第38話 ある意味(彩香side)
八神くんと一緒に勉強する約束をして、初めは普通に学校の図書館ででも、って思ったんだけど、もし誰かに二人で一緒にいるところをとやかく言われたら面倒だと思った私は、街の図書館に行くよう提案した
彼もそれに特に反対することもなくて、なんとなく私に言われるがまま、みたいにも見えたけど、まあそれはそれでいいよね
最初は八神くんの向かいに座って、彼の顔をチラチラ盗み見するように見て、一人密かに「はぅ…!」ってなったりしてたけど、そんなことばっかりやってるわけにもいかないから、隣に座ってちゃんと見てあげることに
図書館だし、あまり大きな声も出せないから、彼の耳元で小声で話してたけど、暫くすると、すぐに私は無理、ってなった
何が無理かって?
そ、そんなの、だって…きょ、距離が…!
八神くんの肩や腕に触れちゃって、「あ、思ってたより硬い。やっぱり男の子なんだ」なんて思ったら、も、もう…
気付いたら、いつの間にか私、彼に擦り寄るようにくっ付いてて、しかも、その…私の胸とか…彼の腕に当たってるのが分かって…
ふと彼の様子を伺うと、真剣な表情でペンを走らせてて、そんな八神くんにドキドキしてると、ふわっと彼の匂いがして…
くっ…!
もう…なんなのよ…これ…
私は、隣に座る八神くんに抱きつきたくなるのを必死に我慢して、そんな自分を落ち着かせるために髪を触ってみるけど、あまり効果なく、ドキドキは収まらない
でも、彼のためにもちゃんと教えてあげないと、という思いから、なんとか毎日冷静を装い、テストを迎えることが出来たと思う
八神くんも無事テスト期間を終えることが出来たようで、それは良かったんだけど、この時間が終わってしまうことを、少し残念に思う私がいた
(もう、二人で過ごすのもお終いかな…)
それでも、学校で彼と会うと話せることも多くて、前の時のように周りからチラチラ見られるようなこともなく、自然と二人で会話することがよくあった
そんなある日のお昼休み。
いつものように、早川さんと一緒にお弁当を食べながら話していると、彼女は声を潜ませて言ってきた
「そういえば、八神くんとは付き合えたんだよね?」
「ぅえ!?」
「いや、だって、よく二人で話してるし、この前までも、一緒に勉強してたんでしょ?」
「そ、そうだけど…あの、まだ…」
「え?本当に?」
「本当に…」
「あれ?ちゃんとバレンタインにチョコ渡して、告白したんだよね?」
「チョ、チョコは渡したけど…あの…」
「…ふーん。言えなかったんだ」
「やれやれ」みたいな感じで見てくるけど、そんな簡単な話じゃないのよ!
あれが私には精一杯だったっていうの!
「それで?「友達だからあげる」って?」
「くっ!…まあ、その…勢いで…」
「八神くんも八神くんだけど、七瀬さんも七瀬さんね。ある意味似た者同士なのかな」
「え…そんな…似た者同士とか…」
「あ、悪いけど、いい意味じゃないから」
「っ!」
なによ、もう…
ちょっと喜んじゃったじゃないの…
そんな私を置いといて、早川さんは「でもね」と話を続けた
「七瀬さん…もし、もしだよ?もし、八神くんが七瀬さんのことを、本当にただの友達だとしか思ってなくて、もし、仮に彼女ができたりしたらどうするの?」
「え!?」
「だってそうでしょ?もし八神くんのことをいいな、って思ってる子がいたとして、八神くんもその子のことをいいな、って思ったとしたら、そうなるよね?」
「そ、そんな…」
そ、そうか…そういう可能性もあったんだ。
八神くん、あんなにカッコいいんだから、私以外にも、同じように彼のことを好きな子がいてもおかしくないよね。
どうしよう…
「あ、あのさ、あくまで仮の話だから、そこまで落ち込まなくてもいいよ」
「だって…だって…」
「…本当に、どんだけ好きなのよ」
「ちょ、ちょっと!」
早川さんは「分かったから、ごめんごめん」と言って、私の頭をぽんぽんして謝り、思い出したように言った
「そういえば、ホワイトデーの予定は?」
あ…そうだ。そうだった
「楽しみにしてて」って言われたんだ…
もう…八神くんたら…
「え?なに?何がそんなに嬉しいの?」
「え!?いや、あの、そういうわけじゃ…」
「でも、その様子だと、何かいい事があるんでしよ?よかったね」
「…うん」
「もう、本当に可愛いんだから」
「いや!あの、ち、違うから!」
「はいはい」
もう…子供扱いして…
でも、早川さんのおかげで、ホワイトデーが楽しみで仕方なくなっちゃった。
もしかしたら…え?もしかして、その日、八神くんから…私…
この土曜日はお姉ちゃんとお出かけの約束してるし、ちょっと色々教えてもらって、新しいリップとか、買ってみようかな…
…って、え!?そんな…いきなり…
もう…私ってば…何想像しちゃってるのよ…
「楽しそうだね」とジト目の早川さんをよそに、その時の私はただ浮かれて、ホワイトデーの日に思いを馳せるだけだった
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