第12話 フロスト流! 魔法の授業!

「お嬢様、クレア。今日はお疲れさまでした。今日はクレアの分も夕食を用意しますので、お二人は先にお風呂にゆっくりと浸かってきてください」


「あら、サラから三人での食事の提案なんて珍しいわね。是非お願いね」


「いいんですかっ! ありがとうございます、サラさん!」


「お嬢様も元々そのつもりだったでしょう?」


「うっ、まぁ、そうね」


「専属メイドですからね、お嬢様を手のひらで転がすことなど造作もありません」


「もうっ! でも食材の準備ももう済んでるんでしょ? 頼むわね」


「承知しました」


 二人で寮の浴場でゆっくりと湯船に浸かっていると。


「お姉様、お痩せになりましたね」


「え? え? え? そ、そ、そうかしら? そうかしら?」


「そうですよ。私に無詠唱魔法を教えてくれている間にもサラさんと訓練はしてましたもんねっ。今日は今日で走ってましたし」


「そ、そうかなぁ? えへ、えへへへ」


 人に痩せたって言われると、めちゃくちゃ嬉しい。

 自分でもちょっとお肉が減ったかなぁなんて思っても、常人からすれば誤差かもしれないと思うと自分からその話題を出すことは不可能だ。

 気分的に。


 けれど他人から言われればそれはもはやそれは確信だ。

 私は痩せた。

 まだまだわがままなボディであることには変わりないんだけど、千里の道も一歩から。

 あとでサラにもそれとなく聞いてみよーっとっ。




「ねぇサラ。私なんか変わったと思わない?」


 しなを作ってポージングを取りながらサラに聞いてみる。


「……。椅子に座りながら奇怪な動きをされるとは、少々頭がおかしくなりましたか?」


「おい、表出ろ」


「失礼しました。入学前よりは少しまし程度にはお痩せになられたと思います」


「でしょでしょ~?」


「やっぱり頭が……」


 聞こえない聞こえなーいっ! サラが言うならやっぱり間違いないわ。

 しかも入学前よりも痩せているなんてっ! このままいけばバラ色の学院生活が待っているに違いないわっ!


「サラ、これからも食事の改善と訓練をお願いね」


「承知しました。お嬢様」


 食事をしながら我ながらアホみたいな会話をして、十分に楽しんでいるとデザートタイムに突入だ。

 本日のデザートは、前世でいうプリンだーっ!!


 触感やら味は違うのだけど、これはこれで美味しい。

 しかも生クリームがトッピングされている。

 いつもより量も多く大変豪華である。


「今日までお二人とも大変頑張っていらっしゃいましたね。お疲れさまでした。私からのねぎらいの品というと大げさですが、どうぞデザートを召し上がってください」


「サラ、ありがとう! 大好き!」


「あ、ずるいですっ。私も明日沢山お弁当作っていきますねっ」


「クレア、せっかくお嬢様が痩せたのだから、程ほどにしてね」


「明日だけは特別ですっ」


 ふぅ、やれやれだぜ。

 なんやかんやでまた深夜まで三人でおしゃべりをしてみんなで眠りについたのだった。




 次の日、約束通りに授業の後は無詠唱魔法について私がみんなに講義をする。


 参加者はクレア、ジョルジオ様、スイフト様といった試合に関係していたモロック様以外のメンバーと、なぜかサラ。

 護衛の一環でちゃんとした知識を知っておきたいのだとか。


「い、一番高い茶葉でお願い」


「心得ております」


 サラも参加するので従者も入れるサロンに行き、紅茶をサラに入れてもらってみんなに振る舞う。




「それでは、無詠唱魔法についてお話しさせて頂きます。少し言葉が崩れてしまうと思いますが、ご容赦下さいね。それとせっかくこのように皆さんと交流が持てるようになったのです。どうぞわたくしのことはフロストとお呼び下さい。それでは早速始めます」


 まず、無詠唱魔法の話の前に詠唱魔法について理解しておかなければならない。

 これはある程度授業でも習うがおさらいのために説明をした。


 詠唱魔法は精霊に魔力を渡して、『精霊が』魔法を発動する。

 その際に人間は発動してもらうための魔力と精霊へのお礼として少しばかりの魔力を渡している。


 精霊にお礼を渡せるのが、祝福を授かった精霊とだけ魔力が通じ合うからで、一つの属性しか魔法を使えないと言われている。


 精霊にどの魔法を使ってもらうかを決めるのが詠唱と魔法名になる。

 面白い所は詠唱で使う言葉を一部変えると、威力や範囲などが変わったり、魔法が発動しなかったりもする。


 例えば、試合で使った時のウィンドカッターの詠唱は「世界を巡る風よ 駆ける力を刃へと変え 疾く速く敵を切り裂けっ ウィンドカッター」だったけど、「速く」を「広く」にすると、広範囲の風の刃が飛んでいく。


