所の後方、そこに在った木々から怪しげな白煙が上がっている。


恐らく、何かしらの強酸性水溶液だろう。


振り下ろすツメも放つ水球弾も、まるで当たらないから焦れたんだろうが……嫌な攻撃をしてきやがる。

だがまぁ、それならそれで近寄らなければ良いだけだ。

下準備は済ませたし、もう近寄る必要なんて無いからな。

アシッドブレス、破れたりぃ~ってか?


にしても、それはちょっとズルいぞ。

自然に生きる生物に向かって自然破壊がどうのと言ったところで虚しいだけだが……手段を選ばないで良いなら、俺だってソレ系の攻撃手段を使いたかったんだからな!


さっき舞も言ってたが、一応、振動による疲労破壊が見込めなかった場合の最終手段は考えてあった。


毒物の類を使うだとか、王水をぶっ掛けるとか。


でも、此処は鬼人族の里に程近い里山に在る大池なんだ。

重要な水源なんだろうし、そこを安易に汚す訳にもいかない。


食う為の狩猟で毒を使うのは気が引けるし、鬼人族の生活を考えたら……って、こっちは色々考えてるってのにさぁ。


自然生物の自由奔放さは有る意味で羨ましいぜ!


悩みなんか無いのだろうし、いちいち細かいルールを気にする事も無いし、誰かに咎められる事も無い。

力さえ有れば全てがまかり通るんだからな。

なんともシンプルで解り易いルールだ。


ま、羨んでも俺は人間に生まれたんだからしゃあ無いわな。

そんな事より、さっさと決着を目指すとしよう。




──ヒュゴバッッッ!ヒュゴバッッッ!ヒュゴバッッッ!!!




っふぅ~。

45発程撃ち込んで、漸く少しだけ動きが鈍ってきたか?


この様子だと、パンツァーファウスト523だけでトドメまで持っていくのは難しそうだ。


固有振動数を調べる際に、心臓付近の鱗も勿論狙いには行ってたんだが……上手くいかなかったからな。

最初にダメージを受けた場所だからなのか、本能的に心臓のある付近は攻撃されたら危ないと知っているからのか、俺がそこへと近付こうとすると全力で抵抗を示してきたからだ。


でも今はこれを続けるしかない、か。


安全圏から、僅かずつでもダメージを与えれてるんだからな。

地道に繰り返せば……チリツモだ。


──ヒュゴバッッッ!!!


ん……?


遂に、不利を悟ったのか?

こっちに背を向けて逃げて行…………って、まさか!?


「フシューーーーーーーッ!」


──ブシュワッッッ!!!!!


「間に合えっ!──グロッサーストーム!」


──ビュゴォォォォォオオオオッ!!!!!


あっ…………ぶな……。

何とか、向こうに被害は無いみたいだな。


こんの……イリモの野郎……ずっと俺が一方的に、イリモから離れて攻撃してたからなんだろうが、まさか、セインス達の方をいきなり狙いやがるとか、そりゃ反則だっての!


……くそ!自然生物にルールを押し付けようとする虚しさよ!


咄嗟に放った風魔法で事無きを得はしたが……。

物理的な余波はどうしたって発生してしまう。

舞がセインスと協力して、その余波はどうにかしてくれたが。


『報告が1件。イグニスもいますのであと何度かなら耐えられるでしょうが、何度も続く様ですと二人の魔力が持ちません』


……だよな。


竜は賢いとは言うが……まさか、自然生物が人質を取って有利を得ようとするだなんてな。


(仕方無い、間に割り込んで接近するぞ)


『……はい。庵、私は好ましく思っていますが……ですが、庵のその目立ちたがりなところは治すべきかもしれませんよ?』


……ぐぅ……流石、舞ならお見通しか。


カッコ付けて間に割り込みはしたが、こちらが有利に、そして安全に戦うなら、セインスに指示を出して大池から皆を連れて退避する様に言えばそれで済む話だからな。


でもさぁ。


どうせ戦うならギャラリーが欲しい……じゃん?

ちょっとくらい、カッコ付けたいじゃん?


イグニスだって期待してるし、なにより、セインスに俺のカッコ良いところ見て欲しいし……。


安全面を考慮したら、良くない事なんだろうが……でも、なぁ?


『まぁ、私は庵さえ無事ならそれで構いませんから。庵が納得しているのなら反対はしませんよ』


安全面、それは俺だけのじゃなくてセインス達皆のもだからな。

ん~むぅ……良くは無い、良くは無い事は判ってる。

だが俺に、欲は有る。


是、だ。


しっかり、間に入った俺が壁となりアシッドブレスを防いでやれば大丈夫の筈だ。


「死ねや、イリモ!!!」


──ヒュゴバッッッ!ヒュゴバッッッ!ヒュゴバッッッ!!!


八つ当たりって訳じゃあ無い。

そろそろいい加減、倒さないとな。

もう結構な時間戦い続けているし。


間に入ったからセインス達の安全は一先ず大丈夫だろうが、舞のやる事が一気に増えてしまったから尚更だ。


アシッドブレスを風魔法で防ぎつつ、飛来する水球弾を躱すのはともかくとして、射線上にセインス達が入っている場合には躱さずに撃ち落とさなければならない。

浮遊魔法にパンツァーファウスト523の制御もしつつだ。


あまり長引くと、俺自身はともかく舞には限界が来るかもしれないからな。


さっきから、俺の頭が熱を持ち始めてる。


IDがフル稼働している時の……いや、IDを構成するナノマシンの全てという訳じゃ無いが、演算には俺の脳を使ってるからな。

頭が熱っぽくなるのはIDが全力で演算をしている時の症状だ。


哭球が食われてから仕切り直し、その時点での残魔力量は約7割だった訳だが、これだけ戦ってもそこから1割も減ってない。

だから余裕で6割以上残っているし魔力的な不安は今のところ無いんだが……問題なのはナノマシンの残量だ。


IDは特殊な行動を取れば取る程にナノマシンを消費する。


常時、自己増殖しているからノーマルモード程度なら減る事なんて無い訳だが……高度な演算だの俺の肉体制御やアシストだの、そういった事をすればする程減っていってしまう。


舞からのアシストを受けれなくなったら、俺なんて高がAランク程度の実力しかないんだからな。

そうなれば勝てる見込みが完全に無くなってしまうだろう。


ま、手持ちにはいくらかのNOSTが有るし、何なら魔力を消費して作り出せば舞が機能出来なくなる程にナノマシンが減る事は防げはするんだが……現状NOSTの数は限られてるし、法則性は未だ解明し切れてないんだが、NOSTを生成するにはかなりの魔力が必要となるからな。


色んな事情が絡んで、だから長引かせるのは得策ではない。


──ンバッシャァァァアアアンッッッ!!!!!


ちっ。


近付いた所為で水球弾だけじゃなく、爪の振り下ろしやボディプレス、飛び掛かりからの噛み付き攻撃なんかも対処しなけりゃならなくなった。


まぁ、舞が機能している限り当たりっこないが。


でもアレだな、こうして接近して戦い始めてから、視界端に映るイグニスがどちゃくそ嬉しそうだ。

滅茶苦茶大声を上げて応援してくれてるっぽい。


ふふふふふ。


もうちょっとだ、イグニス。

俺の、カッコ良いところを見せてやるからな!!!


「フシュッ──。ギャァァァアアアーーーーッス!!!」


ははっ、今更お前の威嚇なんてどうって事──


「うをっ!?ま、舞!?まさかもうナノマシンの限界か!?」


──無い、って言おうとしたのにそれどころじゃない!


『違います。またも、想定していた悪い方へと進展しました』


──ドボッチョンッ!!!


「──ぷはっ。ゲホッ、ゲホ。ふぅ……クソったれが!!!」


カッコ付けてるめっちゃ良いところだったでしょうが!?

イリモさぁ、お前もちょっとくらいは空気を読めよ!


くっそ気分良くカッコ良く回避しまくって、所々ポーズをキメながら戦ってたってのに……いきなり大池に落とされた。

想定してた中でも最悪に近いパターンだ。


……わかってた。


解っていたさ、アンチマジックを使われたらこうなるって事は。


浮遊魔法はクソ程不安定な魔法だからな。

不完全とは言えアンチマジックの良い餌食になっちまった。


気付かれないと良いなぁ~このまま進んで事が済めば良いなぁ~って期待と祈りを籠めて戦ってたってのに。


よりによって……イグニスが期待してる前で、セインスがカッコ良い俺の姿を見てる前で!

台無しにしてくれやがってよぉ!?


「……許さぬ、イリモ、絶対に許さぬ!舞!やるぞ!!!」


『やむを得ませんね……。庵、初フライトです。ご注意を』


──ボヒュッ……ヒ…………ィィィィィイイイイイイ!!!!!

──ブブブブブブパザァァァァンッ!!!


更に舞のやる事が増えちまったかもしれない。


だが、こうするしか無い。

アンチマジックが展開されようと、物理的反作用に拠って飛行するのなら消されはしないんだからな!!!


イグニスがやろうとした飛行方法。

ぶっつけ本番、実演タイムといこうじゃないの!


地球で、フライトスーツの研究は1000年以上されている。

膨大なデータが既に蓄積されているし、SRでも人気コンテンツで3次元アクロバティックなスポーツやら、特殊なマニアによって戦闘術なんかも研鑽されてたんだ。


そのデータを使えば魔法で飛ぶ事なんて難しくは無い。


難しく無いのに今迄そうしなかったのは、単純に危ないからってだけの事だ。

フライトスーツも何も無しに、生身であまり速く飛んでは失神してブラックアウトする可能性だってあったからな。


まぁそれはともかく。


これで、俺を空から落とす事は出来なくなった。

イリモ……マジで許さんからな。


取り敢えず気を付けるべきは、速度を上げ過ぎて失神しない様にする事と、ナノマシン残量、この2つだろう。


いや、もう一つか。


今までの飛行方法は不安定ではあっても、一度体外へと放出した魔力を維持したまま見えない脚で歩いてた様なものだから、魔力を消費し続けるって事は無かった。


だが……この飛行方法は飛び続ける限り魔力を消費し続ける。

魔力を物質へと変換してジェット噴射してるんだからな。


だから残魔力量にも気を付けなければならない。


う~ん……消費魔力量の法則、やはり体積ベースなのか?

それは過去にも考えた事が有るんだが……。

……やっぱ違うっぽいんだよなぁ。

レアメタルはほんのちょっとでもメッチャ魔力使うし。

でも、アレだけパンツァーファウスト523を撃ちまくって戦っても1割も消費しなかったってのに、緩やかではあるがジェット噴射で飛び始めてから目に見えて残魔力量が減っていっている。

噴射する方法や物質にも依るだろうが……レアメタルを噴射してる訳じゃないのは確かだし、だけどガンガン魔力を使うんだから思い付くのは体積くらいなもので……。


もしかしたら生成する物質の、元素番号が増える程に消費魔力量も増えるんだろうか。

でもそうだとすると、それなりの量の金属を生成する必要のあるパンツァーファウスト523のコスパの良さが説明出来なく……。


って、今それを考えてる場合じゃ無いわな。


自分の魔力量の多さにかまけて今迄あまり気にした事が無かったが……今度、ちょっと真面目に調べてみるとするか。


さて。


フィナーレの時だ。

イリモよ、覚悟しろ。


てめーは俺を怒らせた──。




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