第4話『あたしにイケメンの義兄が出来た!②』

【Side.リナ】


 あたしは恭一さんと依藤さんに連れられてファミレスに入った。


 ファミレスなんて家族の祝い事や、友達付き合いでたまにしか来てなかったから感激ぃ。


 さらにあたしの歓迎会だからと、あたしが食べたいのを奢ってくれるって言われた。


 それでも少し遠慮してしまって、今まで気になっても高くて食べられなかったメニューを選べなくて、それよりも一段安いメニューを選んだ。


 でも恭一さんと依藤さんはまるで示し合わせたみたいにあたしが気にしてたメニューを選んで、分け合おうって言ってくれた。


 この人たちは本当にあたしの事を妹として可愛がってくれる、そう実感した。


 実感はそこで終わらなかった。


「あの、美味しかったです、ありがとうございました」


「うん、じゃあ次は服見に行こうか」


「えっ!?」


 そのままあたしは色んなアパレルショップを連れ回された。


「ねえきょーくん、これとこれ、どっちがリナちゃんに似合うと思う?」


「……左の方」


 ええー!あたし、恭一が選んでくれた服を着るの!?


「そう?私は右の方がいいと思うから、両方買うか!」


「おい」


 ええー!両方買うの!?


 ……恭一兄さんが選んだのは左のね。覚えて置こう。


 ファミレスに引き続き、服の支払いも全部恭一兄さんがしてくれた。


 恭一兄さんってお金持ちなんだ……


 イケメンでお金持ちな人があたしのお兄さんになったなんて、まるで少女漫画の世界に入ったみたい。


 ランジェリーショップにまでついて来られたのは流石に恥ずかしかったけど。


 恭一兄さんも嫌がったけど、イチゴ強引に捕まえて逃げられなかった。


 これってつまり、あたしが穿く下着を恭一兄さんに把握されるって事!?


 凄く恥ずかしいんですけど!


 そんな風に嬉しいやら恥ずかしいやら色んな気持ちに振り回されて夢見心地でいたら、いつの間にかアパートに戻っていた。


 今日新しく買った服をタンスにしまうと、それだけでタンスの下二段が一杯になった。


「ん~これはその内、リナちゃん用の新しいタンスを買った方がいいかもね」


 一杯になったタンスを見てイチゴ姉さんが呟いた。


 それって、恭一兄さんがまた服を買ってくれるって事かな?


 少し楽しみ。


 でもすぐタンスを買って貰うのも気が引けるから、今まで無理して着てた服は纏めて捨てる事も考えないと。




 それから数日間は、あたしは恭一兄さんやイチゴ姉さんに受験の勉強を教えて貰ったり、一緒にゲームをしたり、スマホを最新機種に変えて貰ったり、高くて手の出せなかったコスメを買って貰ったりと物凄く楽しい日々を送った。


 最初は家族や金の為に売られた気分で憂鬱だったけど、今となっては葛葉家に来て恭一兄さんの妹になって本当に幸運だったと思う。


 そしてこっちに来て始めての週末。


 葛葉家のお義母さんから電話が来た。


 まずはあたしがこっちで恭一兄さんたちと上手くやれてるか聞かれて、仲良くなってると元気良く答えた。


 その次は、そろそろ葛葉の実家にあたしの部屋を作るので、一回長岡家に行って移したい荷物を纏めて置くように言われた。


 話はそれが全部だったので、挨拶のあと電話を切った。


 荷物か……。


 家具はそのまま置くとして、こっちに服を優先して持って来たから、本や小物とかかな。


 向こうに行ったら修二お兄ちゃんにも会えるかな?


 母さんに電話して今日行く事を伝え、お兄ちゃんが家にいるのも確認した。


 お兄ちゃんに会ったら、新しくこんなにかっこいいお兄さんが出来たとか、服やスマホを買って貰ったと自慢しようっと。


 あたしはスマホで撮った恭一兄さんとのツーショット写真を見てニヤニヤしながら、色々自慢する事ばかり考えた。




 電車と徒歩で三十分くらいかけて、元実家の長岡家に着いた。


 元実家……って少しアレな言い方だけど、あたしって今は葛葉だからちょっとした呼び分け。


 インターホンを鳴らすと、母さんが出て来て迎えてくれた。


 母さんもあたしについて色々心配してたみたいで、新しい家族の恭一兄さんやその幼馴染のイチゴ姉さんに優しくして貰って勉強を教えられたとか、服やスマホを買って貰ったのを教えた。


 恭一兄さんとのツーショット写真を見せると、母さんも恭一兄さんのイケメン振りに黄色い声を上げて紹介して欲しいとか言われて盛り上がった。


「リナ?戻って来たのか?」


 あたしたちの声が聞こえたのか、お兄ちゃんが部屋から出て来た。


「あ、久しぶりお兄ちゃん!見て見て、これ新しい服!恭一兄さんに買って貰ったんだー。可愛い?」


 あたしはすぐお兄ちゃんの前に立ちグルっと回って服を自慢した。


 お兄ちゃんはちょっとだけ面食らったみたい。


「ん、ああ。可愛い……けど、キョウイチ兄さんって誰だ?」


「あたしが養子になった葛葉家の義理のお兄さん。葛葉恭一っていうの。これが写真。このスマホも買って貰ったんだよ?」


 恭一兄さんとのツーショット写真が写ってるスマホの画面を見せた。


「なっ、こいつって葛葉恭一!?」


 写真を見たお兄ちゃんの顔色が変わった。


「そうだよ?同じ高校って聞いたけど知ってる人?」


「リナ!こいつと仲良くしちゃダメだ!こいつは女癖が悪くてとっかえひっかえしてるって噂なんだぞ!お前まで食われる!」


 そして聞かされた恭一兄さんの悪口に、物凄く嫌な気持ちになった。


 恭一兄さんが女癖が悪い?私が食われる?


 そんな訳ないのに。だってイチゴ姉さんとあれだけラブラブなんだから。


 今まで夜這いだってされてないんだし!


 大方恭一兄さんがイケメンだから女子が寄って来てそんな噂になったのだろう。


「そんな事言わないで!恭一兄さんはかっこ良くて優しくて良い人なんだから!」


「それはリナが騙されてるだけだ!」


 お兄ちゃんが反論するけど、あたしの目にはお兄ちゃんがただ恭一兄さんに嫉妬するみたいに映った。


 口論が続き、見かねた母さんがあたしとお兄ちゃんを引き離した。


 それから母さんはあたしに恭一兄さんについて詳しく聞いて、あたしは悔しさに泣きながらアパートに引っ越してからの事を全部話した。


 あたしの話を聞いた母さんは取りあえずあたしが話す恭一兄さんの人物像の方を信じてくれた。


 ただこれ以上この家にいると、またお兄ちゃんと喧嘩しそうになったから部屋の荷物だけ纏めてさっさと恭一兄さんたちが待つアパートに帰った。


 ふんだ!お兄ちゃんなんてもう知らない!あたしは恭一兄さんと仲良くするんだから!

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