セリフの軽妙さ、最低限にもかかわらずわかりやすい文章。SFとファンタジーが融合した外連味のある世界観。この読後感を何に例えようか迷いましたが、「出来のいいMV」というような感想がしっくり来ます。いい曲といい歌詞、そしてミュージックビデオの映像はたびたび1本の映画のような爽快感を与えてくれますが、この作品もまたそれにとても近い感覚が味わえます。圧縮された文章で楽しませてくれるこの作品は、現代のweb小説の鑑といえるかもしれません。
こんなに美しい世界を知りません。人物、機械、まち、空気。夜空。ぜんぶ、強烈な、そして残酷ないろを伴って、読む者の視野を描きかえていきます。そう、わたしたちの世界を、再定義しに来るのです。とにかく、動きの、ものの描写において、ひとつひとつ、身を捩りたくなるくらい、透徹したことばえらび。もう描写ではない。作者さまがみている世界を、愛の定義を、わたしたちに打刻する、それが本作の本質とおもいます。