第159話 ヤバいかも




「イオリ頑張れぇっ!!!」




ふふっ。

イグニスの期待には応えてやらないとな!


俺が浮遊魔法で、15m程ふわりと空に浮かぶと、イグニスが元気良く大声で声援を贈ってくれた。


さぁ~って、イリモ討伐、いっちょやってみますか。


俺は少しカッコつけて、言葉では無く拳の親指を突き立ててイグニスの声援に応える。


ふわふわと空を飛び、大池とイリモを見下ろしながら、先ずは作戦を練るところからだ。


俺の眼下、大池の中央に近い所を、恐らく水深が深いのだろう辺りをゆっくりと移動しているイリモ。


理想としては、一撃必殺だ。


今ならイリモに警戒をされていない様だし、無警戒なところへ叩き込む初撃でカタが付けば、乱戦にならずに済む。

もし向かい合っての戦闘が始まってしまえば、高威力の魔法を放つのは少しだけ難しくなるからな。

俺には舞のサポートが有るとは言え、威力を高めようとすれば、必ず有限の『溜め』時間が掛かるのだし。


初撃に、どんな魔法を使うか。


それが最重要ポイントだ。

相手は生物なのだから脳か心臓を穿けば即死だろう。

だが……あの巨体で、しかも此処は異世界だからな。


地球基準で考えるのなら、素材……物質の強度ってのは高が知れてるし、有機生命体であれば、音速で飛ぶ鉛玉なんかを外皮や骨格で防げる筈も無いんだが……。

魔力を有してる魔物ってのは、地球での常識が全く通用しないってくらい強固で頑強だったりするからな。

銃弾よろしく、只硬質なだけの物質を高速射出する普通の魔法、ロックバレットなんかでは一撃じゃ難しいと思われる。


魔物であっても生物なのだから、毒なんかは有効だろう。

一撃必殺って言葉の響きからはイメージがズレてしまうが、毒なら撃ち込みさえすれば、時間は掛かるだろうが死ぬのを待つだけで安全に倒せる筈。

だけど……目的が食う事だからな。

熱分解する系統の毒を使用すれば問題は無い筈だが、それでも何と無ぁく、自分が食べるものを毒でってのは……気が引ける。


消滅魔法の哭球は、折角の血肉をごっそり失う事になるし。


と、なると……アレかな。

セストに教えてやったあの魔法。

パンツァーファウスト523の出番かな。


タンデムHEAT弾を忠実に模した魔法。

爆轟波を発生させ、液体金属の超高速噴流メタルジェットによって……って、小難しい話は今どうだっていいやな。

言ってしまえばロックバレットの超上位互換ってとこだ。

大雑把にはロックバレットと爆裂魔法を併用して実現する。


要はアホほど貫通力の高い魔法だ。


狙う対象が金属等の強固な個体であろうが、ユゴニオ弾性限界を超える圧力を掛けてやれば液体に似た挙動を示す。

如何に亜竜と言えど、所詮は生物だからな。

これでブチ抜け無い筈が無いだろう。


さって。


そうと決まれば早速だ。

一撃必殺を狙ってやってしまおう。


高度を上げ大池の上空約30m。

ゆったりと動くイリモに視線を固定しつつ、精神を集中する。


パンツァーファウスト523。

その弾体の外観、構造、材質、全てを詳細に思い浮かべる。

IDのアシストを受け分子や原子、素粒子までをも。


意図を持ち、イメージをし、魔力を籠める。

すると何も無い目の前の空間に、魔力という不可視の筈のエネルギーが凝縮する様にして輝きを放ち始める。


薄く、青く、光を伴って。


キラキラと粒子が集まり、やがては質量を帯びた物質へと。

そして、実体を伴う弾体が完成する。


射出の為の爆発物や砲身は必要無い。

魔力で以て撃ち出せば事足りるからだ。


どの様に飛び何処へと着弾するかも詳細にイメージをする。

今回ポイントとなるのは、如何に回転をさせずに飛ばすかだ。


銃弾などを、回転させて飛ばすのとは真逆の行為。

ライフルやライフリングという言葉を耳にした事の有る者は多いと思うが、弾体を回転させるのは必ずしも最善とは限らない。

漫画なんかだと大砲とか戦艦の主砲、戦車の砲身とか何でもかんでもライフリングが刻まれていたりするが……実際には、今回のHEAT弾や他にもAPDS弾等の貫通力特化の細長い弾体を射出する場合には、回転を与えると逆効果となってしまう。

逆に安定性が低下し、威力・命中率共に低下するからだ。

それだけで無く、HEAT弾の場合は着弾時にメタルジェットが遠心力の影響を受けてしまい収束せず、効果が減衰する事となる。


拠って、現実的にはライフル砲でなく滑腔砲が主流だ。


まぁ今回は魔力で飛ばすのだから関係無いが……弾体がブレたり回転したりをしない様にしっかりとイメージしないとな。


良し、準備は整った。


「イリモ、俺を恨んでくれるなよ?」


念の為、浮遊魔法の出力を上げ高度100m程まで浮かび上がり、俺はパンツァーファウスト523と命名した魔法を放った。




──ヒュゴッ……バンッ……ドドガァァァアアアン!!!!!




