第10話 キノコ狩りの男たち

 依頼の内容はキノコ狩り、魔法薬の材料らしい。ギルドで頼むにしては簡単なクエストだ。

 しかしキノコの自生地は前回と同じ森、嫌な予感しかしない。


「キノコってこの形でいいのか?」


 前回とは異なり、森の浅いとろで採集を開始する。ノエルによれば比較的広範囲に散らばるキノコらしく、見つけるのにも苦労は少なかった。


「どれどれ……ふむ、これで良さそうですね。大きな傘、白地に赤い水玉、依頼書の特徴と一致していますよ」


 ノエルにも確認してもらい、依頼の品か確かめる。どうやら合格のようだ。


「よし、このまま狩りつくせ!」


「がってんです! ギルドのクエストも我々にかかればお茶の子さいさい、鎧袖一触ですね!」


 世界が違えど、同じようなことわざやら四字熟語は溢れているらしい。

 召喚時から俺にはこの世界の言葉が日本語にしか聞こえないし、文字もそうだ。不思議なものだが、召喚時に付与される特典と言うやつなのだろうか。

 

 そんなことを考えながら、ひたすらキノコを集め数十分。

 依頼には十分な数のキノコが集まった。


「いやー、今回は楽なクエストだったな。これでいくらになるんだ?」


 言いつつノエルの持っている依頼書をのぞき込む。


 依頼内容:キノコの収集

 報酬  :銀貨一枚

 依頼者 :ボニー・M・レイクサイド

 備考  :キノコは大きな傘、赤地に白い水玉が特徴


「おい、ここ、備考、読め、なんて書いてある」


 目を疑った俺はノエルを問い詰める。


「何ですかカタコトの外国人みたいに。さっき言ったとおりですよ、キノコは大きな傘、リンゴ並みの赤地に雪のような白い水玉が特徴」


「お前の握ってるキノコは何色だ?」


「白地に赤……あれ?」


 そう、やけに広範囲に生えていた我らが白キノコさんは


「全然違うキノコじゃねーか!! どうすんだコレ、籠いっぱいに集めちゃったよ」


「お、落ち着いて下さい! こういう時は落ち着いてキノコの数を数えるんですよ、キノコがいっぽーん、キノコがにほーん……」


 気が動転したのか、なぜかキノコを数え始めるノエル。


「そうだ! 解決法が思い浮かびましたよ! 食べればいいんです、そうです簡単です。ひょいぱく」


「あっ、おい! それ絶対マズイだろ!」


 止める間もなくキノコを口にしたノエル。しばらくその辺を散策しても異変は見られない。


「ふぅ、タスクさん、このキノコおいしいですよ。一本どうです?」


 これ食べたらマニュアルに新項目を書けるかもしれない。


「あれ、タスクさん。向こうに黄金の森がありますよ、それに方舟も一緒です。行ってみましょう!」


「黄金? 方舟? ただの森にしか見えないけど……っておい!」


 ノエルは返事も待たず駆け出していく。幻覚だ。明らかに幻覚を見ている。

 急いで後を追う。


「見てください! これが、これこそが人類の至宝! 黄金船団です! お頭! こいつぁお宝ですよ!!」


 長い銀髪をしっぽの様に振り乱して森の奥へ突き進む。

 というかどういう設定なんだ。


「待てって! そっちはこの前もゴリラが出ただろうが!」


 ゴリラ戦の行われた薬草広場も超え、しばらく進んだところで、ようやくローブの襟首を引っ掴む。


「グエッ!? ゴホッゴホッ、何するんですかお頭!」


「誰がお頭だ。バカ言ってないでさっさと戻るぞ。こんな状態でゴリラでも来てみろ、一網打尽だぞ」


「でもお宝が! グランドラインが私を呼んでいるんです!!」


「呼んでない、戻れ!」


 手を突き出してバタバタ暴れるノエル。それを引きずり撤退を始める。

 

 広場まで戻ったところで、段々とノエルの理性も戻り始めた。


「お、黄金が、おうごん、あれ?……私は何を」


「ようやく戻ったか」


 パッと手を放す。するとノエルはくるりと身を返し、並んで歩き始める。


「……ローブが伸びました」


 不満げに上目遣いで見つめてくる。


「自業自得だ。怪しいキノコを生食するお前が悪い」


「賠償です。クエストの分け前から差っ引きますから」


 しきりにローブの襟を触ってアピールしてくる。

 ぷんぷんするノエルを適当にいなしながら森の深部を進むことしばらく。


「キヤアァァァア!!」


 耳をつんざく悲鳴。周りを見回すと、木々の切れ間から人影が走り抜けていく。

 直後、地響きと共に石造りのゴーレムが姿を現した。三階建て程の大きさに思わず足が止まる。

 

