第9話『文化祭編③・拡散する歪み】+プチ登場人物紹介
【Side.伊藤恵子】
私は夏休み終盤に葛葉くんの事が好きだと自覚した。
だけどヘタレて葛葉くんにアプローチ出来ないでいる。
「恵子っち~、ぼやぼやしてると横から搔っ攫われるよ~?」
「具体的に、私とか、優里とか」
何度も鈴木さんや小林さんに揶揄い半分で背中を押されても無理。
だって葛葉くん、中学の時に私をイジメから助けてくれた事とか覚えてなくて、私の事は友達としか見てなさそうだし。
もしアプローチしてから告白したのに振られたりしたら、今みたいに友達としてもいられなくなるのが怖い。
二学期が始まって、吉田さんがイメチェンして葛葉くんに近付いた時は凄く焦った。
ギャル風にイメチェンして葛葉くんと仲良くなるとか、まるで私を見てる気分。
だから多分、吉田さんも葛葉くんの事が好きになったのだと思う。
幸い、葛葉くんは興味ないみたいだったけど。
でもそれって、似た方法で仲良くなった私にも言える事で。
やっぱり脈なさそうでへこむ……
そう足踏みしてたら、私たちのグループにまたメンバーが増えた。
一年Cクラスの斎藤由華さん。
葛葉くんと同じ生徒会役員で、胸が凄く大きいって噂されてた子だ。
本当に大きい……。
葛葉くんが言うには、斎藤さんがクラスでイジメられてるから、同じ生徒会役員として助けてるらしいけど……、今回は葛葉くんが直接連れて来たから殊更不安になった。
「やっぱ葛葉っちも男かー。あのおっぱいはたまらんよなー」
「正直、私も揉んでみたい」
「いやいや、佳代っちも大きい方でしょ?」
「自分のと他人のは違うから」
鈴木さんたちがそんな事言ってるのを聞く度にもっと不安になる。
真面目な葛葉くんに限って、胸目当てという事はないよね?
なのに斎藤さんも、最初は葛葉くんに冷たかったのに、いつからか葛葉くんの分のお弁当を用意し始めて。二人の距離が近くなるのが見えて凄く胸が痛くなった。
それを見てこっそりと、私も家でお弁当を作る練習をしたけど、斎藤さんみたいに上手く作れなくて、比べられるのが怖くて葛葉くんにお弁当を渡す事も出来ないでいた。
そのまま何も出来ないで時間が過ぎてもう二学期中盤になった。
「伊藤さん、あんた恭一の事が好き?」
皆で文化祭を回る途中。
私だけお手洗いで席を離れてから斎藤さんのクラスのカフェに戻ろうとすると、ふとメイド服姿の斎藤さんに声を掛けられた。
「ええっと、どうしてそんな事を?」
「別に、見ていてじれったいから言っておきたくて。あんたらのクラス、この後恭一とアリアのライブステージってのをやるんでしょ?」
生徒会の時に聞いたのかな。
「そうだけど……」
「そのステージが終わったら葛葉の人気が爆発して、あんたみたいなただの友達なんてあっという間に有象無象になるから、恭一と付き合いたいなら今の内に告白するしかないわよ」
斎藤さんが言ったのは意外にも私に対する助言だった。
「どうしてわたしにそれを…?斎藤さんも葛葉くんの事好きとか、実はこっそり付き合ってるとかしてないの?」
斎藤さんと葛葉くんは普段だってお弁当作って渡すくらい仲いいし。
さっき注文を取る時だって、凄く甘い雰囲気を出してたのに。
「それは……あんたが恭一に告白したら教えてあげる。でも本当に時間が無いからね」
それだけ言い残して、斎藤さんは先に教室へ戻った。
確かに斎藤さんの言う通りだ。
葛葉くん、今までは悪い噂とかあったからかっこよくても人気にストッパー掛かってたけど、ライブステージが終わったら、あっという間に人気者になるかも。
だって今準備してるライブステージって凄く本格的な物になってるから。
リハーサルを見た時なんか、葛葉くんや花京院さんが本当のアイドルかもと思ったくらいに。
葛葉くんが人気になったら、私なんかよりもっと可愛い子とか、頭のいい子とか、それとも家柄のいい人たちに囲まれて、取柄のない私なんか弾かれてしまう。
もう時間が無かったんだ。
今更アプローチとかする暇は無い。
本当に、ライブステージが始まる前に告白しないと……!
斎藤さんのクラスでご飯を食べ終わった後、私たちは校庭の出し物を回った。
「よっしゃ!あたり!」
「次は私の番。あのプラモを落として転売する」
そして鈴木さんと小林さんが射的屋台に夢中になってる隙を突いた。
「葛葉くん、ちょっとこっち」
「ん?伊藤さんどうした……」
私は葛葉くんの返事を聞かないで、彼の腕を引っ張って校舎の陰に連れ出した。
「伊藤さん、何か話でもあるのか?」
葛葉くんは落ち着いた様子で聞いて来た。
これから私が何を言うのか分ってないのかも。
気になる事はあるけど、いつ鈴木さんたちが来るか分からないから、葛葉くんに付き合ってる相手がいるのかとか確かめる余裕もない。
このまま私の思いの丈をぶつける……!