撃ち出し、加速途中で音速を超えイリモへと直撃。


どうだ?やった……か?


濛々と巻き上がる水蒸気。

爆発による爆煙と衝撃による水煙も多少は有るものの、それよりも熱に拠って一瞬で大池の水が蒸発し、その水蒸気に因って視界を妨げられる事となった。


狙ったのは水面より上に見えていた、背中側の心臓部分。


上手く……俺の予想と期待通りになっていれば、外皮をブチ抜いて心臓までをも穿いている筈だ。


──ガギャァァァアアア!!!!!ギャガギャ!!!!!


見えはしないが、辺り一帯に響き渡るイリモの慟哭。

結果は未だ目視出来ないが、どうやらダメージを与える事には成功したらしい。


それにしても……バカかって程デカい鳴き声だな。

俺はイリモから100m程も離れてるってのに、肌で感じ取れる程に空気が震えてやがる。


視界端に映る皆を見ると、イグニスは良い笑顔で俺に声援を贈ってくれてるみたいだが……イリモの所為で聞き取れないな。

鬼娘達とセインスは目を見開いてビックリ顔だ。

まぁ、これ程に威力の高い魔法を見るのは初めてなんだろう。


ん、風に流されて視界が晴れてきたな。


どれどれ……。


「って……マジ、かよ?」


『驚異的ですね……。私が脅威度を測り違えた所為です。申し訳ありません。脅威度をSランクに上方修正します』


Sランク……つまり、不明って意味に近い。

少なくとも全Aランクよりも上。

判るのはそれだけだ。


ヤバいかもな……俺も精々がAランクだろうと思っていた。

Aランクのワイバーンよりは強いだろうと予測してたんだが……それは巨体だからであって、肉体の強度やなんかは大差が無いだろうと甘く考えていた。


恐らくは舞もそうなんだろう。

狩ってしまえば良いだなんて言ってきたんだからな。

そうでなきゃ、軽々しく提案なんてしてこないだろうし。


どうするか……完全に視界が晴れる前に、皆を連れてさっさと逃げ出すべきだろうか。


Sランクともなれば、アシュバルを相手にする様なもんだ。


……イフォーツやカマセーヌもSランクなんだから、倒せる可能性だって無くは無いだろうが……ん~むぅ……どうするか。


まさか、32世紀地球の、最強の貫通力を誇る最新兵器が通用しないだなんてな。


出血はしてるし背中が焼け焦げてもいるが……どう見ても貫通した様には見えない。

堅い外皮に阻まれたって事なんだろうが……信じられん。

特殊合金の分厚い板だろうとブチ抜く代物なんだぞ?


魔力や魔法的な何かなんだろうとは思うが……たかがタンパク質の塊である有機生命体の外皮がブチ抜けないだなんて事……。


マジでファンタジックにしてファンタスティックだな。


マーベラスブラボーと称賛を贈りたいくらいだ。

……そんな事を言ってる場合じゃ無いんだろうけどな。


しゃあ無い。


こうなったら哭球だ。

逃げようかとも思ったがイグニスが期待してくれてるしな。

どんだけ硬かろうが消滅魔法で頭を消し飛ばしてしまえば、流石に絶命するだろうて。


心臓を狙ったら可食部がかなり減ってしまうし、仕方が無い。

本当は討伐トロフィーとして頭蓋は残したかったんだけどなぁ。


「さて、すまんなイリモ。美味しく食ってやるからさ」


『哭球、発動します』


舞、頼む……ぜ、って……おい?おいおいおいおい!?


──ギャガァァァアアアッ!!!!ズザッッッパッ!!!!


「なっ!?」


『っ!?緊急回避しますっ!』


──バグンッッッ!!!!!


ッ!!!

………………あ、危なかった。


まさか、あの巨体で100mもの上空まで飛び上がって俺に向かって噛み付いてくるとは思いもしなかった。

マジで、魔法と魔力が在る異世界だと計算に依る予測なんてまるで当てにならないな。

発揮できるジャンプ力は肉体が巨大に重くなるほど反比例する筈だが、この異世界ならビルを飛び越せる人間大のバッタとかマジで存在しちゃうのかもしれないな。


──ドバッシャァァァアアアン!!!!!!!