「……行きますよ、タスクさん! これこそ冒険者です!!」


「了解!」


 親父もゴーレムには遭遇したことが無いらしい。こんな時に不純だが、マニュアル作りが捗る。

 考えつつ、枝をかわし声のした方へと駆ける。


 そこには大木を背に倒れこむ少女が一人、それを狙うゴーレムが一体。

 走り抜けた人影とは違う人物のようだ。


「ノエル! 拘束魔法だ!」


「がってんお頭! 縛り押さえよ光の縄よ!!」


 ノエルが叫ぶと、天使の輪のように光り輝く円環がゴーレムを中心に展開される。

 そのキャラ付け気に入ったのか。


 直後、散り散りになるゴーレムの体。体を関節から分割することで拘束を避けたらしい。拘束魔法は目標を見失い光の輪が霧散する。

 バラバラになった石塊は徐々に人型へ寄り集まり、元の通り三人に相対する。


「く、ノエル! 拘束魔法でパーツごと切り落とせるか?」


 柔らかい肉をワイヤーで断ち切るように。強力な締め付けは破壊にも使えるはずだ。

 だが返答は芳しくない。後ずさりながらも少女をかばうノエルが


「無理です! 拘束魔法は締め付け力を調整できません!!」


 仕方なし、この前と同じプランに切り替えだ。


「ゴリラの時と同じ作戦を採る! ノエルは女の子を流れ弾から守ってくれ」


 ノエルは悔しさに顔を歪めながらも頷いてくれる。

 前衛の戦闘中、後衛は攻撃魔法を使えない。ただし、瞬間火力は前衛の比ではない。

 前回の様に敵に大きく隙を作り、そこへぶち込むやり方が一般的だ。

 言ってみれば大砲と同じ扱いだろう。


「……カッコつけさせてくれよ? これくらいしか取り柄がないんだ」


「……」


 人型に語りかける。嵐の中の静寂。

 風に枝が揺れ、耐えかねて舞い散る葉が一枚。地面に、落ちる――


 一息。十歩以上あった距離が今や目前に迫る。

 そびえ立つ人型は何だ。


「はあぁぁぁ!!」


 敵、紛うことなき。叩き込む横薙ぎの一撃。

 親父からよく聞いた。力こそパワー、筋肉はすべてを解決する。


 刃を弾く硬い感触。すべての修行はこの瞬間のためと信じ、脚、胴、腕、全身の筋肉を爆発させて剣を押し込む。


「ここだぁぁあぁぁぁぁぁ!!!」


 ミシリ、巨体が軋み、脚部分に亀裂が走る。

 刹那、左から強い衝撃。


「っ!? あっぁぁぁぁ!!」


 俺は元居た位置よりさらに吹き飛ばされ、木へぶつかりようやく止まる。

 完全に油断した。巨人は反応を語らない。しかし左足を気遣うような立ち方は、痛みをこらえているようにも見える。

 しかしそれは致命傷足り得なかった。倒れた俺へ止めを刺しに迫る巨石の人型。

 調子に乗りすぎた。カッコつけようとしすぎだ。その結果がこれでは笑うに笑えない。


「システムワン、奪い貫け氷の槍よ」


 突如飛来した氷塊が、瞬く間にゴーレムの左脚へ突き刺さる。蓄積されたダメージもあってか、左脚はすぐに倒壊を始めた。

 大きくバランスを崩し、膝を付くゴーレム。


「ノエル!!」


「がってんお頭!!」


 相変わらず謎設定の返事をして、ノエルが詠唱を始める。

 その姿は端正ながらも少し幼い容貌と、純白のローブが相まって、神々しさすら感じた。


「一なる神の僕にて、聖なる誉れ高き剣。清なる御霊よ、頂守りし破魔の剣よ、善きを守り、穢れを喰らいて力と為せ!!」


 ノエルが派手にポーズを決めて魔法を放つ。帽子を押さえ、右手を突き出す、典型的とも言える立ち姿。しかし、今はそのポーズが嫌になるほど似合っていた。

 閃光が巨体を包み込む。眩しさに目をふさぎ、もう一度開いた時には、崩れた石塊が散乱するのみだった。


 なんだか前回と同じ倒し方だな。

 まあ仕方ないか、デカブツはまず脚を潰せ。これが鉄則、親父もいつも言っていた。



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 あとがき


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