「葛葉恭一くん、好きです!私と付き合ってください!」
「…………ごめんなさい」
あ、私の恋、終わった……。
【Side.ユカ】
私はあの邪悪な二人から恭一を助け出さなければならないの。
でも私には知能も、技術も、財力も、権力もない。
あの二人に対抗出来る力は、仲間を集める事しか思い付かなかった。
しかし下手に男の仲間を作って親しくなったら、恭一はむしろ私をその男に押し付けてしまうだろうから、仲間の性別も女子に限定される。
女子の仲間は逆に恭一に本気になってハーレムが増えてしまう本末転倒になるかもだけど、ちゃんと弱みを握って最後には蹴り落とせばいいでしょ。
幸いかふざけてるのか、アリアとイチゴ公認で恭一の相手を増やせる建前もある。
何でも、恭一がアリア相手では起たないから、何故なのか色んな女子の相手をさせてデータを取るんだとか。
その相手を、私が斡旋してもいいとまで言われた。
本当にふざけているわ。
立場や性別を変えて考えてみるだけで、二人がやろうとしてるのがどれだけ悍ましいか簡単に分かる。
恭一がそういうのを女性よりは苦痛に思わない男性なのが幸いよ。
でも結局、私が仲間を作る手段だって、恭一にそういう事を我慢させないといけないのよね……
……仕方ない。そうでもしないとあの二人には勝てないんだから。
恭一には色々目を瞑って、男として楽しんで貰うしか!
うん?私は恭一が他の子とエッチな事するのが嫌じゃないかって?
確かに気に食わないけど、あの二人はそういう事言ってられる相手じゃないのよ。
目に付いた仲間候補は、恭一の取り巻きみたいな女友達の三人。髪の毛を緑、金、赤の三色に染めてることから信号娘とも呼ばれる子たち。
銀髪の吉田さんも似た立ち位置だけど、残念ながらアリアたちに目を付けられてしまったから除外ね。
でもいつの間にか金髪の鈴木さんはアリアと、赤髪の小林さんはイチゴと繋がりを持ってしまったみたい。
残った候補は緑髪の伊藤さんだけ。
完全に出遅れてしまったわ。
取り込めても人数は同じだけど、これ以上遅れる前に伊藤さんだけでも確保しないと。
「恭一と付き合いたいなら今の内に告白するしかないわよ」
だから文化祭の日になってもうじうじしてる伊藤さんの背中をあえて押した。
まあ、動かないと間に合わないって事は嘘じゃなかったからいいわよね。
「葛葉恭一くん、好きです!私と付き合ってください!」
「…………ごめんなさい」
で、当然振られる訳で。
今の恭一は色々しがらみが多いから、何の工夫もなく告白するだけで落とせる相手じゃないのよね。
伊藤さんは知らなかったでしょうけど。
ごめんね伊藤さん、振られると分かっていて背中を押して。
でもこれも必要な過程だから。
「ぽかーん」
私は振られたショックで一人裏庭に座り込んでいた伊藤さんに歩み寄った。
「伊藤さん、その様子じゃ振られたみたいね」
「……斎藤さん」
伊藤さんが焦点の定まらない目でこっちを向く。
「……もしかして、斎藤さんが葛葉くんと付き合ってるの?それで私は振られたの?」
「そうよ。私は恭一と付き合ってるの」
三人目として、だけどね。
「どうして教えてくれなかったの?なんで私の背中を押したの?」
「それはね……あんたの本気を確かめたかったのよ」
私は伊藤さんの前に座り、彼女の両肩に手を乗せて耳元で呟いた。
「まだ恭一の事、諦められないくらい好き?」
「それは……」
迷ってるわね。まだ振られた直後だからそうでしょうけど。
「よかったら、恭一とエッチな事くらいは出来る様にしてあげようか?」
我ながらバカな誘いだわ。
まあ、乗って来ないなら来ないで当然だと割り切りましょう。
「えっ……。葛葉くんと……?」
伊藤さんは物凄く戸惑ったけど、ごくりと生唾を飲む音がハッキリと聞こえた。
恋愛だけじゃなくて、そういうのにも興味ある年頃だからかしら。
……釣りで魚を釣り上げた気分ってこういう気分かも。
―――――――――――――――
本当は②と③は多くても4000字の一話分にひっくるめて纏めようとしてたんですけど、書いてたら増えたんです……
ー以下プチ登場人物紹介です
・
恭一の取り巻き、信号娘の
信号娘の中では一番身長が高い。一人称がウチ
オタクに優しいギャル……というか本人が少しオタク
中学の頃、一時期テニ〇リに嵌っていた
一個上の従兄妹兼幼馴染の鈴木
恭一に向ける感情は友情が一番強いが、火遊びもOKラインに入ってたりする
最近、アリアと仲が良くなったらしく、それから積極的に恭一にアプローチし始めた
・
恭一の取り巻き、信号娘の
信号娘の中では一番身長が低いが、胸は大きい方
家庭事情が割と重くて、父親の再婚に合わせて家を出る準備をしている
恭一の事は、髪色の隠れ蓑や、節約する寄生先とも見ている
それでも恭一をちゃんと友達だとも思ってはいる
恭一に向ける感情は恩義が一番強く、体で返すのもいいと思っている
イチゴとある密談を交わした後、裏で積極的に恭一にアプローチし始めた
・
恭一の取り巻き、信号娘の
信号娘の中では一番普通
裏で料理の練習を始めたらしいが、成果は芳しくない
中学の頃、恭一にイジメから助けて貰って恭一が気になって悠翔高校に追いかけて来た
ただ最初は友達で満足してたが、夏休みにガチ恋する
しかし極度のヘタレなので文化祭までに一切アプローチ出来なかった
文化祭でユカの警告を受けて一発逆転を狙い恭一に告白するも、玉砕した
失恋して呆然としていた所に、ユカからある誘惑を受けた
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