流石に、空は飛べないらしい。

そこだけは一安心だ。

噛み付き攻撃をして、その後は自然落下していったからな。

凄ぇな。

落っこちてとんでもない水しぶきが上がっている。

体長30m、体重125000kgの衝撃とか想像したくも無いぜ。

地上で戦って潰されでもしたらぺちゃんこだろう。


って、やっば!?


「イグニスセインス逃げろ!!!!!お前らもだ!!!」


『庵、焦る必要はありません。セインス、聞こえますね?』

『え?あっ、ああはい、聞こえています。舞さんですね?』


……なるほど。


『落ち着いて聞いて下さい。イリモが落下した衝撃にて、間もなく津波がそちらへと届くでしょう。それを防ぐ為、AR表示に従い魔法発動の準備をして下さい』

『えっ?あっ!?も、もう直ぐそこまで来ています!わ、私に出来るのでしょうか?あんな大きな波を防ぐだなんて……』


『セインス、俺の声も聞こえてるな?大丈夫、舞が魔法のサポートをしてくれる筈だ。落ち着いて、セインスなら出来るから』


そう、舞の言う通り、何も、焦る必要なんて無かった。


『っ!庵、分りました。やってみます!任せて下さい!』

『目を閉じず、しっかりと見据えて下さい。いきますよ?』


本来なら、と言うか、ナノマシン保有量が十分でIDが完全に機能しているのなら、舞はこんな手順を踏まなかっただろう。

緊急時という条件に限られるが、無許可でセインスの肉体を操って、勝手に魔法を発動していた筈だ。


だがセインスのナノマシンは未だ十分じゃ無いからな。


それでこんなひと手間が掛かりはしたが……イリモと戦うだなんてのは無理でも、津波を防ぐくらいなら余裕で出来るだろう。


『演算完了。セインス、今です』

『いきます!クレイウォール!!!』


セインスのナノマシン保有量が一定値を超えてたのは偶然だが、特別製の眼鏡を作っておいたのはマジで正解だったな。


今迄、セインスもイグニスも俺がしっかりと護ってやらなきゃって、ずっとそう思ってたけど……これからは、もう少し肩の力を抜いて安心しても良いのかもしれないな。


おお。


しっかりと魔法発動に成功したな。

クレイウォールって言ってた通り、セインス達皆の前に土壁が形成されて津波を押し留めた。


……何気に、凄いのはやっぱイグニスだな。


咄嗟の事で打ち合わせをした訳でも無いだろうに、セインスによる防壁が出来た後、イグニスの魔法により皆の立つ地面、その周囲一帯がもりもりと盛り上がって高台の様な状態になった。

イグニスは、高い所へ逃げれば良いとでも思ったのだろう。

セインスと違って舞からのサポートを受けてもいないのに、魔法で土を生成出来てしまうのだから、イグニスの『天性の感覚』ってやつは本当に凄いものだと思う。


鉱石なら、その組成を答えれる者はそれなりにいるだろう。

石とか宝石、例えばダイヤモンドなら炭素、だとか。

だが、土ってのはそんなに単純では無い。

土の組成は?と聞かれて答えれる者は少数だろう。


舞がセインスに使わせた魔法が、クレイウォール、つまり粘土なのもそこら辺が関係しているんだと思う。

普通の土よりかは構成する成分の種類が少ない筈だから。


ほんと、この異世界の魔法は色々と難しい。


理詰めで行使しようと思うのなら、土なら土の成分一つ一つを理解してなきゃ発動出来やしないんだからな。

それを理詰めで無くやってのける『天性の感覚』よ。

きっと、イグニスは好奇心旺盛だし、村に居た頃、それも俺と出会うより以前でもっと幼かった頃に、土を口に含んだり食べたりした事が有るんだろうな。

それだけで、何となくのイメージで出来てしまうのだろう。


さて、それはともかく。


あわや大惨事になるところだったが、もう大丈夫だな。


『セインスお疲れさま。ありがとな?それと、まさかこんな事になるとは思ってなくて……すまなかった。皆にも謝っておいて欲しい。あとイグニスには良くやったって褒めておいて欲しい』


『庵……私、お役に立てましたか?』


『ああ、凄かったよ。バッチリさ!』


ふふ、セインスにとっては他人の為に役立ちたいってのがレゾンデートルの一つだもんな。


よし。


それじゃ、俺は俺の仕事をこなすとしよう──。




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