 今度は、「刃」を「弾」に変えると、魔法が発動しなくなる。

 「弾」に変えた場合は「切り裂け」を「穿て」に変え、さらに魔法名「ウィンドカッター」を「ウィンドバレット」にすると魔法が発動する。


 なんとなくわかるかもしれないけど、詠唱と魔法名には関係性がある。

 「ウィンドカッター」の場合は、「刃」と「切り裂け」。

 「ウィンドバレット」の場合は「弾」と「穿て」。

 ウィンドランスなんかも穿てだったりするので、少々ややこしいけど暗記するしかない。


 実際に詠唱と魔法名を覚える際は、使用する魔力量と効果のバランスがいいものが教科書や魔法に関する情報が記載されている通称「魔法書」と呼ばれる本に乗っているので、あまり意識する必要はない。

 先人達の努力の結晶だね。


 誰でも同じ効果・威力を出せる詠唱魔法だけど、制限が存在する。

 祝福を受けた精霊の格によって使える魔法が制限されてしまうのだ。

 私は風の精霊王であるシルフィード様から祝福を頂いたので、現在記録されている風の魔法は理論上全て使うことができる。

 暗記していないけど。


 でも、力の弱い下位の精霊から祝福を授かった人は、下位と分類される魔法までしか使えない。

 中位精霊から祝福を授かった人は中位の魔法まで。

 中位精霊の上は上位精霊で、最上位が精霊王になる。


 他にも、才能というかセンスというか、精霊への声の届けやすさって言ったらいいのかな?

 そういったものも存在する。


 詠唱には一定のリズムが重要なんだけど、これが人や魔法によってまちまちなのだ。

 だから、どんな魔法も最初から使える人は少なかったりするし、中位の魔法だと詠唱にも魔力を乗せる必要があって下位と比べると急激に難易度が上がる。

 なので少なからず練習が必要なんだけど、クレアはこのセンスが抜群みたいで以前にホーリーシールドを一回で発動している。

 中位の魔法もきっとすぐ使えるようになるだろう。

 いやぁ素晴らしい逸材だね。




「ここまでは授業で習った部分も多いかと思います。ここから先は無詠唱魔法についての話です。何故授業で取り扱わないのかですが、基本的に無詠唱魔法は効果と労力が合わないことと、今ある・・・詠唱魔法で事足りるので、ほとんどの人が無詠唱魔法を学ばないのです。そもそも無詠唱だと魔法を使えない人もいますしね」


 まず、無詠唱魔法は精霊ではなく、術者自身が魔法を発動するのが大きな違いだ。


 魔法を発動するために大事なことは二つ。

 発動したい魔法の現象を明確にイメージすること。

 イメージに自分の魔力を混ぜること。


 これはできない人には一生できないと言われているくらい難しい。

 しかも、無詠唱魔法を使える人に聞いてもそのアドバイスは千差万別。

 私の場合は胸にあたりに魔力を感じるようにして、それを発動したい魔法に変えていっているんだけど……。


 実際に私がどうやっているか、他の人がどうかはひとまず置いておく。


 ここで無詠唱魔法のメリットとデメリットについて。


 メリットは既存の詠唱魔法は決まった効果の物しか使えないのに対し、無詠唱魔法はかなり自由に魔法を使うことができる。

 例えば自己紹介で自分の周りにだけ風を吹かせたり、エフェクトとして光をキラキラさせたり。

 え? そんな物必要ないですって? 殿方はロマンが分かっていませんね、ジョルジオ様。


 デメリットは大きく二つ。


 一つは使用する魔力量が効果に対して大きすぎること。

 単純に人間のイメージで魔法を使うには無駄が多すぎるのだ。

 詠唱魔法と無詠唱魔法で全く同じ効果の魔法を使った場合、無詠唱魔法は詠唱魔法の三倍から四倍以上魔力を消費すると言われている。

 実際に詠唱魔法を限界まで使った回数と無詠唱魔法を使った時の回数による検証がされている。

 もちろん、魔力に無駄の少ない人もいるようなので、概ね三倍から四倍と言った所。


 もう一つは複雑になればなるほど発動までに時間がかかること。

 イメージ、魔力を混ぜる、発動の三ステップになるし、何よりイメージに魔力をスムーズ混ぜることが難しい。

 ただ、これはひたすらに同じ魔法を数千回と使い続ければほぼノータイムで使うこともできるので、最終的にはメリットとも言える。

 けど、一つの魔法を使い続けるんじゃせっかく自由に魔法を使えるというメリットを潰してしまうという欠点もある。


「無詠唱魔法についてはこんな感じでしょうか。ここまでで何か質問ありますか?」

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