第46話 いいよ(彩香side)
誕生日を教えてもらったあとも、それとなく八神くんの好みを聞き出したりしてた私。
でも八神くんは相変わらずで、私達の仲がどうにかなるような雰囲気はない。
「はぁ…」
「ため息?どうせまた八神くんでしょ?」
「まあ、そうなんだけど…」
もうすぐ三学期も終わる。
私は春休みが来るまでに、なんとかならないかと少し焦っていたと思う。
早川さんはそんな私に、淡々と語り始めた
「一つ言わせてもらうとね、七瀬さん、自分の立場、というか、どんなふうに男子から見られてるか、忘れてない?」
「え…」
そこから早川さんは、「嫌味じゃないからね?」と前置きしてから、高嶺の花の美少女だとか、男子からはそういう好意を嫌というほど集めているとか。とにかく、周りからの評価、そういういわゆるみんなの七瀬さん像を説明してくれた
「たぶん、入学してすぐは、よく告白もされたでしょ?」
「うん、まあ…」
「それで?今はどう?」
「今?今は…ないかな」
「でしょ?みんなにその話も広まってるもんね。だから手の届かない、違う世界の人だって思っちゃって、今はそれがもう定着したんだと思うけど?」
……そう言われれば、そうかもしれない。
私が何も言わず聞いていると、
「だからさ、八神くんもそうだと思うよ」
「え?」
「八神くんも同じように思ってるんじゃない?だから、私から見たら、あれだけ分かりやすく好き好きオーラ出してても、気付かないんじゃないの?」
「なっ!?ちょ、ちょっと?!」
「私は七瀬さんに聞いてて、知ってるからそう思えるのかもしれないけど、知らないみんなからしたら、たぶん、「あの七瀬さんがあの男子のこと好きなはずがない」って思って、なにも感じないんだろうね」
「そんな…そんなの……」
「それこそ、相手が柊くんとかなら、もう大変な騒ぎになってたと思うよ」
「そうなの…かなぁ…」
早川さんは「うんうん」って頷いてるけど、もし本当に八神くんもそんなふうに思ってるとしたら、少し悲しい
そう感じる私を察したのか、早川さんは
「でもね、ある意味ラッキーだよ」
「え?なにがラッキーなの?」
「だって、誰も七瀬さんの好意を知らないんだよ?今みたいに八神くんと二人で話してるとこ見ても、誰も変に勘ぐらないんだよ?それなら、いくらでもグイグイ行けるじゃん」
「そ、そんな…グイグイとか…」
「それにさ、もし今すぐ付き合ったとしても、ずっと取り繕ったままだと疲れるよ?もっと普通に接したら?」
「私は普通のつもりなんだけど…」
「今私と話してるよりかはいい子してるでしょ?」
「そりゃ、そうだけど、それって当たり前じゃないの?」
「まあそうかもしれないけど、せっかくなんだから、まずは友達らしいことからしてみるのもいいんじゃない?」
「友達らしい…って?」
「普通に話して普通に遊んで、一緒にごはん食べに行ったりとかさ、色々あるでしょ。変に気を使わないで、普通にしてみたら?せっかく春休みになるんだしさ」
「…分かった」
早川さんと話してるうちに、なんとなく気が楽になって、やるべき事が見えた気がした
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
終業式も終わり、ホームルーム前の休み時間に八神くんを見つけて、話しかける私
「春休みって忙しいの?」
「そこまでじゃないよ。たぶん暇」
「じゃあ、何してるの?」
「なんだろね。ゴロゴロしてるかな?」
え?ゴロゴロ?八神くんがゴロゴロしてるの?可愛くない?
「…やだ…想像しちゃった…」
「なにを?」
「こっちの話よ」
危ない危ない。
私の妄想がバレるところだった
そこからは取り留めのない話をしてたんだけど、やっぱりこのままだと、春休み中に彼と会うことは出来なさそうだな、って思う
私は覚悟を決めて八神くんに言う
「今日…終わった後、時間ある?」
「今日は部活もないし、すぐ帰るつもりだったし大丈夫」
「ちょっと、相談が…」
相談というか、お願いというか…
彼はすぐに「いいよ」って答えてくれて、私は嬉しくなるのと同時に、少し不安にもなるのだった
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
ホームルームが終わると、みんなこのクラスでの最後を惜しむかのように、まだ至る所で話してて帰る様子はない。
正直、私は今のこのクラスメイト達にそこまでの思い入れがなかった。もちろん、早川さんは別だけどね
「じゃあね。また同じクラスだといいね」
「うん。私も文系だから、たぶん一緒になると思う。それより、頑張ってね」
「うん」
少しだけ早川さんと話してから、私は八神くんのE組に向かう。
教室の中を覗いてみると、中ではまだ八神くんは、さっきのうちのクラスのように、男子達と話していた。
なんとなく羨ましく思いながら見ていると、私に気付いた柊くんが、彼を呼んでくれた
「七瀬さん?相談っていうのは?」
「あの、ここじゃなんだから」
「うん。分かった」
早川さんはああ言ってたけど、他の人達の視線をそれとなく感じる。でもみんなやっぱり、私と一緒に歩いてるのが八神くんだと分かると、すぐに興味をなくして
もう、それはそれでいいじゃない。
私だけが彼の良さを分かってるんだから
それから学校を出て、特に行先も決めてないけど、なんとなく駅前の方に向かって歩いて行く。
時間もお昼過ぎたし、食べ物屋さんの前では行列も出来てたりする。
(お昼…一緒にとか、無理かな…)
そんなふうに思ってると、隣で「くぅ~」って、可愛らしいお腹の鳴る音が聞こえた
(もう…八神くん…可愛すぎるんだけど)
そう思っちゃったら無性に手を繋ぎたくなったけど、いきなりそれも驚くだろうって思って、私は「お腹、減ったね」と声をかけた
八神くんは恥ずかしそうにしてるけど、そんなの気にしなくていいのに。
あ、そっか。八神くんもやっぱり私の前だと、そうなっちゃうのかな
辺りを見渡すと定食屋さんやオシャレなカフェ、牛丼のお店なんかもたくさんある。その中で私は、クラスで少し話題に出てたラーメン屋さんを見つける。
行ってみたいな、って思ってたけど、一緒に行けるような、誘えるような友達もクラスにはいなかった。だって、私がラーメン屋さんとか誘ったら、私のイメージが…なんて思ってたんだ、きっと。
でも、そんなのもういいじゃない。
私のことを、ちゃんと私のことを見て、好きになってもらいたい
「あ!あのお店入ろっか」
「え…?あそこでいいの?」
「うん。一度行ってみたかったんだ」
「そ、そうなんだ…」
八神くんは意外そうにしてたけど、まあそうだよね。列に並んでからも、彼はもう一度心配そうに「本当にいいの?」って聞いてくれたから、私も「いいよ」ってすぐに答えた
少し驚いてたふうだったけど、八神くんはすぐに笑顔で「分かった」って言ってくれて、一緒にメニューを選んでる最中、私は今までにないくらい、楽しくて仕方がなかった
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