第5話会話 パズルの話
「おっと……」
「どうしました? おや、魔物用の罠ですね」
「もう一歩進んでいたら危なかったです。身体の半分がさよならするところでした」
「それは縦にですか? 横にですか?」
「縦ってなんです? スライス式ですか?」
「ああ、いえ、どっちかなぁと思いまして」
「気になるポイントおかしくないですか?」
「結構重要ですよ。なるべく顔は残したいじゃないですか」
「切断された後のことまで考慮していられません。死んでるので」
「それでもぼくは譲れません。このかわいい顔を無様に晒すなんてでき――」
「けっこうたくさんありますね。魔王さん、気をつけてください。……魔王さん?」
「ちょっと触ってみたいです。縦か横か気になります」
「好奇心旺盛なのは良いことですが、ふつうに死にますよ」
「だいじょうぶです」
「だいじょばないです」
「ぼく、死なないので」
「どこかで聞いたようなセリフ回しやめてもらっていいですか」
「どやぁ!」
「褒めてません。ほんとうに危ないですよ」
「だいじょうぶです。えいっ」
「うわ、自ら罠にかかりにいくひと初めて見た。しかも斜めだ」
「見てください、勇者さん。袈裟切りですよ!」
「どこで知ったんですか、その言葉。あとなんで楽しそうなんですか。ドⅯですか」
「昔、ぼくを倒しに来た遠い国の勇者さんが使っていた技です。懐かしいですねぇ」
「ところで、その状態で喋るのやめてもらっていいですか」
「面白いでしょう、これ?」
「偉い人からバンされますよ」
「そんな……。では、こうしましょう」
「切り口からクラッカー……? なぜだか愉快な楽器の音もする……」
「全年齢に配慮しました」
「その気持ちがあるならはやくくっついてもらっていいですか」
「勇者さんにはウケなかったようですね……。五百年前のサーカス団には大好評だったのに」
「五百年前のサーカス団」
「とても楽しい芸を見せてくれたんですよ」
「たとえば?」
「獣の輪をくぐる火とか」
「獣の輪をくぐる火」
「空中に作るブランコとか」
「空中に作るブランコ」
「バラバラショーとか」
「あ、普通そうなのが」
「箱から噴き出す赤いものがなんともきれいでしたよ」
「……ソウデスカ」
「あれは楽しい時間でした。勇者さんにもお見せしたいです」
「人類にはまだ早そうなので結構です」
「五百年前ですよ。ついこの間じゃないですか」
「魔王さんの時間感覚で言われても。……あと、さっきからうぞうぞと気持ち悪いですよ」
「そんなこと言わないでくださいよう。今くっつけようと思って――あ、勇者さん。ちょっと手伝ってもらってもいいですか? 引っかかってしまって」
「いやだ……。わかりました」
「本音はしっかり言うタイプですね。勇者さん、それはここです。あ、そこは違います逆です。ここですここ」
「まるで魔王パズルですね」
「定期的にやりますか?」
「全力で丁重に心の底から死んでもお断りします」
「そうですか。あ、完成しました。五ピースほどの新生魔王です」
「おめでとうございます」
「ありがとうございます。かなり嬉しそうじゃないですね。言葉と表情がこんなに違うのもおもしろいです」
「価値観の違いというものは時に争いの火種となります」
「一応謝っておきます。ごめんなさい」
「三ミリほど許します。さて、そろそろ行きましょうか」
「そうですね。全然許されていませんんが、お昼ごはんの時間です」
「魔王さんは何か食べたいものはありますか」
「ぼくに訊くなんて珍しい……。食べたいものですか。あ、エネルギーを消費したのでお肉料理がいいです。がっつり食べて充電します」
「わかりました。精進料理にしましょう」
「あれぇ……?」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます